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2007年9月24日 (月)

『シュート・エム・アップ(Shoot 'Em Up)』

Shoot_em_up_2

ニューヨークでどんな映画を見たらいいか。

もちろんイーストウッド、リンチ、クローネンバーグ、タランティーノ、カーティス・ハンソン、トニー・スコットら、新作をほぼ見てきた監督たちの映画は見るつもりでいた。僕もいっぱしの映画フリークのつもりだから、語学力に不安があってセリフが十分に理解できなくとも、映画のいちばん大事なところはつかまえられる、くらいの自信はある。

もうひとつ、こちらで見ようと思ったのは日本では見られない映画。日本に来ない映画にはいくつかの種類があって、ハリウッド資本でも買い手がつかなかった映画、ハリウッドの外でつくられた低予算のBムービー、それからインディペンデント系の映画。せっかくだから、そういう映画をできるだけ見ようと思って来た。

『シュート・エム・アップ(Shoot 'Em Up)』は、そんな種類の映画。クライブ・オーウェン、ポール・ジアマッティにモニカ・ベルッチと堂々たるスターが揃ったハリウッド映画だけど、日本のどの配給会社も興味を示していないらしい。

っていうのはこの映画、中身は限りなくBムービーに近いというか、町山智浩の表現を借りれば「謎の刺客を撃って撃って撃ちまくる座頭市なプロット」の「大馬鹿ガンプレイ映画」なのだ。

ともかく冒頭からエンディングまで、黒いレザーコートで決めたクライブ・オーウェンが、偶然に助けた赤ん坊を守ってポール・ジアマッティ率いる何十人ものヒットマンを撃ちまくるだけの映画といってもいいくらい。

これも町山によると、Bムービー専門だったマイケル・デイヴィス監督がジョン・ウー映画に憧れて描いた銃撃シーンの絵コンテがプロデューサーの目に止まり、金を出そうという話になって、コンテをつなぐストーリーを後からあわててでっちあげたらしい。

この銃撃シーンがまたコミックそのものというか、「ありえねー」というシーンの連続で、それを楽しめなければこの映画は退屈するだけ。というより、それを楽しむ映画なんだね。

たとえば最後のほう。手の指を5本とも折られて銃を撃てなくなったオーウェンが、指と指の間に銃弾をはさんで火にかざすと、銃弾が飛び出して相手を殺すなんてシーン。

あるいは、殺し屋ジアマッティがライフルで回転遊具の上に寝かされた赤ん坊を狙うシーン。オーウェンが遠くから遊具の細い鉄柵を撃ちつづけて遊具を回転させ、ジアマッティに狙いを定められなくする。そんなこと、いくら名人だって不可能だろう。って言っても始まらないのだ、この映画は。

おまけにオーウェンとベルッチがセックスの最中に敵に襲われ、2人で回転しながら敵をやっつけるなんて大サービスもある(町山説ではこれ「座頭市」の引用)。

と書いてくれば想像つくように、これ『キル・ビル』『シン・シティ』系列の映画で、『キル・ビル』も『シン・シティ』もBムービーのテイストを取り入れながらAクラスの仕上がりだったけど、これは仕上がりもBクラス。でも、座頭市じゃないけど出来の悪いプログラム・ピクチャーを過去に山のように見た記憶がある当方としては、これはこれでいいじゃないと思ってしまう。

ともかく役者を見ているだけで飽きない。クライブ・オーウェンは『シン・シティ』につづいて、コミックの主役みたいな役どころを苦虫を噛みつぶしたような顔でところどころ突っ込みを入れながら楽しげに演じてる。

いちばんいいのはポール・ジアマッティ。小柄で頭が薄くなった彼は、情けない中年男や負け犬をやらせたらピカ一(『サイドウェイ』は最高)。それが黒ずくめに決めて謎の殺し屋のボスを怪演してる。途中、「なんたらかんたら、サイドウェイ」と僕には分らないギャグを飛ばしてた。何人かが笑ったのは、『サイドウェイ』を見てるマニアックな観客だろう。悔しい!

