« テネメント博物館 | トップページ | ブルックリンご近所探索・11 »

2007年11月24日 (土)

『ゴーン・ベイビー・ゴーン(Gone Baby Gone)』

Gone_baby_gone

この映画を見ようと思ったきっかけは二つある。

ひとつには、原作のデニス・レヘイン『愛しき者はすべて去りゆく』を以前に読んだことがある。

私立探偵パトリックと恋人アンジーのカップルが主役のハードボイルドだけど、ボストンのダウンタウンを舞台に事件を追いかける2人の関係がけっこう危うくて、別れたり、また撚りを戻したりが時に事件そのものよりもはらはらさせ、そこが読みどころにもなっているシリーズだった。ついでに言えば、レへインはクリント・イーストウッドが監督した傑作『ミスティック・リバー』の原作者でもある。

映画を見ようと思ったもうひとつの理由は、俳優のベン・アフレックが初めて監督したこの映画、けっこう評判が良かったことがある。もっとも僕の情報は「ヴィレッジ・ヴォイス」と「タイム・アウト」、それに「web版ニューヨーク・タイムス」に限られている。「ヴィレッジ・ヴォイス」も「タイム・アウト」もけっこう好みがきついから、一般的な評判についてはよく分からない

俳優としてのベン・アフレックの印象は、正直のところほとんどない。と思ったらそのはず、調べてみたら『恋におちたシェイクスピア』も『パールハーバー』も、ベンが主演した映画は1本も見てなかった。僕の見るアメリカ映画も好みが偏ってるから、そういう映画には出てない、ってことだろう。

ハリウッドの俳優としてはあんまり個性を感じさせないベンが、初監督作品にマイナーでクセのあるハードボイルドを選んだってところが面白い。しかも自分ではなく、弟のケイシー・アフレックに主役の探偵をやらせている。ベンを有名にした『グッド・ウィル・ハンティング』ではマット・デイモンと共同で脚本も書いてるから、もともと俳優より脚本・監督の仕事に興味があったのかもしれない。

映画はハードボイルドの典型的スタイルである1人称、探偵の独白で始まる。今のハリウッド映画は導入部に派手なアクションや衝撃的なシーンを据えて客をつかむのが常套手段だけど、冒頭、ボストンの貧困地区の街並み(『ミスティック・リバー』と同じ地域)や風景描写から、静かに映画に入っていくのが監督の姿勢を感じさせる。一言でいえば、古風。

一人の少女が誘拐され、パトリックとアンジーが捜索を依頼される。少女の母親はジャンキーで、子供はほったらかしにされていたらしい。パトリックとアンジーが手がかりを求めてダウンタウンを質問して回り、そんな彼らの行動が新たな波紋を巻き起こして、少しずつ真相に肉薄していくあたりもハードボイルドの定石を踏んでいる。

僕の誤算は、ストーリーをよく覚えていなかったこと。セリフの英語がうまく聞き取れなくても、かつて読んだ本だから何とかなるだろうと思ってた。でもそれは大間違いで、ある時期、浴びるように読んだハードボイルド小説の筋なんて、10年近くたてばなんにも覚えてない。覚えているのは、印象的な一場面やセリフ、あるいは小説の空気だけ。

後半、プロットが複雑に2転、3転していくあたり、あれれ、こんなだったっけと思いつつ、ディテールは例によってよく分からないところが多かった。最後に真犯人(?)が分かったところで、ああ、そうだったな、と思い出す。

『ミスティック・リバー』と同じように、結末はやるせない。自分が探偵としてちゃんと仕事をしたことが、逆に少女を不幸にしてしまったのではないか。パトリックが少女を言葉もなく見つめるラストシーンが印象的だ。

地味な映画だけど、好感がもてる。でもベン・アフレックがそんなに人気があるとも思えないし、日本ではきっと公開されないんだろうな。

昔、ロードショー公開されずにいきなり新宿あたりの2番館、3番館にかかった映画を、期待せずに見にいったら意外な掘り出し物だった(『砂漠の流れ者』とか『800万の死にざま』とか)。そんなタイプの映画だね。

|

« テネメント博物館 | トップページ | ブルックリンご近所探索・11 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

原作がデニス・レヘインだけに、ちょっと期待したい作品です。

『グッド・ウィル・ハンティング』で一躍脚光を浴びたベン・アフレックですけど、俳優としてのキャリアは今ひとつ。

かつて、ロバート・レッドフォードが映画製作の資金調達のために、エイドリアン・ライン監督の『幸福の条件』への出演を決めたと語っていましたが(噂かもしれませんが)、ベンも自分の作りたい映画を撮るためにラブコメやらアクション映画やらに出演していたのでしょうか?

でも自分の弟を主演にするなんて、「んっ?」って感じです。

弟のケイシーも俳優としては今ひとつ。思い浮かぶ作品としてはガス・ヴァン・サント監督の『誘う女』くらいでしょうか?

ともあれ、日本の映画情報番組によると、アメリカではなかなかの評価を受けていると伝えられました。

地味な作品だけに、日本公開も微妙ですが、個人的には好きなジャンルの映画ですし、早く観られる日がくることを願います。

投稿: おみ | 2007年11月27日 (火) 10時09分

ケイシー・アフレックは私立探偵を演ずるにはちょっと幼すぎたかも。セリフを口の中でもごもごさせて、一生懸命タフな印象を出そうとはしているんですが。

ベンの演出はオーソドックスで、バイオレンス・シーンも最近のハリウッド映画にしてはおとなしめ。それが昔のハードボイルド映画のテイストにさせているのかも。次回作も期待です。

投稿: | 2007年11月28日 (水) 08時11分

はじめまして♪

この映画のことを検索していて、ここにたどり着きました。
結局時間がなくて、友達は見に行ったけれど私は行けず.....

スイスでもこの映画の評はとても良いみたいです。見たかったなぁ。

日本へ帰ったら原作の方を買って読んでみようと思いました。

投稿: mai | 2008年1月15日 (火) 23時53分

コメントありがとうございます。

原作はシリーズになっていて、どれも読みごたえのあるものです。映画は日本でも公開されるみたいですよ。ちょうどタイミングが合えばいいですね。

ブログ拝見。空がどんよりしてて、こんな日が続けば気分が晴れないかもしれませんね。先日、NYでも-9℃の日があり、それは寒かったですが雲ひとつない快晴で、刺すような空気のなかを歩くのは(短時間なら)気持のいいものでした。

投稿: | 2008年1月17日 (木) 08時00分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『ゴーン・ベイビー・ゴーン(Gone Baby Gone)』:

« テネメント博物館 | トップページ | ブルックリンご近所探索・11 »