January 24, 2026

「いつも となりに いるから」展

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「いつも となりに いるから 日本と韓国、アートの80年」展(~3月22日、横浜美術館)へ。戦後の日本と韓国の、互いに影響しあい、協働した美術を一望する展覧会。「はざまに─在日コリアンの視点」「ナムジュン・パイクと日本のアーティスト」「ひろがった道─日韓国交正常化以後」「あたらしい世代、あたらしい関係」「ともに生きる」の5パート。抽象画やインスタレーションにはあまり興味がわかないけれど、初めて見る在日の作品群は戦後の在日が置かれた状況を反映して強い印象を受けた。北朝鮮に渡った日本人妻を撮影した作品は、僕の小学校の同級生が北朝鮮に帰国し、その後音信不通になったことを思い出して心が痛む。折に触れ見てきた富山妙子や、金仁淑はじめ若い世代の作品も面白かった。

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August 29, 2025

「記録をひらく 記憶をつむぐ」展

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「記録をひらく 記憶をつむぐ」展(竹橋・国立近代美術館、~10月26日)へ。このタイトルと、看板に使われている松本竣介の絵では何の展覧会かよく分からないけど、近代美術館が持つ戦争画を主体にした展覧会。これが実に見ごたえのある、充実したものだった。

戦後、アメリカ軍は、戦中に日本軍が藤田嗣治、宮本三郎、小磯良平、向井潤吉らに描かせた戦争画約150点を接収し、その後、「永久貸与」という形で近代美術館に返還した。美術館はそれらの戦争画を常設展で数点ずつ小出しに展示してきたが、今回の企画はそこからの24点を中心に、関連する絵画、ポスター、グラフ雑誌、広島市民が描いた被爆の絵などを集めている。それらを「アジアへの/からのまなざし」「戦場のスペクタクル」「神話の生成」「日常生活の中の戦争」といった視点から、関連作を並べるなどして展示。戦争画を単に善悪の問題でなく、歴史のなかに位置づけようとする姿勢から、いろんなことを考えされられる。

常設展で何度か見たものもある。藤田の「アッツ島玉砕」や「サイパン島同胞臣節を全うす」は、プロパガンダでありながら同時に時代を超えようとする画家の醒めた目を感じる。日本画の山口蓬春が描く「香港島最後の総攻撃図」は美しすぎる。猪熊弦一郎「長江埠の子供達」に描かれた中国の子供たちの眼差しは、彼らが何を感じているかを正確に写しとっている。向井潤吉の、日本兵が森林に埋もれ飲み込まれるような「マユ山壁を衝く」と、戦後に農家を描いた「飛騨立秋」が並べられて、戦後、一貫して古い民家を描きつづけた向井の心のうちを想像してみたくなる。

ところで、この展覧会はチラシや図録がつくられていない。いろんな事情があるようだけど、将来に記録をひらく、記憶をつむぐのに図録は必須。それだけは残念だった。その意味でも、見ておかないと二度と見られない展覧会です。

 

 

 

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November 20, 2024

『THE 新版画』展

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わが家から歩いて10分ほど、うらわ美術館で開かれている『THE 新版画』展(~1月19日)へ。以前に千葉市美術館で見たものだけど、川瀬巴水の夜の作品群をもう一度見たくて。

展示室の最初に、昭和初期の地元さいたま市を素材にした「大宮見沼川」が展示されている。これも夜の風景。闇のなか、見沼用水に蛍が舞っている。空に星。屋敷林のなかに茅葺き農家が1軒。光が漏れ、川面に揺らめいている。真っ暗になる直前、わずかに藍味が残る墨色の風景が美しい。

巴水はもちろん夜の風景ばかりじゃないけれど、藍と墨には特に惹かれるなあ。(写真は巴水「出雲松江」)

 

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February 03, 2024

「みちのく いとしい仏たち」展

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ほっとする展覧会を見た。「みちのく いとしい仏たち」展(~2月12日、東京駅・東京ステーションギャラリー)。素晴らしさに惚れ惚れしたり、勉強になったりもいいが、たまにこういう展覧会もいい。青森や岩手の村のお堂や祠や農家の神棚に祀られる仏や神が130点。奈良や京都の寺にある洗練された仏像と違う、素朴で粗削りな仏たちだ。

