ドン・フリードマンを聴く
ニューヨークに戻った翌日、『ヴィレッジ・ヴォイス』のジャズ欄をチェックしていたら、次の日に1日だけ、それもランチタイムにドン・フリードマンがブルーノートに出ることを知り、さっそく予約を入れた。
ドン・フリードマンといえば、僕にとっては「サークル・ワルツ」の印象があまりに強い。
1962年録音のこの曲を初めて聴いたのは、まだウィントン・ケリーはじめハードバップ系のピアノばかり聴いていた時代だった。ワルツの3拍子に乗せた忘れがたいメロディーは闇夜に一瞬浮かんでは消える花火みたいな脆い美しさを持っていて、ビル・エバンスとともに白人ジャズ・ピアノの素晴らしさを教えてもらった。
この日は、ドン・フリードマン&NYUジャズ・ファカルティ・カルテットとしての出演。彼はニューヨーク大学(NYU)でジャズを教えていて、その教授陣によるカルテットということらしい。長老格のドン以外は、アルト・サックスはじめ30~40代の若いメンバーで組まれている。
スタンダードの「It could happen to you」から入り、ヘンリー・マンシーニの曲やベーシストのオリジナル・ブルース、スローバラードをはさんで、最後にまたスタンダードの「I hear a rhapsody」の5曲。
どの曲も、そこここにドンらしい叙情的な音が散りばめられている。叙情的ではあるけれど、マンシーニの曲をやってもべたっと甘くならないのがドンらしい。
自作曲を演奏しなかったので「サークル・ワルツ」みたいな斬新な音使いこそ聴けなかったけれど、安心して身も心も預けられる演奏。ブルースと「I hear a rhapsody」では、アルト・サックスとのインタープレイで大いに盛り上がる。
ちょうど1時間。ミュージシャンも聴くほうもエンジンがかかってきたところで終わってしまったのは残念だけど、ランチにドリンクつきで30ドルでは仕方ないか。
帰り際、あなたの「サークル・ワルツ」は僕の愛聴盤ですと握手を求めたら、ご老体、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。
ブルーノートを出たら、すぐ近くの映画館IFCセンターで看板の文字を交換していた。劇場の文字看板は昔から写真の素材になるほどニューヨークらしさのひとつだけど、なるほど、こんなふうに換えるのか。
先月、『4Months, 3Weeks and 2Days』を見たところ。主に外国映画やインディペンデント系の作品を上映し、設備も新しくゆったりしていて、お気に入りの映画館です。
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コメント
ドン・フリードマンのあの儚い音はどうして聴衆に通じるのでしょうか。こういう音を聴かせたい鳴らしたいと思う音を、どうしてそのまま鳴らせて、通じさせられるのでしょうか。もちろんテクニックの問題だけではないのだろうけど。
そんなことはどうでもよくって、(印象では)雄さんがこんなフラットな目線でコミュニケできて、さらっとフリードマンが喜んでくれたというのがもう、羨望です。
ところでこの5月になんとまたロリンズが来日するそうです。日程的に無理だと分かっているのでチケットはあきらめていますが、もう80目前になりながらトップに立ち続けている音楽家をまだ追いかけてみたいと思う気分を、喜んでいいのか、ジャズシーンの批評としては憂うるべきなのか。。。
「ジャズ」って案外、近いうちに終わってしまうのかもしれないな、とか思ってしまうのですが、どうでしょう?
投稿: kiku | 2008年3月 9日 (日) 00時58分
帰ろうと立ち上がったら、すぐ後ろでドンがメンバーと談笑していたので、握手を求めたら快く応じてくれました。
僕もジャズはもうジャンルとして死んだのではないかと心配してこちらに来ました。でも、観光客向けではないライブハウスが数えきれないほどありますし、それらのいくつかを回って、ジャズは終わっていない、しっかり根付いているというのが、とりあえずの結論です。
もちろん聴衆の数は限られているし、新譜も少ないですけど、若い無名のミュージシャンが次々に出てきているようです(彼らはジャズ「だけ」演奏しているのではありませんが)。エディ・ヘンダーソンみたいに、フュージョンをやっていたミュージシャンがストレートなジャズに戻ってきている例もあります。
願わくは、ロリンズみたいな天才が出て、基本的に現代的な50年代ジャズである現状をくつがえす新しいジャズを産み出してくれるといいのですが。
僕も去年の秋、これが最後と思ってロリンズをカーネギー・ホールで聴いて涙しました。
投稿: 雄 | 2008年3月 9日 (日) 04時08分