そしてモニカ・ベルッチ。高級娼婦をやらせて彼女ほど似合う女優はいないよね。そろそろ眼尻に皺も目立つけど、魅力たっぷりに加えて前述の大サービス。彼女、今は押しも押されぬ女優なのに、こういう映画に出て相変わらずサービスしてくれるのが嬉しい。

というわけで、途中ちょっと退屈もしたけど、シニア料金7.5ドルでたっぷりお釣りがきた映画でした。

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映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

クライブ・オーエン以下二名、なんかめちゃめちゃな配役ですね。サイドウエィのはげ君、あの顔で案外、いつも存在感出しますよね。クライブ・オーエン・・日本で言えば暴力的な役所弘司顔でしょうか。いちおう、セクシーな奴ではあります。人工的美女モニカ・ベルッチとsexシーンあるの?すごい暑苦しそうですが、ま、そこだけ夢の競演かな。字幕関係なく楽しめそうな映画ですね♪

投稿: aya | 2007年9月24日 (月) 13時02分

クライブ・オーウェンとモニカ・ベルッチはともかく、ポール・ジアマッティとは味なキャスティングをしましたよね。彼がいることで、この映画がカルト的な雰囲気を持ったような気がする。

ayaさんの「いちおう、セクシーな奴」とはかなりの誉め言葉ですね。そうか、そういう好みだったのか。

字幕関係ない映画だけど、ジョークが一つ、二つしか分からなくて残念。

投稿: | 2007年9月25日 (火) 05時56分

> Bムービーのテイストを取り入れながらAクラスの仕上がりだったけど、これは仕上がりもBクラス。

ワハハハ、良いですね、ますます観たくなりました。
でも日本公開、本当にないのですか?
ウーム、であります。

ちなみに日本で公開中の「ジャンゴ」、個人的には
Aクラスを目指してしまったのが中途半端な結果と
なってしまったように思われました。

投稿: nikidasu | 2007年9月25日 (火) 18時36分

日本公開については町山情報です。このキャスティングですから、どこかが興味を示してもよさそうなものです。

昔はこういう映画、いきなり2番館、3番館で公開されましたけど、今はそういう館がないですね。単館ロードショー系の作品ともテイストが違うし。こういう映画、ジャンク・フードを止められないみたいな楽しみがありますね。

投稿: | 2007年9月26日 (水) 07時14分

Sex シーンの前に、モニカ・ベルッチが言ったセリフを教えて下さい。英語が苦手で、わからなくて・・・。彼女が指を口に入れる前のセリフです。誰か教えて下さい。

投稿: | 2011年12月11日 (日) 01時23分

残念ながら覚えていません。というか、私も聞き取れなかったですね。

投稿: 雄 | 2011年12月11日 (日) 21時28分

お返事ありがとうございました。お返事頂けると思っていなかったので、嬉しかったです。
では、sexしながら、くるくる回り拳銃で射ちまくって、敵殺しが一段落ついた時の、クライブ・オウェーンのセリフを、覚えていたら、教えて下さい。お願いいたします。

投稿: | 2011年12月16日 (金) 21時42分

追伸・・・・・。
YouTubeの動画製作者、zacky978 の方を検索すると、Soot'em up のそのsexシーンが、みれます。もし、見て頂いて、モニカ・ベルッチとクライブ・オウェーンのセリフが、聞き取れてお分かりになるようでしたら、お願いいたします。

投稿: | 2011年12月16日 (金) 21時51分

上記、女優と俳優のセリフ、解決しました。
ありがとうございました。

投稿: | 2011年12月30日 (金) 10時59分

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» ■Shoot Em Up [ツボヤキ日記★TSUBOYAKI DIARY]
■Shoot 'Em Up ●「Shoot 'Em Up」については深く筋を追いながら、その良し悪しやら、筋道云々を言うことなんざいらんのやないか、と思っている。これ、trailerを見ればわかるのだが、銃撃戦!撃ち合い!せめぎ合い…だからベイビーを守るのがどうしてなのか、といったことは... [続きを読む]

受信: 2007年10月 1日 (月) 03時32分

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(原題:Shoot'Em Up) ----この映画、なかなか興味深いキャスティングだね。 「うん。主人公のガンマン、スミスにクライヴ・オーウェン。 彼と行動を共にする娼婦ドンナにモニカ・ベルッチ。 そしてマフィアのボス、ハーツにポール・ジアマッティ。 プレスには『アメリカ版“ジョン・ウー・アクション”』と書いてあったけど、 確かにその通り。 もう、最初から最後まで徹底してガン・アクションを貫いていたね」 ----へぇ〜っ。いったいどういうお話ニャの? 「冒頭、妊婦がある一味に追われている。 それを... [続きを読む]

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受信: 2008年6月24日 (火) 09時15分

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