ジャズ

2008年7月27日 (日)

ヴィクター・ルイスを聴く

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ヴィレッジ・ヴァンガードへヴィクター・ルイスを聴きにいく。

僕がヴィクター・ルイスを初めて聴いたのは、マンハッタン・ジャズ・クインテット(MJQ)のメンバーとしてだった。初代ドラマーのスティーブ・ガッドにつづく2代目。1990年代に来日したときのシャープなドラムが印象に残っている。晩年のスタン・ゲッツのアルバムにも参加していたと思う。

ニューヨーク滞在も残り少なくなり、日本からやってきたかみさんの「ジャズらしいジャズを聴きたい」って希望で選んだ。

MJQと同じクインテット編成で、メンバーはシーマス・ブレーク(ts)、シーン・ジョーンズ(tp)、ブルース・バース(p)、エド・ハワード(b)。最初にハービー・ハンコックの曲をやった以外、すべてルイスのオリジナル曲を演奏した。

「デクス・マクス」というのはデクスター・ゴードンにちなんだマイナー・ブルース。ブルースといってもこてこてではなく、今ふうな演奏なのがMJQと似てる。全体として現代的なハードバップという感じ。

MJQは腕っこきの職人的ミュージシャンのグループだから、アンサンブルは見事だし、ソロも聞きごたえ十分で、聞き手を心地よく乗せてくれるけど冒険には乏しい。その点、今日のグループはリーダー以外は若く、腕にばらつきがあるけど、そのぶん個性を押し出そうと力いっぱいにプレイするのが気持ちいい。特にセンスのいいピアノと、パワフルなアフリカ系の若いトランペットがいい。

「クロイスター」は、そのトランペットをフィーチャーして、ベースと、ルイスのドラムによるトリオ。トランペットが吼えまくる。

ルイス以外、名前を知らないミュージシャンだったけど、やっぱりこの町にはすごいプレイヤーがごろごろしてる。

ルイスはリーダーといっても、俺が俺がというタイプでなく、若いメンバーに存分にやらせている。切れのいいドラミングで彼らをサポートし、煽りたて、ここぞというときにガツンと決める。曲も印象的なテーマが多く、作曲家としてもいい腕だね。

ウェス・モンゴメリーやウィントン・ケリーのようにスイングするジャズが好みのかみさんも満足しておりました。

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2008年7月22日 (火)

チャック・マンジョーネを聴く

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チャック・マンジョーネはフュージョン系のミュージシャンで、ちゃんと聴いたことはない。

でも何曲目かで「自分の大好きなディジーとマイルスのために」と言って自作の「ディジー=マイルス」を、フリューゲル・ホーンにミュートをつけて吹きはじめたときにはうなった。うーん、さすがにストレート・アヘッドなジャズをやらせてもすごいな。

マイルス・デイビスのミュートを思わせるテーマだけど、マイルスのように重く鋭くはない(トランペットでなくフリューゲル・ホーンのせいもある)。マイルスの訥々とした内省的な音づかいとはかなり違う印象(先週、エディ・ヘンダーソンを聴いたけど、彼こそマイルスの音だった)。

チャックの音は彼のもう一人のアイドル、ディジー・ガレスピーに近い。明るく弾んでいて、スタイリッシュな心地よさにあふれている。アドリブになるといよいよそれがはっきりして、うむ、彼のアイドルはやっぱりディジーなんだな。

エディ・ヘンダーソンが現代的なマイルスだとすれば、チャック・マンジョーネは現代的なディジーとでも言ったらいいのか。

バンドはキーボード、ベース、ドラムスにギター、サックス(フルート)の6人編成。さすがに皆すご腕。

ヒット曲「フィールズ・ソー・グッド」はじめ、ラテン・フレーバーにあふれた楽しいナンバーを1時間半、たっぷり聴かせてくれた。

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2008年7月 5日 (土)

タバキン=秋吉カルテットを聴く

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バードランドでルー・タバキン=秋吉敏子カルテットを聴く。

メンバーはタバキン(ts,fl)と秋吉(p)に、ピーター・ワシントン(b)、マーク・テイラー(ds)。

オープニングは秋吉の代表作「ロング・イエロー・ロード」から。タバキンも秋吉も1曲目から全開で、客を一気に乗せる。

2曲目は熱い演奏から一転、スローに。タバキンが安部公房「砂の女」にインスパイアされてつくった「デザート・レディ」。サックスをフルートに持ちかえたタバキンが東洋的なメロディを瞑想的に吹く。3曲目は秋吉がチャールズ・ミンガスに捧げた「フェアウェル・トゥー・ミンガス」。

