« 『ハニードリッパー(Honeydripper)』 | トップページ | ブルックリンご近所探索・15 »

2008年1月20日 (日)

カーティス・フラーを聴く

0801181w

ブロードウェーのジャズクラブ「イリディウム」のプログラムを見ていたら、カーティス・フラー75歳バースデイ・コンサートが企画されていた。え? まだ吹いてたんだ。

カーティス・フラーといえば、僕らの世代にとってはジャズ喫茶の定番『ブルース・エット』に尽きる。いや、その盤に入っている「ファイブ・スポット・アフター・ダーク」はTVコマーシャルにも使われたから、ジャズ好きなら(じゃなくても)必ず聴いたことがあるはず(関係ないけど村上春樹の小説『アフター・ダーク』のタイトルはこの曲から)。

でもこの20年くらい、ほとんど彼の名前を聞くことがなかった。90年代のはじめに、かつての仲間ベニー・ゴルソンらと組んで『ブルース・エットⅡ』を出したのを記憶しているくらい。

ニューヨークへ来てすぐのころ、ジャズ・トロンボーンを吹く30代の女性に会ったことがある。「カーティス・フラーが好きだ」と言ったら、「誰? 知らない」という返事が返ってきて驚いたことがある。きっと現役としてはほとんど活動してないんだろうな。

だから最初で最後の機会になるに違いないと思い、同じ週にブルーノートでやっているマッコイ・タイナーとどちらにするか迷った末に予約を取った。

だって両方行くほどお金がないし、タイナーは日本で2度ほど聴いてるから。トップクラスのミュージシャンが出演するこうしたクラブでは、ドリンク1杯で50ドル近くかかる。僕の生活費では、月に2度3度と行き、ましてや食事などするとすぐ赤字になってしまう。

0801182w

ステージに現れたカーティス・フラーは、小柄な上にやや腰が曲がり、歩く姿も弱々しい。大丈夫かな? と心配になる。演奏がはじまると悪い予感は当たり、彼のトロンボーンから出る音はもっこりしてる。残念だけど、かつての柔らかななかにも張りと艶のある音ではなかった。でも、まあいいか。僕の頭のなかには学生時代に何十回、何百回と聴いたあの音が鳴りひびいてる。

これは想像だけど、たぶん友人たちが誕生日を名目に引退同然のフラーを引っ張り出したんじゃないかな。彼らが老いたフラーを支えて、ステージは充実していた。フラーにエディ・ヘンダーソン(tp)、レッド・ハロウェイ(as)、レネ・マクリーン(ts、ジャッキーの息子)を加えた4管、それにリズム・セクションのセプテット編成。

なかでも初めて聴いたエディ・ヘンダーソンの歯切れのいい音に痺れた。澄んでいて、深みがある。もともと医者だったのに、マイルスの音に触れてプロに転向したというだけあって、ミュートをつけた音など現代的なマイルスみたい。

レッド・ハロウェイはフラーの引き立て役に徹してたけど、フラーが休んで1曲だけヴォーカルが入ったとき、目の覚めるようなソロを展開してみせた。ピアノの若いルーク・オライリーもセクシーな音で色を添える。彼らに支えられて、フラーも精一杯のアドリブを聴かせてくれたのが嬉しい。

ジャズ・メッセンジャーズ時代のベニー・ゴルソンの曲などを演奏し、最後はデューク・エリントンの名曲「キャラバン」で盛り上がる。もうカーティス・フラーを生で聴くことはないだろうと思うと、ちょっとセンチメンタルな気分の夜だった。

|

« 『ハニードリッパー(Honeydripper)』 | トップページ | ブルックリンご近所探索・15 »

ジャズ」カテゴリの記事

コメント

カーティス・フラーはまだplayしていたのかという感慨が湧いてきました。NYで、いい時間を過ごしていますね。生活費も限りがあるとは思うが、存分に楽しんでもらいたいものです。

投稿: 正 | 2008年1月22日 (火) 14時45分

いま旬のプレイヤーを聞こうか、たぶんこれが最後の機会になるプレイヤーを聞こうか、生活費と相談しながらいつも迷います。

俺らが若い頃聴いていたプレイヤーがもうそんな歳なのかと思うと愕然とします。もっとも、そういう俺らが立派なジジイなんだから、考えてみれば当たり前なんだけど。

投稿: | 2008年1月23日 (水) 12時48分

はじめまして
カーティス・フラーに思わず反応してしまいました。
フラーとの出会いはトレーンの「ブルー・トレイン」でした。
「ブルースエット」も大好きで・・・最近は「サウス・アメリカン・クッキン」をよく聴いています。
しばらく噂を聞いていなかったのですが顕在だったのですね。

NYでJAZZを聴きながら過ごす・・・憧れです。

では失礼致します。

投稿: KAMI | 2009年2月26日 (木) 20時38分

最近、開かなかったもので、コメントに気づくのが遅れてごめんなさい。僕も正直のところ、カーティス・フラーは亡くなったのかと思ってました。「サウス・アメリカン・クッキン」、いいですね。僕も大好きです。

投稿: | 2009年3月 4日 (水) 22時20分

はじめまして Curtis Fuller は引退同然ではなく
けっこう精力的に活動してます 2003年以降くらいからかなり体力的にきつくなり音もショボくなっていますが2009年にCAPRI Recordsから2枚組 2011年録音の「DOWN HOME 」は今年発売されています バラードとかはそれなりに聴けます今年78歳になるので引退は近いかもしれませんが…

投稿: ヒロユキ | 2012年11月12日 (月) 18時29分

そうなんですか。ありがとうございます。僕は新しい情報をきちんとチェックしてないので、彼の近況も知りませんでした。ただ、いま思い出してもフラーの音には精彩がなかったような気がします。

投稿: 雄 | 2012年11月12日 (月) 23時10分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/41136/17750306

この記事へのトラックバック一覧です: カーティス・フラーを聴く:

« 『ハニードリッパー(Honeydripper)』 | トップページ | ブルックリンご近所探索・15 »