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2008年1月 7日 (月)

「ヴィレッジ・ヴォイス」の映画ベスト10

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今週号の「ヴィレッジ・ヴォイス」(1月2-8日号)が、「The Year in Bloody Good Film--Violence is Golden」と題して2007年の映画特集をやっている。

102人の批評家、ジャーナリストのリストを集計したベスト10が掲載されているので紹介してみよう。

1 THERE WILL BE BLOOD

2  NO COUNTRY FOR OLD MEN

3  ZODIAC

4  4 MONTHS, 3 WEEKS AND 2 DAYS

5  I'M NOT THERE

6  SYNDROMES AND A CENTURY

7  THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY

8  KILLER OF SHEEP

9  RATATOUILLE

10  COLOSSAL YOUTH

以下、「ブラック・ブック」が11位、「ジェシー・ジェームスの暗殺」が12位、「イースタン・プロミセズ」が13位、「ワンス」が14位、「マイケル・クレイトン」が15位と続く。

僕が見ているのは、ベスト10のうち「THERE WILL BE」「NO COUNTRY」「THE DIVING(潜水服は蝶の夢を見る)」の3本(それぞれ感想を書いていますので、興味ある方は「カテゴリー」「映画・テレビ」をクリックしてみてください)。3位のデヴィッド・フィンチャー「ZODIAC」は残念ながら見そこなった。

「4 MONTHS」はカンヌ映画祭で話題になったルーマニア映画。「I'M NOT THERE」はボブ・ディランの伝記映画。「SYNDROMES」はタイのアピッチャポン・ウィーラセタクン監督の映画。「KILLER」は1977年の作品だけど、今年再公開されたらしい。「RATATOUILLE(レミーのおいしいレストラン)」はディズニー映画。「COLOSSAL」はポルトガルのペドロ・コスタ監督の新作。

巻頭でJ.HOBERMANがエッセイを書いている。どういう経歴の人か知らないけど「ヴォイス」誌の常連で、彼の選ぶ映画、書く内容には同感することが多い。

特に1位から3位までを占めた「バイオレンス映画」について書いた部分が面白いので、ちょっと訳してみようか(誤訳があったらごめん)。タイトルは、「血塗られてるというなら、そのことが暗く暴力的な映画を今年のベストに導いた。われわれは戦争のなかにある、それとも?」というもの。

3本の映画の共通点は何だろう? これら3本はいずれも、インディーズ映画とスタジオ製作映画の中間にあるフロンティアで、自分のモチベーションを大事にする一匹狼の監督(P.T.アンダーソン、コーエン兄弟、デヴィッド・フィンチャー)によってつくられている。そして3本とも、なにかしら恐怖に関する映画であり、アメリカのナチュラル・ボーン・キラーについての映画でもある。

われわれが反社会的殺人者に夢中になってはいけない理由があるだろうか? アメリカはこの4年半、戦争をしているのだ。戦争は、君が考えている殺人の定義を、そして誰が殺人を犯すのかを、もう一度考えなおさざるをえなくさせる。善悪がはっきりしない映画フィルム・ノワールは第二次世界大戦のさなかに生まれたし、国民的強迫観念ともいうべき人食いハンニバル・レクター博士は第一次イラク戦争のなかから生まれた。

この3本の映画の殺人者はどこから来たのか? 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」と「ノー・カントリー・フォー・メン」の2本が、いずれもブッシュ・カントリーと呼ぶべきテキサス中部で撮影されていることは暗示的だ。これらの映画の殺人者が、人を殺すにさいして何のためらいも見せないのは、きわめて挑発的な描写じゃないだろうか。彼らは邪悪そのものだ。

……と、ブッシュを間接的にせよ殺人者呼ばわりするエッセイ自体も、なかなか挑発的。厭戦気分が蔓延した今のアメリカで似たような言葉を聞かされることは時々あるけど、さすがに活字やテレビで公然と主張されることは少ない。「ヴィレッジ・ヴォイス」の面目躍如といったところだね。

今年はイラク戦争を正面から扱った映画も多かった。ブライアン・デ・パルマの「リダクテッド」や、ポール・ハギスの「イン・ザ・ヴァリー・オブ・エラ」がそうだ。

でも僕の見るところ、こうした映画より、「ノー・カントリー・フォー・メン」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」、それに出来はいまいちだったけど「ザ・ミスト」(フランク・ダラボン監督)といった暴力・恐怖映画のほうが、明らかにイラク戦争の現実を踏まえ、その上で今のアメリカが抱える精神的危機について深いところまで刃を向けていたような気がする。

もし「ノー・カントリー」や「ゼア・ウィル・ビー」がアカデミー作品賞を取ることにでもなれば、ベトナム戦争直後に「ディアハンター」がアカデミー作品賞を取った快挙(怪挙)を思い出させることになるかも(僕の予想では、作品賞には2本とも選ばれず、監督賞はどちらか、主演男優賞は「ゼア・ウィル・ビー」のダニエル・デイ=ルイス、助演男優賞は「ノー・カントリー」のハビエル・バルデム)。

年が明けて、大統領選挙予備選が本格的に始まっている。最初のアイオワ州で、民主党はアフリカ系のオバマが、共和党は金も組織もないハッカビーが勝利をおさめた。

2人の勝因のキーワードは「変化」。このキーワードがイラク戦争を含意していることは明らかだろう(オバマはややリベラルな立場から、ハッカビーはキリスト教右派的立場から)。あわててヒラリー・クリントンも共和党の他の候補者も、演説やインタビューで「変化」という言葉を使いはじめた。

そういう国民的厭戦気分と、その底にひそむ危機を、「ノー・カントリー」や「ゼア・ウィル・ビー」は敏感に先取りし、過激に刺激的に表現してみせたのかもしれないな。

   

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