僕は秋吉とタバキンが1970年代から2003年までやっていたビッグ・バンドを、ちゃんと聴いたことがない。テレビで2度ほど見たけど、さほど魅力を感じなかった。ま、もともとビッグ・バンドにさほど興味がなかった、ってことなんだけど。

それ以前、渡米した秋吉が1954年に最初に出したアルバム「ザ・トシコ・トリオ」は昔よく聴いた。

この日の彼女のピアノは、その若いころのアルバムを思い出させた。ぽきぽきしたタッチ。微妙な間の取り方。やっぱりビッグ・バンドより小さなグループのほうが彼女の個性がよく分かる。秋吉はいくつになってもバド・パウエル直系のバップ・ピアニストなんだなあ。20代の若々しさをそのまま保ったピアノが素敵だ。

タバキンをちゃんと聴くのも初めて。太く男性的なビッグ・トーンで時に激しく、時に柔らかく吠える。それでいて、俺が俺がという押しつけがましさのない上品なサックス。

ステージ真下のテーブルだったので、息遣いまで生々しく聞こえる。サックスと身体が一体になって踊るように吹くから、いま彼がどんな音を出したいか、何をしたいかが見た目にもよく分かるし、楽しい。

ステージは、タバキン抜きのピアノ・トリオで1曲(バド・パウエルがよく弾いた曲。タイトル失念)、秋吉抜きのトリオで1曲。最後にカルテットでもう1曲。

このグループはタバキンがリーダーになっている。キャリアからいえば秋吉のほうがタバキンより上だけど、彼女が音でも態度でもご亭主をサポートしているのが可愛い。

秋吉敏子とルー・タバキンの魅力を今更ながら感じた夜だった。

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2008年5月15日 (木)

アーマッド・ジャマルを聴く

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ジャズ好きの知人夫婦が日本から来ていて、おとといのバードランドに続いて今日はブルーノートへ出かける。

アーマッド・ジャマルといえば、1950年代、マイルス・デイビスが自分のグループのメンバーに迎えいれようとしたとき、「帝王」の申し出を断ったピアニストとして知られている。音楽的にも、マイルス自身アーマッドに影響を受けたと語っている。

もっとも私は30年ほど前にジャズ喫茶で何回か聞いた程度で、その後はとんとご無沙汰してる。

今日のメンバーはジェームズ・カマック(b)、アイドリス・ムハマド(ds)のレギュラー・トリオにマノロ・バドレーナ(per)が加わったカルテット。今月発売された新譜「It's Magic」と同じ面子だね。

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(フラッシュを焚かなければ写真OKのことが多いけど、今日は「ノー・フォトグラフィー」とのことで写真はなし)

「伝説的」ピアニスト、しかも日曜の夜とあってブルーノートは満員、1席も空いていない。バーには立ち見の客もいる。

アーマッドは78歳だからかなりの歳だなと思っていると、背筋をしゃんと伸ばし確かな足取りでステージに上ってきた。ピアノの前に座り、ぱらぱら音を出したかと思うと立ち上がり、椅子の高さを調整させる。貫録十分。

曲は多分、新譜に収められたオリジナル曲ばかり(1曲だけスタンダードを弾いたが、曲名思い出せない)。よくスイングする美しいシングル・ノートと、オクターブ奏法っていうのかな、オクターブ違いの音を重ねた力強いアドリブを組み合わせた演奏で、聴く者をぐいぐい惹きつける。

シングル・ノートのフレーズがまだ続きそうなところでアーマッドは突然弾くのを止め、ベースやパーカッションを指さす。一瞬の沈黙。指さされたベースやパーカッションが親分の指示に従って、ピアノの音が消えた空白を埋めてゆく。

そんな「間」の取り方と、シングル・ノートからオクターブ奏法に変化するタイミングの意外さ、ピアノからベースやドラムスへと受け渡すタイミングの意外さが新鮮で、そのあたりがマイルスにインスピレーションを与えたんだろうか。

78歳の音楽とは思えない若々しさ。1時間余りの短い演奏だったけど、誰もが堪能して拍手、また拍手でした。

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2008年5月12日 (月)

レジーナ・カーターを聴く

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知人夫妻とレジーナ・カーターを聴きにバードランドへ出かける。

