『タクシー・トゥー・ザ・ダーク・サイド(Taxi to The Dark Side)』
2002年、アフガニスタンのタクシー運転手・デラウォーが米軍に拘留され、バグラム空軍基地に連行された。デラウォーは数日後、基地内で死体となって発見される。死体には拷問の痕が残されていた。
テロリストとの関係を疑われた人間に対する米軍の拷問は、暴行を加えた兵士個人の問題ではなく、きわめて組織的に行われていた。
そのことを、この映画はアフガニスタンのバグラム基地からイラクのアル・グレイブ刑務所へ、さらにはキューバのグァンタナモ基地へとカメラを移動させながら立証してゆく。ブッシュ政権の「犯罪」を問う正統派のドキュメンタリー。
正直な感想を言えば、ブッシュ政権がレーム・ダック化した今、そしてアル・グレイブ刑務所やグァンタナモ基地での拷問がある程度知られてきた今、映画の中味に関して、頭をがつんと殴られるような衝撃はない。また、関係者へのインタビューから真相に迫っていくオーソドックスな手法はいささか新鮮味に乏しい。
もっとも映画としての魅力が薄いからといって、グァンタナモ基地にはいまだに法的根拠もなしに数百人が拘束されており、そしてブッシュ政権が変われば事態が改善されるとは限らないわけだから、違法な拷問が行われていることの重大さが減ずるわけではないのだが。
ドキュメンタリストのアレックス・ギブニー監督(前作は『エンロン』)は、デラウォーの家族や、アル・グレイブの拷問で有罪宣告を受けた元米軍兵士、国務省の元スタッフやジャーナリストにインタビューを重ねながら、CIAが作成した秘密文書にもとづいて拷問がシステム的に行われていたことを明らかにしてゆく。
一昨年だったか、アル・グレイブでの拷問が明らかになったとき、裸にされ折り重なるような姿勢を取らされたり、犬のように首輪をまかれた受刑者の前で、Vサインを出して記念写真を撮る米軍女性兵士の写真がネットを通じて世界中に広まった。
あれも、受刑者の誇りを奪うためにCIAが指示した通りに行われたものだったのだ。
カメラはバグラム基地へも入り(カメラがバグラムに入ったのは初めてだという)、天井から手鎖が下がり、床には足鎖が備えられた拷問室を映し出す。タクシー運転手のデラウォーは、テロリストと疑われた客(後に無関係と判明)を乗せたばかりに米軍に拘束され、この部屋に連れこまれて拷問を受けたらしい。
ラストでデラウォーの残された家族と、彼らが住む村の風景を映し出すシーンは、型通りとはいえ、やはり胸に迫る。
突撃レポーターふうなマイケル・ムーアのドキュメンタリーが話題になるかと思えば、こういう正統派のドキュメンタリーがきちんとあり、アメリカ人ができれば目をそむけたいと思っているテーマを正面から取り上げる。こういうところがアメリカの幅の広さであり、健全さでもあるんだろうな。
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