« ブルックリンご近所探索・11 | トップページ | 深夜のヴィレッジ »

2007年11月29日 (木)

『ザ・ミスト(The Mist)』

The_mist

こんな救いのない映画を見たの、いつ以来だろう? たいていの映画はどんなに重く、暗い作品でも、ちょっとしたセリフの一言やワンショットに救いを見つけることができるものだ。でも、この映画はそうじゃなかった。

スティーブン・キングの原作を僕は読んでないけど、小説の最後の部分に「希望」という言葉が使われているという。ところが映画では逆に、やるせないエンディングだなあと思わせるシーンから、さらに2度、主人公と観客を絶望の側に突き落とす。だから見終わった後の気分はきわめて良くない。いや、作品の出来が悪いんじゃなく、良くできているからこそ、そういう気分を味わわせられるんだけど。

アメリカの小さな町で、激しい雷の後に深い霧が立ちこめる。一寸先も見えない霧に、主人公の父子はじめ数十人がスーパーマーケットに閉じ込められる。霧のなかから叫び声が聞こえ、顔から血を流した男が駆けこんでくる。やがて、霧のなかのモンスターが姿を現し、スーパーを襲いはじめる……。

『ショーシャンクの空に』(記憶に残る映画でした)、『グリーンマイル』と、スティーブン・キングのホラーではない小説を映画化してきたフランク・ダラボン監督が、1980年代に映画化を構想して以来20年たって遂に実現した企画。それだけに力のこもった映画になっている。

構想から20年後に映画化するに当たって、ダラボン監督が原作につけ加えたのは「2007年のアメリカ社会」という寓意じゃないだろうか。

物語の舞台になるスーパーマーケットというものが、そもそもアメリカを象徴する場所であることは誰も異論ないだろう。霧に閉じ込められ孤立したスーパー=アメリカのなかで、得体のしれないモンスターに脅えた客たちは、いくつかのグループに分解してゆく。

霧のなかから逃げてきた男の警告を信じないグループが、まず店を出てゆく。やがて外へ出たグループのリーダーの腰に巻きつけたロープが動かなくなり、店内に残った主人公たちがロープを引くと、血まみれになった下半身だけが戻ってくる。

それを見た中年の女がバイブルを片手に、ハルマゲドン、この世の終わりが来た、この霧をはらすには犠牲が必要だ、と憑かれたように説教を始める。最初は賛同する者も少なかったのが、モンスターが姿を現し、スーパーを襲いはじめると、恐怖に駆られた客たちは徐々に女の言葉を信じはじめる。遂にはひとりの兵士(霧とモンスターは、軍の極秘プロジェクトの失敗によって生まれたらしい)をいけにえとして、スーパーの外に放り出す。

この女と彼女を信ずる客たちのグループが、アメリカ社会で影響力を増しているキリスト教ファンダメンタリズムを指しているのは明らかだろう。とすれば、孤立したスーパーマーケット=アメリカの周囲に立ちこめる霧と、そのなかの得体のしれないモンスターとは、さしずめ「テロの恐怖」という言葉に象徴されるものかもしれない。

ハルマゲドンを信ずる女のグループは、やがて正気を保っている主人公たち少数のグループにも牙をむいてくる……。

残念なのは、こういう寓意がいささかナマすぎてアメリカ社会批判という次元にとどまっていることじゃないかな。アメリカ人でない者にとっては身を切る痛さではないから、それ以上に人間存在の深いところまで映画が届いてこない。そこがもどかしい。

もうひとつ残念なのは、ホラー映画としての出来、特にモンスターの造形がいまひとつだったこと。僕はホラー映画が好きじゃないからほとんど見てないけど、その僕から見ても、1980年代の『エイリアン』や『遊星からの物体X』のレベルを超えてなかったように思う。

監督に言わせれば、本当に怖いのはモンスターじゃなく人間だ、ということかもしれないけど、モンスターが登場するホラー映画はそこが命だものね。巨大タコの脚みたいな生物も、巨大昆虫も、最後に出てくるモンスターも、その動きはどこか機械じかけの人形みたいな滑稽感を伴ってて、皮膚が粟立ちぞくぞくする気持ち悪さに欠ける。

(以下、ネタばれです)ラストシーン、アメリカの田舎町が、いきなり戦場のような風景になる。さらにエンドロールの間じゅう、ヘリコプターや軍用車両の音が背後に流れている。これを見たたいていのアメリカ人はイラクを連想するだろう。ここでも監督の意図は明らかだった。

よくできた映画だけに、つい不満ばかり並べてしまった。でも、冒頭から最後まで、一瞬たりとも目を離せない緊迫した映画であることは確かです。

|

« ブルックリンご近所探索・11 | トップページ | 深夜のヴィレッジ »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

