
memory of Suenaga Aya
漫画家の末永史が亡くなった。そう知り合いから連絡が来た。
実は昨年秋、末永さんとメールのやりとりが中断したままになっていた。10月、彼女も出品する「拝啓つげ義春様」展のオープニングに来ませんかと誘いがあった。その日は僕が1週間ほど入院する予定の期間中で、どうにもならない。別の日に行きますとメールしたら、「調整するからちょっと待って」と返事があり、そのまま音沙汰がなかった。
なんでも10月末に自転車で転び、脳に大ケガをして手術を受けたそうだ。自宅でリハビリをつづけていたが、年が明けてすぐ、急に亡くなった。そうか、それで連絡が途絶えたのか。亡くなってはじめてその理由を知った。
今では末永史の名を覚えている人は、そんなに多くないかもしれない。1970年代、マニアックな劇画誌『ヤングコミック』に「いつから捨てたの」「夜明けを抱いた」といった作品を発表し、一部で「ポルノ劇画を描く女性漫画家」みたいな騒がれ方をした。暗く重苦しい絵はお世辞にも上手とは言えないけれど、女性版つげ義春みたいな雰囲気が独特の魅力を湛えていた。彼女と会ったのはそのころ。僕は週刊誌記者で1ページのインタビューを書いた。
それを気に入ってくれたのかどうか、しばらくして、福生に米兵が集まるバーがあるから遊びに行かないか、と電話があった。バーに行くとこちらには見向きもせず、彼女は深夜まで米兵と飲んでいたのだが……。そんなことから、つきあいが始まった。といっても艶っぽい話では全くなく、奔放な妹と一緒にいる感じで時々会い、飲んではしゃべった。互いにどこか共鳴するところがあったのだと思う。
その後、彼女は幸せな結婚をし、作品を発表しなくなった。再び筆を執ったのは10年後の1980年代。伝説的な雑誌『COMICばく』に「家庭の主婦的恋愛」などを発表した。描く線は成熟し、作品の完成度は格段に高くなった。どこにでもいる家族とその家庭を素材にしているけれど、若いころ抱えていた魂の問題が形を変えて生きているのがわかった。
末永史のこれらの漫画は『二階屋の売春婦』(ワイズ出版)、『家庭の主婦的恋愛』(新潮社)、書下ろしの『銀恋』(ワイズ出版)にまとめられている。
最近の彼女は漫画家としてだけでなく、エッセイストとしても仕事していた。元文芸誌の編集長のもとで文章の勉強もしていたらしい。去年6月にもらったメールには、「2年かけてやっと褒めてもらえるようになりました」とある。まだまだやりたいことを抱えていた末永史。その生が突然に中断されたのが悔しい。
上の絵は2012年、彼女が初めての個展に出品した「風のたより」(1973)の原画。わが家の壁にかかっている。合掌。
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