モルガン図書館&美術館
マディソン・アヴェニューに、それと知らなければ見過ごしそうに建っているモルガン図書館&美術館。ここには20世紀初頭に世界一の財閥を築き、現在もアメリカと世界の政治経済に巨大な影響力を持つモルガン財閥の創始者J・P・モルガンの元邸宅と図書館がある。
写真左が褐色砂岩の邸宅(1906年)、右が大理石造の新館(1928年)、新館の奥にやはり大理石造の図書館(1906年)がある。中央で邸宅と新館・図書館をつないでいるのは、昨年完成したエントランス。レンゾ・ピアノの設計で、建築好きには有名な建物だ。
この図書館・美術館は、いろんな楽しみ方ができる。
まずは図書館と、その蔵書。グーテンベルクの3冊の聖書をはじめ、16~17世紀の革装の稀覯本が豪華な図書館の壁をいっぱいに埋めている。長く館長を務めた女性は、「ここのライバルは大英図書館とフランス国立図書館」と言ってのけたそうだ。
大量生産される以前の本は高価だったから、自宅に図書室を持ち、多くの本を持っているということは富の象徴だった。J・P・モルガンは世界一の金持ちとして世界一の個人図書館をつくろうとしたんだろうか。36丁目に面した正面玄関は堂々たる神殿ふうで、図書室は天井に飾りガラスや浮彫り、各種細工、絵画をあしらった豪華な宮殿そのもの。
僕がここを訪れたのは、アメリカの大金持ちがどんなところに住み、どんな趣味を持っていたかを見たかったからで、贅をつくしたこの宮殿のような図書室がいちばん興味深かった。図書室の向かいにあるモルガンの書斎は深紅の壁に囲まれ、深海にいるような閉鎖的空間で、中世の彫刻や宗教絵画が飾られている。
20世紀初頭の金持ちは、フリック邸もそうだったけど、財にまかせてヨーロッパの貴族趣味をそのままアメリカに再現しようとした。
この時代、邸宅の外はレキシントン・アヴェニューの雑踏。人と車と建ちはじめた摩天楼と、街を構成する金と欲望がむきだされた「もの」たちは彼自身がつくりだしたものだけど(なにせモルガン財閥はGE、GM、USスチール、AT&Tを支配していた)、一歩なかに入れば、典雅なヨーロッパにひたることができる。いわば金で「歴史」を買おうとしたんだろう。
この図書館&美術館のもうひとつの楽しみは、もちろん美術品。
もっとも、モルガンは大量の絵画や古代エジプトの美術品、宝石類をメトロポリタン美術館や自然史博物館に寄贈しているから、ここにあるのは主にエッチングやドローイング(ダ・ヴィンチやミケランジェロ)、作家(ディケンズら)の生原稿、音楽家(ベートーベンら)の直筆楽譜など。
企画展として、ゴッホのドローイングと手紙展をやっていた。ゴッホのドローイングは太い筆で円弧を描くような線描。ああ、あの糸杉のうねりはこういうふうに描いたんだなとよく分かる。アルルの麦畑など油絵も5、6点展示されている。ここでこんなにゴッホに出会えるとは思わなかった。
ここの3つ目の楽しみはレンゾ・ピアノ設計の最新のエントランス。僕には建築の知識はないけど、むきだしの鉄骨と、ふんだんに使われたガラスがいかにも今ふう。
ひととおり見学し、疲れてカフェでお茶を飲んでいると、3階まで吹き抜けのガラス窓・天井から外光がたっぷり入り、内部に樹木も植えられていて、建物の内部にいるようには感じられない。
屋外にいる気分で、でも暖かい室内からビル群と、ちらついてきた雪をながめていると、ちょっと贅沢をしている気分になる。J・P・モルガンには及びもつかないけどね。
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