レジーナ・カーターはアフリカ系のジャズ・バイオリニスト。名前は知っていたけれど、聴くのははじめてだ。バンドは彼女のほかにアコーディオン、ギター、ベース、ドラムスのクインテット。バイオリンにアコーディオンという組み合わせからどんなジャズが聞こえてくるのか、見当もつかない。

「今日は次のアルバムのために準備している曲をやります」とレジーナが挨拶して、演奏が始まる。

美しいメロディを持ったオリジナル曲。カントリー&ウェスタン。クラシック。アフリカ的なサウンドの曲。ジャズのスタンダード。

カントリー&ウェスタン(タイトル思い出せない。有名な曲)では西部の香りが漂う。バイオリンとアコーディオンの音からは、映画『荒野の決闘』の野外パーティでヘンリー・フォンダ演ずるワイアット・アープがクレメンタインと照れながらダンスを踊るシーンを思い出した。クラシック(これもタイトル思い出せない)は途中からジャズのリズムになる。

とはいえバイオリンはなかなか激しいリズムには乗せにくいから、いわゆるジャズ的な興奮とはちょっと違う。

ジャズ・バイオリンといっても、寺井尚子みたいなオーソドックスな方向ではなく、ジャズを含め色んなジャンルの素材を使って新しい音楽をつくろうとしているように聞こえた。

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2008年4月 6日 (日)

BAMカフェ・ライブ

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アパートから歩いて7、8分のところにブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック(BAM)がある。もともと19世紀にブルックリン・シンフォニー・オーケストラの本拠地としてつくられたものだが、その後、音楽だけでなくアート全般のブルックリンの中心地として機能してきた。

実際、映画も新旧の名作を上映していて、つい2日前にアンドレイ・タルコフスキーの『アンドレイ・ルブリョフ』を見てきたところだ(モノクロームの画面の美しさに息を飲む!)。階段の壁には『仁義なき戦い』の菅原文太のポスターが貼ってあり、5月に上映されるとのこと。これも久しぶりに大画面で見てみたい。

ここの2階にカフェがあり、金曜と土曜の夜には無料のライブがある。無料といっても、プログラムを見ると若くて実力のありそうなミュージシャンが出演している。数カ月前、ブロードウェーのジャズ・クラブ、イリディウムで聴いたピアニストが若くて生きがよかったので、彼のホームページを見たらBAMカフェに出ていたのを知って残念に思ったことがある。

4日の夜は、Souljazz OrchestraとKobo Townという2つのグループが出演する。

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開演の午後9時近く、カウンターで飲みものを買った人たちが思い思いに席に座っている。僕の前のテーブルに家族と座っていた30代のアフリカ系男性が、後で分かったのだがこのライブのキュレーターで、それまで男の子と話していた彼が立ってマイクを握り、グループを紹介してライブが始まる。いかにも手づくりの感じがいい。

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Souljazz Orchestraは、キーボード(voも)、アルト、テナー、バリトンの3本のサックス、ドラムス(vo)、女性ボーカルの6人グループ。

アフロ・ビートっていうのかな。紹介のなかでアフリカのジャズ・ミュージシャン、フェラ・クティの名前が出てた。キーボードとドラムスが繰り出すアフリカ的なリズムに支えられて3本のサックスが強烈な短いフレーズを繰り返し、その上に「ピープル」「フリーダム」といったメッセージ性の高い言葉が乗る。 バリトンのぶりぶりと野太い音が身体に響く。

次のKobo Townはカナダのトロントから来た4人のグループ。といってもカナダを感じさせる要素はなくて、カリブ海のカリプソを今ふうに演奏する。トリニダード・トバゴのパーカッショニストがトロントに来たのをきっかけに結成されたそうだ。今日はSouljazz Orchestraのドラムスも加わっての演奏。

リーダーのボーカルはパキスタン系(!)カナダ人で、カリブのカヴァキーニョ(小型ギター)も弾く。ものすごく訛りの強い英語で、ほとんどの曲を英語以外の言葉(独特のクレオール語?)で歌ってるんだと最後まで思ってた。カリプソの南国的なメロディーと、レゲエとはまた違う強烈なベースとパーカッションのリズムが心地よい。

あちこちで女性が踊っている。長髪を後ろで束ねたキュレーターの男性も母親(?)らしい女性と踊りはじめた。

2つのグループともに、メンバーも音楽の中身も国籍など関係なくミックスされ、混沌としたなかから何かが生まれようとしている。ニューヨークで聴くにふさわしい。そんな印象を持った。ここのライブ、また行くことになりそうだ。