スティーブン・キングの映画を見るなんて、
珍しい。ホラーならあまり言葉のストレスは無用だから選んだの?キングは、「デスペレーション」という映画を見て、気持ち悪かったです。
アメリカの人も、怖いの結構好きなんですね。
キャリーとかエクソシストとか、メリーなんとかとか、面白いホラーは好きだけど、血みどろの惨殺ホラーは直視できません。胸が悪くなるもの。
一人暮らしだと、部屋に帰ってから怖いんじゃないですか?
そういえば「GONE BABY GONE」は08年に封切りされると雑誌にでてました。

投稿: aya | 2007年11月30日 (金) 16時26分

友人から「このブログ面白いよ」と聞いて飛んできました。私もNY在住です。

先日この映画を見てきましたが、そういうメタファーがあるとは考えてもみませんでした。。。でもそう様に考えるととてもしっくり来ますね。

モンスターの造形には同感です。安っぽい感じが。あまりにもCGっぽすぎたのでしょうか?あまり映画に馴染んでない気がしました。

ネタバレになってしまいますが、主人公がみんなを殺した後、私の席の真後ろの男の子達が「これできっと霧が晴れるんだよ! ほらーやっぱり!ギャハハハハ」と騒いでいて殺意を覚えました。 感動半減です。

投稿: ラニ | 2007年12月 1日 (土) 04時07分

>ayaさま

言葉のストレスもあるけど、やっぱり『ショーシャンクの空に』の印象が強烈だったからでしょう。でも、『ショーシャンク』の爽やかさが記憶に残っていただけに、『ミスト』の救いのなさがショックでした。

>ラニさま

コメントありがとうございます。NYに来て3カ月、言葉もろくに分からないのに、映画を見ては無謀にも感想めいたことを書いてます。

モンスターはやはり安っぽいと感じましたか。今のCG技術なら、もっとリアルなのが出来そうなものですが。

殺意といえば、別の映画でしたが近くの席で携帯が鳴り、中年の女性があろうことか話し始めたのには文字通り殺意を覚えました。

投稿: | 2007年12月 1日 (土) 11時54分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『ザ・ミスト(The Mist)』:

» ミスト/ The Mist [我想一個人映画美的女人blog]
『キャリー』、『ミザリー』、『シャイニング』、『ペットセメタリー』、、、、 これまで何度も何度も映画化されて来た、スティーブン・キングの小説。 『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』のキング原作を映画化したフランク・ダラボンが、 キングの原作の3度目の完全映像化{/ee_1/} キング原作の映画好きなわたし。 楽しみにしていながらも、過度な期待は禁物。ってコトで 期待しないで試写にて観てきました{/light/} "ミスト"にちなんだゲスト、誰だろう?って思ってたらミスト=霧。という単純... [続きを読む]

受信: 2008年5月20日 (火) 11時50分

» 『ミスト』 [Sweet*Days**]
原作:スティーヴン・キング 監督:フランク・ダラボン CAST:トーマス・ジェーン、マーシャ・ゲイ・ハーデン 他 ある夜窓を突き破... [続きを読む]

受信: 2008年5月20日 (火) 14時16分

» 『ミスト』 [ラムの大通り]
(原題:The Mist) ----「ミスト」って霧のことだっけ? 「うん。 原作がスティーヴン・キング。 それをフランク・ダラボンが監督したってわけ」 ----それって『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』のコンビだ。 また感動路線ニャの? 「いや。あまり感動という形ではくくらない方がいいだろうね。 この映画、大論争が勃発したというしね。 映画では小説での終わり方と異なっていて、 それ用につけ加えた結末が…。 そのことが物議をかもしているんだ」 ----へぇ〜っ。よくも高名な原作者がそんな改... [続きを読む]

受信: 2008年5月20日 (火) 21時48分

» 『ミスト』 [かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY]
キリキリマイ。 メイン州西部の田舎町を嵐が襲った翌日、デイヴィッドは息子ビリーと隣人とスーパーマーケットへ行くと・・・。スティーヴン・キング原作の映画といったら、『ショーシャンクの空に』や『スタンド・バイ・ミー』が一番に思い浮かぶのだけど、本当はホラーの巨匠なのだよね。ホラー映画を見ることは、私の心に栄養を与えてはくれないので、そっち寄りの作品ならば、観なくてもいいかなぁとも思ったのだけど、他でもない黄金コンビのフランク・ダラボン監督作品だし、何やら評判もいいようなので、見逃すことはできず。 ... [続きを読む]

受信: 2008年5月21日 (水) 00時22分

« ブルックリンご近所探索・11 | トップページ | 深夜のヴィレッジ »