« リトル・イタリーのフィエスタ | トップページ | チャイナタウンの鍋貼 »

2007年9月22日 (土)

『イースタン・プロミセズ(EASTERN PROMISES)』

Easternpromises_2

デヴィッド・クローネンバーグ監督の新作『イースタン・プロミセズ(EASTERN PROMISES)』を見た。クローネンバーグらしいといえばらしい、一方、クローネンバーグらしからぬところもある、そんな映画だった。

最初、日本語字幕なしでどこまでついていけるか不安だった。そして、せりふの細部が(観客が笑う部分に限って)悔しいことに理解できないんだけど、大筋は分りやすい映画なのが助かった。

この映画が「分かりやすかった」ことには説明がいる。

理由のひとつは、僕の英語力の問題。登場人物の大部分がロシア・東欧系のマフィアという設定なので、彼らがネイティブのものではない、それだけに理解しやすい英語を話している。おまけに彼らはしばしばロシア語で会話し、そこには英語字幕が入る。僕らの世代の英語教育はもっぱら読み書きに特化してたから、英語字幕があるとぐんと楽になる。ロンドンを舞台にしたイギリス英語であることも、僕らの世代には分りやすい。

もうひとつは、スタイルの問題とでもいうか。助産婦のナオミ・ワッツが救急で運び込まれた娘の出産を手がけ、赤ん坊は助かるが娘(娼婦)は死んでしまう。ナオミが死んだ娼婦の身元を調べはじめることでストーリーが進行する。

娼婦がつけていた日記(マフィアの秘密に触れている)を読むかたちでナレーションが入り、それが事件の背景を説明することになる。でもナレーションの説明的な効果は、時に映像それ自体の喚起力を奪う。この場合も、ナレーションを入れて「分かりやすく」なった分だけ、クローネンバーグらしさが削がれたような気がする。

「分りやすかった」いまひとつの理由は、映画のテーマにもかかわってくる。『イースタン・プロミセズ』は、意外にもヒューマンなラブロマンスという側面も持つ映画なのだった。

こっちはまさかクローネンバーグがラブロマンスを撮るとは思わないから、そして途中まで映画はそんな気配を見せないから、凡百のハリウッド映画みたいなハッピーエンドで終わるわけではないけど、ちょっと肩すかしを食ったような気がした。それが、クローネンバーグらしからぬ、と感じた理由だろう。

もちろん、クローネンバーグらしさは画面全体にあふれている。

ナイフで喉を掻ききる。カッターで手指を切断する。素っ裸のヴィゴ・モーテンセンとナイフを持ったギャング2人が公衆浴場で激しく格闘し、ギャングがナイフで目を突きさされて死ぬ。銃で殺すのではない、肉体を痛めつけて見る者の感覚を逆撫でするクローネンバーグらしい残虐シーンが続く。

ヴィゴ・モーテンセンが体中にタトゥを入れて秘密結社のメンバーになることを許される東方的な秘儀(イースタン・プロミセズ)のシーンも、いかにもクローネンバーグ好み。

そしてロンドンのロシア人街なのだろう、煤けたダウンタウンの雨の夜。入口は普通のドアなのに、中に入ると一転して深紅のビロードの椅子が印象的なロシア・レストラン、しかもそこがロシア・マフィアの巣窟でもあるという、カードを何枚もめくるようなクローネンバーグのたくらみ。

それだけでもたっぷり楽しめるんだけど、やや不満が残ったのは、前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の印象が強烈すぎたからだろう。

『ヒストリー』の冒頭から漂っていた、異様な静けさのなかの暴力の気配。絵にかいたような幸せな家族の背後にある隠された過去。過去から再び現在に帰ってきたヴィゴ・モーテンセンと、それを迎える家族の表情。クローネンバーグのなかでも好きな1本だっただけに、そして「ヴィレッジ・ヴォイス」や「タイム・アウト」誌のレヴューも『ヒストリー』を引き合いに出していただけに、期待が大きかったのだ。

