スティーブ・キューンを聴く
スティーブ・キューン(Steve Kuhn)は、僕がいまいちばん好きなジャズ・ミュージシャンだ。スタンダードをリズミカルに弾くときも、自分の曲をやや実験的な音使いで演奏するときも、いつも新鮮なフレーズで型にはまらず、しかも楽しいジャズを聴かせてくれる。
東京で2度ほど聴いたことがあるけど、そのときのトリオは若いメンバーで、しかも1度は女性ヴォーカルのバックだった(もったいない)。この日バードランドに出たトリオは、ベースにロン・カーター、ドラムスがアル・フォスターと、これ以上は望めないメンバーで、2年前に出たアルバム「Live at Birdland」と同じ場所、同じトリオ。
濃紺の地味なスーツでステージに上がったスティーブは2年前のライブにさらりと触れ、来年もまたここへ戻ってこられるといいんだけど、と淡々とした口調で加えた。
ロン・カーターは、スティーブの紹介と客席の拍手にもほとんど表情を変えず、目をつむったまま顔をベースの棹に近づける。シャイな彼らしい。アル・フォスターもちょっと笑顔を見せただけで、いかにも大人のトリオといった印象。さりげなく、静かに演奏が始まる。
「ライク・サムワン・イン・ラブ」などスタンダード2曲から入り、スティーブ・スワローの曲で「レディ・イン・メルセデス」。これがとてもリズミカルな曲で客席が乗る。次の自作曲では、低音で語るような歌をちょっとだけ披露し、アドリブも早弾きのフレーズを繰り返しながら次々に変化させてゆく表情豊かなもの。素晴らしい。
スティーブ・キューンのピアノを何と形容したらいいんだろう? 知的な抒情? 冷たい官能? うまく言い表せないけど、アフリカ系ピアニストのノリとはまったく別系統のクールな音。
アフリカ系ピアノのノリが聴き手の身体を直に揺さぶり、気がつけば身体が自然に動いているのに対して、スティーブの音を聴いているとまず脳が反応し、身体より先に脳が陶酔して、その後じわっと体全体に沁みてくる、と言ったら少しは分かっていただけるだろうか。彼のピアノに身も心も預けて聴いているのは無上の快楽なのだ。
このところ日本ではピアノ・トリオのスタンダード集が大人気で、毎月必ず何枚かの新譜が出る。スティーブ・キューンも例外じゃないけど、ほかのピアニストのアルバムは10回ほども聴くと飽きがくることが多いのに対して、彼のアルバムはこの10年ずっと聴いているけど、聴くたびに新鮮な感動をおぼえる。
ステージは一転してロン・カーターの静かな曲「リトル・ワルツ」。印象的なテーマをもった曲で、ロンのベースは相変わらずよく響く。アル・フォスターは控え目ながら、決めるべきところでびしっとと決める。
つづけてビリー・ホリデイが愛唱した「ドント・エクスプレイン」。最後は、自分が最初に働いたバンドのリーダーの曲と紹介して、ケニー・ドーハムの「ロータス・ブロッサム」。50年代ハードバップふうな曲が、スティーブの手にかかるととても現代的に聞こえるから面白い。
7曲、1時間半。なんとも贅沢なナイト・アト・バードランドでした。
ところで、彼はブルックリン生まれのブルックリン育ちらしい。そう聞くと、いっそう親近感が増す。
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コメント
投稿: aya | 2008年3月17日 (月) 13時41分
やっぱりジャズは大人の音楽だからじゃないでしょうか。若いころは背伸びしてそれに憧れたけど、今は身の丈に合っているというか。
お誉めの言葉ありがとうございます
僕は「ノー・カントリー」はアカデミー作品賞を取れない(暗いし、暴力的だし)と予想したんですが、取ってしまいましたね。こういう作品がアカデミー賞を取るとは、今のアメリカのなにごとかを反映しているのかも、という気がします。
投稿: 雄 | 2008年3月18日 (火) 08時30分
僕は、今月70になりました。15年くらい前から、はまっております。最初に買ったCDが、STANDARDSでした。2年くらい放置しておりましたが、ある時、思い出したように聴き返して、非常に好きになりました。以来、ほぼ毎日、スティーブキューンとセションしています。長いことJAZZや音楽に携わってきましたが、良い所はもちろん、ちょっと薄い所(笑い)も含めて大好きなミュージシャンは彼をおいて他にはいないといった感じです。とんでもない所から始めるフレーズ、サックスの様な割り切れないリズムも魅力的です。そして何といっても超センスの良いハーモニーが堪りません!
特に好きな作品は、レイ・ドラモンデと演奏しているものですかね、、、ご覧になったセションでのステーブキューンは、やや、分が悪い感じが、、、前述のtrioは、本当に伸び伸びです(爆)!
ではでは。
投稿: ponpokodrums | 2020年5月 1日 (金) 01時50分
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