ブルックリンのジャズ・クラブ
(歌うHさんと、演奏するRさんの夫妻)
友人のHさんはジャズ・ヴォーカリスト、ご主人のRさんはジャズ・ギタリストというミュージシャン夫婦。夫妻で演奏するので来ないかと誘われて、ブルックリンのライブハウス「ジャズ・スポット」へ行く。
Rさんの愛車でアパートから東へ10分ほど。ベッドフォード・スタイブサントと呼ばれる一角にある。低層の古い家屋が並び、ときどき空地のある街並み。住民はアフリカ系とスパニッシュが多いそうだ。
「ジャズ・スポット」はテーブル席が6つにカウンターがあるだけの喫茶店ほどの小さな店で、アフリカ系の母娘が経営している。週2日だけライブをやり、月曜の今日はジャム・セッション。参加するミュージシャンも僕のような客も、5ドルを払う。キーボード、ベース、ドラムスのハウス・バンドがいて、そこに集まってきたミュージシャンが思い思いに参加する。ギターのRさんはここのセミ・レギュラーらしい。
ハウス・バンドのキーボードは若き日のコルトレーンみたいな端正な風貌の男性。ベースはアフリカ系の女性。ドラムスの白人男性はギターが専門で、ドラムスは趣味みたいなものだそうだ。
ハウス・バンドにギターのRさんが加わって演奏が始まる。1曲目は、たしかレスター・ヤングで聴いたことのあるバラード。途中でテナー・サックスの男性が、打ち合わせもなしに演奏に入ってくる。ここらあたりが、いかにもジャム・セッション。
2曲ほど演奏すると、ドラムスが交代した。誰かと思ったら、セッションが始まる前にドラムをセットしていたアフリカ系老人。彼は手伝っていたのではなく、ミュージシャンだったのだ! 老人は1曲だけ演奏すると、自分のシンバルを袋に入れて胸に抱え、じゃあまたな、という感じで店を出て行った。うーん、いいなあ。
次はHさんで、彼女は「朝日のようにさわやかに」「ラヴァー・マン」の2曲を歌って大きな拍手を受ける。しばらく休憩したあとセカンド・セット。ギターがRさんから若い白人男性に代わる。流麗なRさんと違って、ちょっと素人ぽい演奏。彼は1曲だけでRさんに交代し、一緒に来ていたガールフレンドと店を出て行った。
そんなふうに集まったミュージシャンがかわるがわる参加し、なかにはポエトリー・リーディングするアフリカ系男性もいて(最後にはバックで音をつけていたベースの女性が、いいかげんにしてよ、みたいに苦笑してた)、緊張感というより仲間同士がゆるい感じで楽しむアット・ホームな雰囲気のセッションがつづいた。
日本のライブ・ハウスでは、僕が知っている限りこういうジャム・セッションはなかなか見られない。
記憶をたどると、30年近く昔、山下洋輔トリオと高木元輝トリオに、若くして自死した阿部薫が加わり大晦日に新宿ピット・インでオールナイト・セッションをやったとき、深夜も3時、4持を過ぎるとさすがにみな疲れて次々に交代し、ジャム・セッションとはこういうものかと初めての経験をしたことがある。
もっともこの時の空気はアット・ホームなんてものじゃなく、阿部薫と山下トリオの中村誠一が2時間近く壮絶なサックス・バトルを繰り広げた。明け方になっても2人ともステージを降りようとせず、元旦の陽が昇ってもなお止めようとしない阿部薫に、中村誠一がいらだつように強引にセッションを止めたのを思い出す。
Rさんは、しばらくこのジャム・セッションのセミ・レギュラーになっていたけれど、「レベルがあまり高くないので退屈して」、最近はたまにしか顔を出さないらしい。Hさんは、「だから練習になっていいのよ」と言う。この日は若いギタリストがそうだったらしいが、ネットを見てどんなミュージシャンがやってきてもちゃんと迎え入れる雰囲気は、初めての僕に気を使ってくれた経営者の母娘とともに、とてもいい印象を持った。
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