 はにかむような笑みを浮かべた山神像(写真)。ちっとも怖くない不動明王像。三途の川で助けてと拝む童子跪坐像。隣のおじさんのような地蔵菩薩。かっこつけた若衆みたいな鬼形像。母のまなざしで子を抱く子安観音坐像。どれもこれも、なんとも豊かな表情をしていらっしゃる。立派なお寺でなく生活の隣にいて、日々の喜怒哀楽にそっと寄り添っているような。

 平安から江戸時代にかけて、専門の仏師でなく土地の船大工や木地師によって彫られた。北東北には、こういう民間仏がまだたくさん残っているらしい。こんな仏たちを風土のなかで眺める旅をしたくなった。

 

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January 18, 2024

「明治のメディア王 小川一眞と写真製版」展

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「明治のメディア王 小川一眞と写真製版」展(~2月12日、飯田橋・印刷博物館)に出かけた。写真雑誌の編集者だったから、小川一眞という名前は明治の写真家として知っていた。でも小川が同時にコロタイプや網版といった写真製版を日本に導入して印刷・出版に大きな足跡を残した人物でもあるとは知らなかった。

展示されているのは小川が製版し、印刷・出版した本や「写真帖」。写真家としての小川は、ともかくなんでも撮っている。たいていの人が見たことがあるのは、旧1000円札に使われた夏目漱石の肖像。明治の高層建築、凌雲閣に展示された芸妓100人の肖像。牧野富太郎の本を飾った植物写真。東宮御所など建築写真。中でも力を注いだのは水墨画や仏像などの美術品の撮影。これは細密描写が可能なコロタイプで印刷され、「写真帖」自体が手工芸的な美術品といった趣きだ。岡倉天心らが創刊し、現在までつづく日本美術の雑誌『國華』のコロタイプ印刷も手掛けている(『國華』はいま、コロタイプ印刷で世界的に有名な京都・便利堂で印刷されている)。

その一方で小川は、日清・日露の戦争や明治天皇の大葬や伊藤博文国葬といった時事的な印刷物も手掛けた。「写真帖」はコロタイプで印刷されているが、東京朝日新聞の付録についた日清戦争の写真などは網版で製版し凸版印刷で刷られている。写真原稿を網目状のスクリーンを通して撮影し、写真の濃淡をドットの大小で表す網版は手工業的なコロタイプに比べ大量印刷が可能で、以後、新聞や雑誌の写真印刷は網版になった。写真を印刷できるようになった新聞や雑誌が、メディアとして大きく発展したことは言うまでもない。20世紀末にデジタル化されるまで、われわれ世代の編集者にとっても網版はおなじみの製版技術だった。……なんてことを思い出しながら、ちょっと専門的ながら楽しい展覧会でした。

常設展の「印刷の日本史」も充実している。世界最古の印刷物が法隆寺にあるとは知らなかった。70歳以上無料(写真左下にあるのは製版に使うカメラ)。

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December 14, 2023

三の丸尚蔵館

Img_2760 皇居の三の丸尚蔵館が新しくなった開館記念展「皇室のみやび」展(第Ⅰ期、~12月24日)へ。来年の6月までⅣ期に分けて天皇家に受け継がれた美術品が展示される。

Ⅰ期は国宝ばかり4点。伊藤若冲の「動植綵絵」、教科書で見た絵巻「蒙古襲来絵詞」、小野道風の書、絵巻「春日権現記絵」。展示室が広くなく若冲が4点、絵巻は数場面しか見られないのは残念だが、さすがにすごいものばかり。「動植綵絵」は以前に京都の相国寺で見たが、ほかは初めて。「蒙古襲来絵詞」は全巻を見てみたい。これで17歳以下と70歳以上は無料なのがありがたい。Ⅱ期は明治の工芸品、Ⅲ期は「更級日記」、Ⅳ期は狩野永徳「唐獅子図屏風」なども展示される。また行こう。

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November 21, 2023

「幕末明治の絵師たち」展

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「激動の時代 幕末明治の絵師たち」展(~12月3日、六本木・サントリー美術館)へ。黒船から維新に至る幕末は、政治的動乱だけでなく西洋のさまざまな画像や絵画のスタイルが入ってきて、絵画の世界も「激動の時代」だった。その影響を受けて様々な挑戦をした幕末明治の絵師たち、狩野一信、谷文晁、安田雷洲、国芳、芳年、小林清親、井上安治らの絵画や版画が集められている。