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2008年3月17日 (月)

スティーブ・キューンを聴く

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スティーブ・キューン(Steve Kuhn)は、僕がいまいちばん好きなジャズ・ミュージシャンだ。スタンダードをリズミカルに弾くときも、自分の曲をやや実験的な音使いで演奏するときも、いつも新鮮なフレーズで型にはまらず、しかも楽しいジャズを聴かせてくれる。

東京で2度ほど聴いたことがあるけど、そのときのトリオは若いメンバーで、しかも1度は女性ヴォーカルのバックだった(もったいない)。この日バードランドに出たトリオは、ベースにロン・カーター、ドラムスがアル・フォスターと、これ以上は望めないメンバーで、2年前に出たアルバム「Live at Birdland」と同じ場所、同じトリオ。

濃紺の地味なスーツでステージに上がったスティーブは2年前のライブにさらりと触れ、来年もまたここへ戻ってこられるといいんだけど、と淡々とした口調で加えた。

ロン・カーターは、スティーブの紹介と客席の拍手にもほとんど表情を変えず、目をつむったまま顔をベースの棹に近づける。シャイな彼らしい。アル・フォスターもちょっと笑顔を見せただけで、いかにも大人のトリオといった印象。さりげなく、静かに演奏が始まる。

「ライク・サムワン・イン・ラブ」などスタンダード2曲から入り、スティーブ・スワローの曲で「レディ・イン・メルセデス」。これがとてもリズミカルな曲で客席が乗る。次の自作曲では、低音で語るような歌をちょっとだけ披露し、アドリブも早弾きのフレーズを繰り返しながら次々に変化させてゆく表情豊かなもの。素晴らしい。

スティーブ・キューンのピアノを何と形容したらいいんだろう? 知的な抒情? 冷たい官能? うまく言い表せないけど、アフリカ系ピアニストのノリとはまったく別系統のクールな音。

アフリカ系ピアノのノリが聴き手の身体を直に揺さぶり、気がつけば身体が自然に動いているのに対して、スティーブの音を聴いているとまず脳が反応し、身体より先に脳が陶酔して、その後じわっと体全体に沁みてくる、と言ったら少しは分かっていただけるだろうか。彼のピアノに身も心も預けて聴いているのは無上の快楽なのだ。

このところ日本ではピアノ・トリオのスタンダード集が大人気で、毎月必ず何枚かの新譜が出る。スティーブ・キューンも例外じゃないけど、ほかのピアニストのアルバムは10回ほども聴くと飽きがくることが多いのに対して、彼のアルバムはこの10年ずっと聴いているけど、聴くたびに新鮮な感動をおぼえる。

ステージは一転してロン・カーターの静かな曲「リトル・ワルツ」。印象的なテーマをもった曲で、ロンのベースは相変わらずよく響く。アル・フォスターは控え目ながら、決めるべきところでびしっとと決める。

つづけてビリー・ホリデイが愛唱した「ドント・エクスプレイン」。最後は、自分が最初に働いたバンドのリーダーの曲と紹介して、ケニー・ドーハムの「ロータス・ブロッサム」。50年代ハードバップふうな曲が、スティーブの手にかかるととても現代的に聞こえるから面白い。

7曲、1時間半。なんとも贅沢なナイト・アト・バードランドでした。

ところで、彼はブルックリン生まれのブルックリン育ちらしい。そう聞くと、いっそう親近感が増す。

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2008年3月10日 (月)

ヴィレッジのジャズ・クラブで徹夜

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近所のyuccaさん夫妻に誘われて、土曜の深夜、ウェスト・ヴィレッジのジャズ・クラブ「smalls」に出かけた。ヴィレッジ・ヴァンガードの近く、西10丁目に面して目立たない入口がある。ガイドブックに載っているような店ではないから、誘われなければ来ることはなかったろう。夫妻に感謝。

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店のビラには「NY's Cutting Edge Jazz Club」とあった。とんがったジャズ・クラブ、ってとこかな。

店はカウンターと椅子席で、30~40人で一杯になる適度な密室感。パーカーやマイルスの写真が飾られた店内はいかにも手づくりで、寄せ集めの椅子やベンチやソファーにカップルが思い思いのかっこうで座り、リラックスしてジャズを聴いている。観光客の姿はない。20ドルのチャージ(週末はドリンク別)で、出入り自由、夜通しいても構わない。

