『ホェア・イン・ザ・ワールド・イズ・オサマ・ビン・ラディン?(Where in the World Is Osama Bin Laden?)』
僕は見てないんだけど、ビッグ・マックを30日間食べつづけて話題になったドキュメンタリー『スーパーサイズ・ミー』をつくったモーガン・スパーロックの新作。前作と同じようにスパーロック監督自身が「主役」で、「オサマ・ビン・ラディンはどこにいるんだろう?」と人々に質問しながらイスラム諸国を駆けまわる。
もっとも「アラビアのロレンス」と「地獄の黙示録」を掛けあわせたみたいなポスターを見ても分かるように正統派のドキュメンタリーではなく、映画全体がゲーム仕立てになっている。
ビン・ラディンがアニメの悪役キャラクターになって登場する。モロッコ、イスラエル、サウジアラビア、アフガニスタン、パキスタンなど、訪れる国ごとにチャプターに分けられ、チャプターが進むごとに、監督がビン・ラディンに少しずつ迫ってゆく(ほんとか?)仕掛け。
スパーロック監督はまずエジプトを訪れ、市場の人々に「オサマ・ビン・ラディンはどこにいるんだろう?」と尋ねる。もちろん誰も答えられないのは分かりきっている。いわば話のきっかけみたいなもの。
誰とでも仲良くなれるのは監督のパーソナリティなんだろう、話がはずんで、自宅に招かれ食事をふるまわれたりする。家族とも話をする。
そこから分かってくるのは、イスラム諸国の人々が何を考え、どんな暮らしをしているのか、どんな悩みを抱えているのかといったこと。貧しさや子供の教育といった身近な問題から、自分の国の政治の問題、アメリカに対する感情まで、いろんな国のいろんな人々の生の声が聞こえてくる。
イスラムの人々だけでなく、アフガニスタンでは米軍の対タリバーン作戦に同行して、現場の米軍兵士たちの声も拾い上げている(ブッシュ政権をからかっているとも取れるこの映画の取材をちゃんと受け入れ、実際の作戦にまで同行させるあたり、さすがアメリカは懐が深い。すぐ国益だの何だの言いだす国とは違います)。
もっとも、監督がインタビューを拒否される場面もある。ひとつはイスラエルで、黒づくめの厳格な服装をしたユダヤ教徒に話を聞こうとして。もうひとつは、独裁的な王政で知られるサウジアラビアの学校で、教師同席のもとに学生に話を聞く場面。
インタビューを拒否されることは、多かれ少なかれどの国でもあったと思うけど、イスラエルとサウジアラビア、ともにアメリカと親密な国での出来事が選ばれているのは偶然か、意図的なものか(まあ、意図的でしょうね)。結果として、スパーロック監督のイスラム諸国に暮らす普通の人々への親近感が浮き彫りにされてくる。
そこらへんから、このドキュメンタリーの狙いが見えてこないだろうか。
相手は「テロリスト」と決めつけて軍隊を送って戦争をしながら、そこで暮らしている人の姿を見ようとしないアメリカ人(一部を除いて、アメリカ人が外国事情に無知なのは驚くほど)に向けて、自分たちが戦争してる国、あるいは「テロリスト」の巣窟と思ってる国に暮らしているのはこういう人たちなんだよ、というメッセージ。
それをきっちりしたドキュメンタリーでなく、ゲーム仕立てで面白おかしくやってみせたのがいかにもアメリカの作品だね。もっとも見かけにかかわらず、中身はけっこう啓蒙的な映画。それもアメリカの平均的国民に向けたものだろうから、アメリカに比べればまだイスラムの情報が入ってきている日本の観客にとってはちょっと物足りないかも。
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コメント
「スーパーサイズミー」は息子が大学で、授業の一環として観たらしいです。
この監督の発想、イラストルポなんかのテーマ探しと似てますが、使うエネルギーの量や技術・度胸?等々スケールは全然比較にならないですね。危険でもある企画、よく敢行しましたね。監督の業だろうなぁ。
日本も情報は少ないし制限されてるけど、アメリカはもっと少ないんだ!?
投稿: aya | 2008年4月26日 (土) 08時30分
監督はユダヤ教徒に囲まれ殴られてました。アフガンの米軍同行取材では前線に行って砲撃に会ったり。その行動力は、さすがアメリカ人ですね。
こちらの平均的アメリカ人は、極端に言えば外国のことは何も知らないといってもいいくらい。一方で、知ってる人は僕らがまったく太刀打ちできないくらい、例えばイスラム事情に詳しい。その落差にびっくりします。
投稿: 雄 | 2008年4月27日 (日) 09時52分