初めて見たのは安田雷洲。銅版画の作品が面白かった。「東海道五十三駅」など、広重で見慣れた五十三次が日本の風景でありながら異国風な味わい。銅版画の技法や雰囲気を持ち込んだ肉筆の風景画も迫力がある。このところ見る機会が多い国芳や芳年を楽しみ、最後に置かれた小林清親、特に「柳原夜雨」(写真、明治14年)に見入ってしまう。雨に光る千住・柳原、遠くに洋館が小さく見えるのが粋だなあ。

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September 05, 2023

「ガウディとサグラダ・ファミリア展」

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「ガウディとサグラダ・ファミリア展」(~9月10日、竹橋・国立近代美術館)に出かけた。予約して行ったが、終了間近とあって混んでいる。

建築家や建築の展覧会は実物がないだけに展示に工夫がいるけれど、図面だけでなく彫刻の実物や模型、映像(現場では見られないドローンの上空映像とか)があり、見た気にさせてくれるのはさすが。ガウディの建築がどういう文化的背景から出てきたのかも、よくわかった。建築が100年以上続いているのも、献金によって建設しているため何度も中断しているからと知った。スペインには何度か行ったけどバルセロナを訪れたことはなかったので、海外旅行がつらくなった身にはありがたい。

 

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August 24, 2023

「山下清展」

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知人に勧められて「山下清展 百年目の大回想」(~9月10日、新宿・SOMPO美術館)に出かけた。

山下清は本や雑誌、映画やドラマで何となく知った気になっていたけど、作品を直に見たことはなかった。いやあ、驚きました。色紙を小さくちぎり貼り合わせて大画面を構成する、気の遠くなるような作業でつくられた彼の貼絵の魅力は印刷や画面では伝わらない。

戦前の物資が乏しい時代には切手を使い、何十片もの色紙をパターン化して重ね影や輪郭を表現したり、こよりで立体感を出したり、そのディテールに惚れ惚れし、見入ってしまった。しかも細部の超絶技巧だけでない。山下は人気が出た時代に「日本のゴッホ」と呼ばれたようだが、ゴッホには風景や花があのように見えたように、山下には風景や花がこう見えたのだと人を納得させるオンリーワンのオーラが、特に若い放浪時代の貼絵から感じられる。

人気が出てタレントのようにメディアに登場したこと、今で言うアール・ブリュットふうな作品だったこと、貼絵という西洋画や日本画とは別のジャンルだったこともあって、山下清は今も大衆的人気はあるが美術の世界での評価は低いらしい。でも実物を見ればそういう先入観もふっとぶ。生誕100年の回顧展として、少年時代の昆虫の貼絵から人気が出た後の油彩、ペン画、陶芸作品、遺作の「東海道五十三次」まで網羅されている。教えられなければ見逃しているところだった。夏の終わりに得した気分。

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July 16, 2023

「甲斐荘楠音の全貌」展

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三島へお盆の墓参帰りに東京駅で「甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)の全貌」展(~8月27日、東京ステーションギャラリー)を。

近年の「あやしい絵」ブームで名の知れた甲斐荘楠音は大正から昭和初期に活躍した日本画家。でも昭和10年代には画家としての活動を休止し、映画界で溝口健二らの衣装デザイナー、時代・風俗考証などを担当し、アカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされたこともある。今回の展示は日本画家として晩年までの作品を網羅するだけでなく、「旗本退屈男」シリーズ(小生、小学生時代に何本も見た)で甲斐荘がデザインした着物の実物、演劇愛好家として女形に扮した多数の写真など、絵画・映画・演劇にわたる活動の全体が見渡せる。

会場入口のパネルに、甲斐荘が「セクシュアル・マイノリティ」だったとある。そのことを知って展示を見ると、たしかに彼の描く美人画はそのことと深く関係していると感じられる。彼が女形に扮した写真と彼の美人画を見比べると、甲斐荘が描く女性は自画像を理想化した夢のようなものかも、と思う。それが彼の絵の「あやしい」魅力とも関係しているだろう。

画壇で忘れられた存在だった甲斐荘の再評価は、世界的なLGBT運動と無縁ではない。こんなふうに、われわれの意識的無意識的な偏見で存在を抹殺された表現が、絵画にとどまらずまだまだたくさんありそうだ。

写真のパネルは今回初公開の「春」(メトロポリタン美術館蔵)。

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