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この日は土曜の夜とあって、3グループが出演する。店に入った午後11時には、2グループ目のEmilio Sosa & Tango Jazzが演奏していた。

ピアノ・トリオにテナー・サックスとアコーディオンのクインテット。メンバーはアメリカ在住のラティーノ(アルゼンチン? スペイン?)だろう。バンドネオンでなくアコーディオンが入っているのは、コンチネンタル・タンゴのミュージシャンだからか、あるいはバンドネオンではジャズのリズムとインプロビゼーションに対応しにくいのかも。

タンゴやミロンガや、マイナーな旋律の曲。タンゴとアヴァンギャルド・ジャズが混交したみたいな、魅力的な演奏。東欧のロマ・ブラスバンドの匂いもある。皆かなりの腕ききと見たけど、なかでもアコーディオンのインプロビゼーションは、初めて聴いたせいもあるけどすごかった。

世界中のあらゆる文化が交錯しているこの街で聴くにふさわしい。客もおおいに盛り上がり、楽しんでいる。

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午前1時からは、3グループ目のHarry Whitakar & "moment to moment"。ハリー・ウィテカーといえば、1970年代から活躍し『ブラック・ルネサンス』や『ソート』など何枚ものアルバムを出しているベテラン。そんな実力派のミュージシャンが深夜のヴィレッジで演奏するのが素敵だ。

演奏が始まるちょっと前に現れたウィテカーは、ご覧のようにお腹がぽこんと突き出して、歩くのも辛そう。病気でもしたんだろうか。

ベース(女性)、ドラムス、サックス&フルート(女性)の若いミュージシャンを従えての演奏。若い3人はまだ修行中といった音で、自分の演奏だけで精いっぱい。カルテットとしてのグルーヴが出なくて、ハリーのピアノだけが突出している。とはいえ、親しみやすい、ノリのいいピアノを聴いているだけで快い。

午前3時近く始まったセカンド・セットでは、クラブにふらりと現れたらしいトランペットが加わった。

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どこかの仕事を終えて顔を出したんだろうか、中年のこのトランペット吹きがなかなかの腕。若い3人は置き去りにされて、トランペットとピアノの素晴らしいインタープレイが始まる。ジャズのライブは、ときどきこういうことが起こるから面白い。トランペットにインスパイアされて、ハリーも長く見事なアドリブを聴かせてくれる。眠気もふっとんでしまった。うーん、いいなあ。

ところで、この日の深夜、アメリカは冬時間から夏時間へとシフト。時計が午前2時を打った瞬間が、そのまま午前3時になる。1時間がどこかへ消えてしまった。でもこういう音楽を聴いていれば関係ないか。

たっぷりと5時間。ニューヨークへ来て初めての朝帰りで、アパートの守衛の兄ちゃんに「グッド・モーニング」と挨拶された。

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2008年3月 4日 (火)

ドン・フリードマンを聴く

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ニューヨークに戻った翌日、『ヴィレッジ・ヴォイス』のジャズ欄をチェックしていたら、次の日に1日だけ、それもランチタイムにドン・フリードマンがブルーノートに出ることを知り、さっそく予約を入れた。

ドン・フリードマンといえば、僕にとっては「サークル・ワルツ」の印象があまりに強い。

1962年録音のこの曲を初めて聴いたのは、まだウィントン・ケリーはじめハードバップ系のピアノばかり聴いていた時代だった。ワルツの3拍子に乗せた忘れがたいメロディーは闇夜に一瞬浮かんでは消える花火みたいな脆い美しさを持っていて、ビル・エバンスとともに白人ジャズ・ピアノの素晴らしさを教えてもらった。

この日は、ドン・フリードマン&NYUジャズ・ファカルティ・カルテットとしての出演。彼はニューヨーク大学(NYU)でジャズを教えていて、その教授陣によるカルテットということらしい。長老格のドン以外は、アルト・サックスはじめ30~40代の若いメンバーで組まれている。

スタンダードの「It could happen to you」から入り、ヘンリー・マンシーニの曲やベーシストのオリジナル・ブルース、スローバラードをはさんで、最後にまたスタンダードの「I hear a rhapsody」の5曲。

