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2007年11月 4日 (日)

『その土曜日、7時58分(Before The Devil Knows You're Dead)』

Devil_knows

『ヴィレッジ・ヴォイス』の映画欄をながめていて、懐かしい名前にぶつかった。

シドニー・ルメット。今年83歳になるアメリカの映画監督。1957年のデヴュー作『12人の怒れる男』は社会派映画の古典だし、僕らの世代にはアル・パチーノの『セルピコ』や『狼たちの午後』、フェイ・ダナウェーの『ネットワーク』といった70年代の映画が記憶に残る。

このところあまり彼の名前を聞かなかったけれど、新作『ビフォア・ザ・デビル・ノウズ・ユア・デッド(邦題:その土曜日、7時58分)』が公開されている。主演はフィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、アルバート・フィニーと個性派揃い。

これは見に行かなければと、ヴィレッジのアンジェリカ・フィルム・センターに出かけた。こういう単館ロードショー系の映画は、たいていアンジェリカか、リンカーン・センター近くのリンカーン・プラザにかかる。両館ともシニア料金は62歳以上、学割はなく、どちらも使えないのが残念だけど、ここでしかやってないんだから仕方ない。もっともアダルト料金11ドルは、日本で見ることを考えれば安いものだ。

映画を見終わって、うーん、唸りましたね。『ヴィレッジ・ヴォイス』も『タイム・アウト』誌も「シドニー・ルメットの復活」といった評を載せてるけど、それもうなずける出来。意味深なタイトルのこの新作は緊迫した犯罪映画であり、同時に家族劇でもある(両誌ともギリシャ悲劇を引き合いに出している)。

シーモア・ホフマンとイーサン・ホークの兄弟が金に困って両親(父はアルバート・フィニー)の宝石店強盗を思いつく。ホフマンは、やり手のビジネスマンだけど実はヤク中、妻のメリサ・トメイは弟のホークと不倫している。

誰も傷つけないはずの強盗が、計算が狂って母親を殺してしまい、そこからすべてが暗転して、悲劇が悲劇を生んでゆく。ふとした偶然から地獄に向かってまっしぐらにころがってゆくのは、『狼たちの午後』と同じ。だからこの2本の映画、30年をへだてて対になっていると考えていいのかも。

例によってセリフがよく分からない(のにストーリーはよく分かる)ので、中身とは別のところで感想を。

僕が現に住んでいることもあるけど、舞台になるニューヨークの風景がなんとも生々しい。

つい先日も歩いた47丁目の雑踏。つい先日まであったコントラストの強い夏の日差しが照りつける街路。ホフマンが住む、ニューリッチのコンドミニアム。離婚したホークが住む、みすぼらしいアパート。両親が住む郊外の一軒家。どれも僕が毎日見ている風景で、そのすぐ隣で物語が進行しているみたいだ。

そういえばルメットの映画は、『質屋』『セルピコ』『狼たちの午後』とニューヨークを舞台にしたものが多い。ニューヨーク出身で、ハリウッドに移らずニューヨークを拠点に映画をつくってきたルメットは、だから、ジョン・カサヴェテス、マーチン・スコセッシ、スパイク・リーといったニューヨークにこだわりつづける「ニューヨーク派」の先輩格でもあるわけだ。

もうひとつ、この映画が緊迫したスリラーになったのは、時制と語り手を複雑に入り組ませたスタイルがうまくいったからでもある。

映画は、犯罪の4日前から当日、そして犯罪後といった時間を行きつ戻りつしながら進む。同じショットが、繰り返しストップモーションで提示される。ストップモーションの前と後では、語り手が変わる。

例えば、それまでシーモア・ホフマンの視線で語られていたのが、ストップモーションの後ではイーサン・ホークの視線になる、といった具合。この2人のほか、アルバート・フィニーとメリサ・トメイの主に4人の視線で語られることで、同じショットが意味するものがぐっと陰影深くなる。ストップモーションも古典的なものでなく、デジタル処理され、デジタル的な音が伴っているので、スピード感がぐんと増す。

とても83歳の監督の映画とは思えない。

フィリップ・シーモア・ホフマンが外見はリッチだが腐りきった兄役を、イーサン・ホークが打ちひしがれ、兄に引きずられる弟役を、アルバート・フィニーが衝撃的なラストシーンを演ずる父親役を熱演している。

兄弟関係だけでなく、兄の妻と弟の不倫や父子関係が濃密に描かれていることが、この映画をギリシャ悲劇に近くしているんだろう。もっとも監督自身は、「メロドラマにしたかったんだよ」と、『タイム・アウト』のインタビューに飄々と答えてるが。

日本では公開されるんだろうか。シャンテかガーデン・シネマあたりでやってほしいな。

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コメント

こみいった話を、よくそこまで読みこみましたね。英語能力アップしてません?
俳優がイカしてる・・メリサ・トメイってどんな女優さんだったかな?アルバート・フィニィというと、「ミラーズ・クロッシング」ですか。(ガブリエル・バーン好き)
でも、筋としては辛い感じですね、ハラハラドキドキしたり、こちらまで苦しくなる映画は、最近は苦手です。が、83歳のおじいさんなら、悲劇もサラリと作ってくれるのでしょうか。

投稿: aya | 2007年11月 4日 (日) 11時24分

英語力? アップしてません。セリフが聞き取れないのにストーリーが分かるのは、映画のつくりがうまいからでしょう。言葉で説明すると複雑なようでも、見ていてすんなり理解できます。「4日前」とか字幕も出るし。

悲劇はやっぱりサラリとはいかなくて、けっこう重い映画です。『ミリオンダラー・ベイビー』みたいな救いがないから。

投稿: | 2007年11月 5日 (月) 00時50分

「ミリオンダラー・ベイビー」・・クリント・イーストウッド監督でしたっけ?まだ見てないのは、C・イーストウットの作品って暗くて、見る前から気が重くなるんです。それより暗いのー!?

投稿: aya | 2007年11月 5日 (月) 11時51分

『ミリオンダラー・ベイビー』を引き合いに出したのは、ラストシーンがちょっと似てるから。確かにイーストウッドの映画で暗いのはとことん暗いけど(『パーフェクトワールド』『ミスティック・リバー』)、『ミリオンダラー』は結末が暗い割に救いがありますよ。

『ビフォア・ザ・デビル』はイーストウッドみたいにずしんとくるのでなく、ストーリーは重いけどスリラーとして楽しめます。

投稿: | 2007年11月 5日 (月) 22時18分

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