もちろん、クローネンバーグらしさを十分に楽しめる。ただ、ヒューマンなドラマという側面を持ったぶん、ちょっとだけ普通の映画に近づいたかも。

ジーンズ地の黒いコートでバイクにまたがるナオミ・ワッツが素敵だ。オールバックで無表情に決めたヴィゴ・モーテンセンは、かつてのジェレミー・アイアンズみたいに、クローネンバーグ映画の空気を一身に体現してる。

|

« リトル・イタリーのフィエスタ | トップページ | チャイナタウンの鍋貼 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

字幕なしの映画って、飛行機のなかで時々体験しますが、わかりずらい・・・・。
クローネンバークって、蠅男でしたっけ?スパイダーマンも?ナオミ・ワッツは、いい映画によく出る割に、特徴のない女優さんですね。やや乾燥気味で水分足りない感じするんですが。
台詞の微妙な部分はわからないまま筋書きを追って、結末まで見てしまうって、英語力のない私にはもったいないです。娯楽作品ならいいかな。

投稿: aya | 2007年9月22日 (土) 14時01分

なにが悔しいって、周りが笑ってるのに自分ひとりが笑えない、こんな悔しいことはありません。一緒に笑えるようになれればいいんですが、さて?

クローネンバーグの蠅男は最高でしたね。スパイダーマンはつくってないと思うけど。あと「戦慄の絆」とか、ヘンな映画ばっかり。

投稿: | 2007年9月23日 (日) 01時24分

バルセロナから帰りの機内で、ウディアレンの「マッチ・ポンプ」をやってて、ファンとしてはよだれが出ました。字幕なしだったけど、見始めて、すぐやめちゃった。彼の魅力って、台詞が大きいでしょう。そこが分んないで見てもしょうがないと、我慢しました。ウディアレン、最近スカーレットヨハンセンに入れ込んでるのね。しょせん、ウディもおやじキラーに弱いんダな。スカーレットは、ソフィアコッポラに嫌われたみたいなのにね。
スパイダーマンの監督も、やや変っぽくなかった?

投稿: aya | 2007年9月24日 (月) 12時50分

『マッチ・ポイント』ね。アレンの皮肉な目が生きてて面白かった。確かに彼の映画は、せりふが分からないと面白さが伝わらない。それにしてもヨハンソンはエロい女優ですね。

『スパイダーマン』はサム・ライミかな。『死霊のはらわた』の監督だから、こっちも相当ヘン。

投稿: | 2007年9月25日 (火) 05時48分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『イースタン・プロミセズ(EASTERN PROMISES)』:

» 『イースタン・プロミス』 [ラムの大通り]
(原題:Eastern Promises) ----この映画、ヴィゴ・モーテンセンが アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされたんだよね。 「うん。だけど、 もっと多くの賞にノミネートされてもよかったんじゃないかな。 デヴィッド・クローネンバーグの、 これはいい意味での成熟を感じさせてくれた作品だったね」 ----クローネンバーグって ホラーというイメージがあるけど…。 「そうだね。 でも近年では ドラマ志向が強くなってきている。 とはいえ前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』もそうだけど、 目を... [続きを読む]

受信: 2008年6月23日 (月) 05時43分

» イースタン・プロミス [シャーロットの涙]
「イースタン・プロミス」…東欧組織による人身売買契約 [続きを読む]

受信: 2008年6月24日 (火) 17時17分

» イースタン・プロミス / Eastern Promises [我想一個人映画美的女人blog]
第32回トロント国際映画祭(9/15閉幕)で上映された全349作品の中から 観客の投票で最も支持を受けた、 最高賞となる観客賞(The People's Choice Award)ピープルズチョイスを受賞した作品。{/hakushu/} それは、、、、 デビッド・クローネンバーグ監督の最新作{/atten/} 映画祭での上映は前半だった為観れず、(しかもすごい人気) その後、帰国前にちょうど先行上映があったので劇場で観て来た☆ クローネンバーグ作品、好き♪ 2005年の前作『ヒストリー... [続きを読む]

受信: 2008年6月27日 (金) 10時43分

« リトル・イタリーのフィエスタ | トップページ | チャイナタウンの鍋貼 »