どの曲も、そこここにドンらしい叙情的な音が散りばめられている。叙情的ではあるけれど、マンシーニの曲をやってもべたっと甘くならないのがドンらしい。

自作曲を演奏しなかったので「サークル・ワルツ」みたいな斬新な音使いこそ聴けなかったけれど、安心して身も心も預けられる演奏。ブルースと「I hear a rhapsody」では、アルト・サックスとのインタープレイで大いに盛り上がる。

ちょうど1時間。ミュージシャンも聴くほうもエンジンがかかってきたところで終わってしまったのは残念だけど、ランチにドリンクつきで30ドルでは仕方ないか。

帰り際、あなたの「サークル・ワルツ」は僕の愛聴盤ですと握手を求めたら、ご老体、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。

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ブルーノートを出たら、すぐ近くの映画館IFCセンターで看板の文字を交換していた。劇場の文字看板は昔から写真の素材になるほどニューヨークらしさのひとつだけど、なるほど、こんなふうに換えるのか。

先月、『4Months, 3Weeks and 2Days』を見たところ。主に外国映画やインディペンデント系の作品を上映し、設備も新しくゆったりしていて、お気に入りの映画館です。

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2008年1月28日 (月)

エディ・ヘンダーソンを聴く

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先日、カーティス・フラー75歳誕生日ライブに行ったとき、ゲストで出ていたエディ・ヘンダーソンのトランペットを初めて聴いて心に染みた。「ヴィレッジ・ヴォイス」を見ていたら彼のグループが出演するとあったので、アッパー・ウェスト・サイドのライブ・ハウス、スモークへ出かける。

ここへ来るのは初めて。こじんまりとして、内装はブラウンに統一され、落ち着いた雰囲気の店だね。

「ヴォイス」の広告にはカルテットとあったけど、演奏の準備がはじまったステージを見るともうひとり、やはりフラーの誕生日ライブに出ていたレネ・マクリーンがいるではないか。今日はトランペットとサックス2管のクインテットということになる。

きっとあの日、ヘンダーソンがマクリーンを気に入り、「今度俺のライブがあるんだけど吹かないか」とでも誘ったんだろう。こういう出入り自由というか、いいかげんなところがジャズの面白さでもあるよね。

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ケビン・ヘイズ(p)、エド・ハワード(b)、スティーブ・ウィリアムス(ds)のトリオがイントロを演奏しはじめ、おいおいエディはまだ客席だよと思ったらマイク脇をするりと抜けてステージに上がり、ほんの一瞬遅れたか遅れないかのタイミングでミュートでメロディを吹きはじめる。ミュージカル「オクラホマ」のナンバー。

絶妙のタイミングでの入り方。ミュートのすがれた音。メロディアスな歌もの。最初の1曲、ほんの数十秒で、彼の深々とした世界に引きずり込まれてしまった。

エディ・ヘンダーソンをこれまで聴いたことはなく、70年代にはハービー・ハンコックのバンドでフュージョンをやってたんだよな、くらいの記憶しかない。いま聴くエディは正統派のジャズそのもの。

時にフリューゲルホーンに持ちかえながら、トランペットにはミュートをつけることが多い。演奏したのはウェイン・ショーターの「エル・ガウチョ」、美しい旋律をもつ「ディア・オールド・ストックホルム」、名曲「ラウンド・ミッドナイト」など。ミュートの多用といい、曲目といい、すべてがマイルスを指してるな。

それもそのはず。エディはもともと医者でアマチュア・プレイヤーだったのが(エディ・”ドクター”・ヘンダーソンと紹介されてた)、マイルスの演奏に接してぶちのめされ、「プロのミュージシャンになろう」と決心したのだという。マイルスの音には、医者という収入もステイタスも保障された職業を捨てさせるほどの魅力があったということだろう。

そういえば、レネ・マクリーン(ts,as、ジャッキーの息子です)の加わった2管のクインテットもマイルス・バンドの編成と同じだね。マイルス・バンドの歴代テナーはコルトレーン、ショーターととびきりの大物だけど、マクリーンの野太いテナーとヘンダーソンの突き刺さるようなミュートの対照で聴かせる今日のバンドもマイルスを思い起こさせた。

なんというか、夜が深くなる音。そんなふうに思わせる感覚はジャズの、それも限られた瞬間にしか訪れない。それが来たときの幸福感が応えられない。

シャーリー・ホーンのバックを務めたスティーブ・ウィリアムス(彼もまたマイルスと共演してる)の、柔らかでシャープなドラミングにもしびれた。

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