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2008年1月18日 (金)

『ハニードリッパー(Honeydripper)』

Honey

『ハニードリッパー』は、アメリカ南部の小さな町の小さな酒場を舞台にした、「ロックンロール誕生物語」とでもいった映画だった。

監督はインディーズ作品をつくり続けているジョン・セイルズ。僕は『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』『希望の街』くらいしか見てないけど、社会的な素材を取り上げても拳を大上段に振り上げることをせず、登場人物を等身大の目線で温かく見つめているのが印象的だった。それはこの映画でも変わらない。

1950年のアラバマ州。小さな町のはずれに、元ミュージシャンであるアフリカ系の男(ダニー・グローバー)が経営するバーがある。粗末な木造の店では昔ながらのブルース・ライブをやっているのだが、客がほとんど来ない。

借金で首が回らなくなった男は、ミシシッピで人気のある「ギター・サム」を呼んで挽回しようとするが、サムは病気になって来られない。そこで男は、以前にふらりと店を訪れ、今は放浪の罪で逮捕され綿花畑で働かされている若者を「ギター・サム」に仕立てる。

その夜、若者の自作のエレキ・ギターから流れ出たのは、聞いたことのない音楽(ロックンロール)だった……。

あらすじを書けばそんなふうになるのだが、そして普通この手の映画なら、登場人物がいくつもの障害を乗り越え、その過程で友情や恋が生まれ、時に反目しながらクライマックスに向けて加速していくものだけど、『ハニードリッパー』はそんな定型に目もくれない。

話の本筋はひとまず措いて、主人公の周りの人や風景に目をやり、そこに留まろうとする。寄り道ばっかりしている映画なんだな。

紅葉した林を走る蒸気機関車。お伽話に出てくるような小さな駅での出来事。町角に佇んで歌う盲目のブルース・マン。綿花畑で実を摘むアフリカ系の男たちの労働。店に押しかけるアフリカ系の借金取り。メイドとして働いている男の妻と、主人である裕福な白人女性の会話。男の娘と若いミュージシャンの幼い恋。

そんな小さなエピソードを重ねるなかから、1950年代南部の、アフリカ系住民の暮らしの姿がじわじわと浮かび上がってくる。確信犯的にゆったりしたテンポは、話の本筋は実はこうした風景を描くための手段にすぎないんじゃないかとでも言いたくなるほどだ。

画面の背後にはいつも音楽が流れている。数々のブルース。フォーク・ミュージック。そしてロックンロール。この時代の音楽が好きな人にはたまらない。

定型に収まらない音楽映画。その不思議な味わいが後に残った。

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コメント

こんにちは、またお邪魔します。

このタイトルから、ロバート・プランツが作った80年代のバンドを思い出しました。当時は彼の歌う「sea of love」にぞっこんでした、今でも好きですけどw

こういう映画、絶対にスイスに来ないだろうなぁ、NYはアメリカの中で唯一行ってみたい都市。
NY擬似体験ができてとても楽しいです。

リンクをこっそりしてもいいでしょうか?

投稿: mai | 2008年1月18日 (金) 03時45分

僕は聴いたことなかったんですが、映画について調べようとグーグルを引いたらハニードリッパーズの音楽情報がほとんどで、ああそうなんだと思いました。映画のタイトルも、それを踏まえていそうですね。

何曲かアマゾンで視聴しましたが、映画のクライマックスで演奏されるロックンロールと感じが似てます。

リンク、どうぞどうぞ。光栄です。

投稿: | 2008年1月19日 (土) 07時19分

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