R・キャパのネガ3500点を発見!
1月27日のニューヨーク・タイムス(日曜版)にすごい記事が出ていた。失われたはずのロバート・キャパのスペイン市民戦争のネガ3500点が発見されたというのだ。
キャパが撮影したスペイン市民戦争の写真といえば、代表作「崩れ落ちる兵士」(上の写真右側の紙面に載っている)があまりにも有名だ。この写真はキャパを有名にしただけでなく、戦争写真家という存在を世界に知らしめたし、写真というメディアが単なる記録にとどまらず世界を動かす巨大な力を持ちうることを証明した。
しかしこの「崩れ落ちる兵士」のネガは残っていない。いま世界に流通しているのは、ヴィンテージ・プリントからの複写なのだ。ネガが存在しないことも含めて、この名作には撮影場所や状況などはっきりしないことが多く、キャパもそのことについて何も語っていないことが、この作品が実は演出ではないかという疑問が繰り返し出される理由のひとつになっている。
それはともかくニューヨーク・タイムスによると、90年代半ばから少数の関係者の間でキャパのネガが存在することが囁かれており、それは「メキシカン・スーツケース」(左側紙面の写真がそれ)と呼ばれていた。
事の経緯はこうだ。
1939年、ナチス侵攻を前にキャパがフランスからアメリカに旅立ったとき、彼はパリの暗室にスペイン市民戦争関係のネガを3箱の手提げかばんに入れて隠した。キャパは友人の写真家ワイツにネガを救うよう頼んだのだが、ワイツは逮捕され収容所に送られる。
だからキャパ自身、これらのネガはナチス侵攻によって失われたと考えていた(記事はこの「失われたフィルム」を、1922年に失われたヘミングウェイの初期原稿と同じ神話的な喪失と呼んでいる)。
ところが、ネガは誰か分からないが支援者の手によってパリからマルセイユに運ばれていた。マルセイユで、ネガはメキシコの外交官・ゴンサレス将軍の手に渡る。当時、メキシコはキャパが参戦したスペイン人民戦線を支持していた。
ネガはゴンサレス将軍とともにメキシコに渡り、そこで長い眠りにつくことになる。
将軍の死後、ネガは遺族が保管していたが、親類の映画監督がこのネガの重大性に気づく。彼は1995年にニューヨークの関係者に連絡を取り、そこからいろいろ経緯があったらしいが、最終的にICP(International Center of Photography、キャパの弟・コーネルが設立し、キャパの作品を管理している)に戻ってくることになった、というのである。
3500カットのネガに「崩れ落ちる兵士」も含まれているのか。そのことについて、記事は何も語っていない。でもスペイン戦線のヘミングウェイやガルシア・ロルカが写っている(!)というんだから、これはすごい。
もうひとつ、気になることが書かれている。
キャパのネガが発見されたことで、スペイン戦線でキャパの公私にわたる同志だった女性写真家ゲルダ・タロの作品の再検討が進んでいる(タロについては、以前のエントリで触れたことがある)。キャパとタロは共同クレジットで作品を発表したこともあり、キャパのものと思われている写真のうちに、実はタロの作品があるかもしれないというのだ。
記事は、ICPキュレーターのこんな言葉を紹介している。「『崩れ落ちる兵士』がキャパではなくタロが撮ったものだという可能性もまったくないわけではない」。
ICPはいわばキャパの身内だけど、そこのキュレーターからこういう発言が出ることの真意はなんだろう? いずれ世界的に大々的な写真展が開かれるだろうけど、そのための話題づくりなのか、それとも何か根拠があってのことなのか? そのへんは分からない。
いずれにしてもこの3500カットのネガの全貌が明らかになれば、写真史の重要な部分が書き換えられることになるかもしれない。うーん、興奮します。
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