January 19, 2019
December 17, 2018
November 22, 2018
November 15, 2018
『MdN』の明朝体特集
元雑誌記者・編集者なのに、近頃雑誌への興味が薄れてきた。読んで面白いと思える雑誌が少ないし、買っても失望することが多い。でも久しぶりに書店で見た瞬間に買おうと思い、充実した特集に満足したのがこれ。デザインとグラフィックの情報誌『MdN』11月号の「明朝体を味わう。」
明朝体というのは活字の書体(フォント)のひとつ。主に雑誌や単行本の本文に使われ、僕たちが日常的にいちばん目にする機会の多い書体だ。上の写真で、「明朝体を味わう。」という見出しが明朝体。
明朝体が生まれたのは中国で明の時代だった。木版印刷が普及して、彫師が木製活字を彫りやすいよう直線的で縦が太く横が細い明朝体がつくられた。それが日本に輸入され、金属活字が製造されるようになった明治初期、縦横の長さが等しい正方形の漢字活字に合わせて平仮名活字がつくられ、漢字と平仮名がセットでいろいろな書体が開発された。初期には楷書体が新聞や雑誌に多く使われたが、時代がかった古さを感じさせたためか、次第に明朝体が主流になってゆく。
その時代の代表的な明朝が築地活版製造所が開発した築地体。大日本印刷の前身、秀英社が開発した秀英明朝。今も文芸ものに使われ評価の高い精興社書体。戦後、活版から写植(写真植字)に移行した時代の石井中明朝体(MM-OKL、写研)やリュウミン(モリサワ)、デジタル時代にデジタルフォントとして開発されたA1明朝などなど。計24種類のフォントの歴史や特徴が使用見本の図版とともに解説されている。付録として、それぞれの書体で文字組みした書体見本帳もついているのが憎い。
僕は活版印刷の最後の時代から写真植字、そしてDTP初期の時代に現役だった。活版では新聞系週刊誌の新聞活字(特殊な明朝)、大日本印刷で印刷していた週刊誌の秀英明朝。その後は写植の時代になって石井中明朝体、DTPの時代にはリュウミンを使うことが多かった記憶がある。一昨年、仲間と自費出版したときはIN DESIGNを使って自分で文字組みし、このときはアドビ社が開発した小塚明朝を使った。現役時代はデザイナーが書体を選んでくれたから、こちらは基本的な考え方を伝えるだけで事がすんだ。これらの明朝がどんな系譜にあり、どんな特徴があるのか、この特集を読んではじめてわかった。
明朝体は空気か水のようなもの、という言い方がある。編集者として僕もこの意見に賛成だ。雑誌や書籍に明朝は必須だが、普段それが明朝だと書体を意識することはない。見出しは人目を惹くためいろんな書体を使って変化をつけるけど、本文を読んで内容でなく書体に意識がいくようではいけない。本文は読みやすさ、可読性が第一。だから、読みやすくて、読者が無意識のうちに慣れ親しんだ書体がいい。
僕には手痛い失敗がある。週刊誌で2ページの連載を企画して、デザインを新進気鋭のデザイナーに頼んだ。毎週、写真を2点入れたレイアウトは斬新だったが、見出しに使うことの多い太い明朝を本文に使った。デザイン的には美しかったが、読んで疲れる。筆者からも、読みにくいと注文がついた。その通りだった。以後、本文は可読性が第一と肝に銘じた。
同じ明朝体といっても、時代とともに変化する。時代を映す。例えば今は縦組みだけでなく、横組みしてもきれいな明朝体が求められる。紙でなく画面で読む機会が多いことを考え、横組みに特化した明朝体もある。DTPの時代になって、新しい明朝体が次々開発されている。一方にシャープでメカニカルな明朝体があるかと思えば、レトロでおしゃれ感ただよう明朝体もある。
僕は明朝体をずっと道具として使ってきたけれど、この特集を読んで味わうことと、そのポイントがわかった。最近は単行本や映画のタイトルに明朝体を使うことも増えている(『君の名は。』とか)。新刊の棚やポスターを見る楽しみがまたひとつ増えた。
November 08, 2018
末永史『猫を抱くアイドルスター』をいただく
漫画家、エッセイストである末永史の遺稿集『猫を抱くアイドルスター』(ワイズ出版)をいただいた。
今年1月に亡くなった末永史の漫画、エッセイ、小説が収録されている。デビュー当時の少女漫画、1970年代に『ヤングコミック』に描いた劇画、結婚後に『COMICばく』に発表した家庭の主婦を主人公にした漫画、女性誌に書いたエッセイに、未発表の小説2本。
彼女とは互いに20代のころからの知り合いだった。だから追悼の言葉をこのブログに書いたところ(2月14日)、それがご遺族の目にとまり、この本に「追悼 末永史 まえがきにかえて」として収録されることになった。
エネルギーにあふれ、家庭も仕事も目いっぱいにこなしていた末永史。いつか小説家としての新しい顔を見られたかもしれないと思うと残念だ。
October 22, 2018
September 24, 2018
August 26, 2018
July 25, 2018
June 20, 2018
より以前の記事一覧
- 中島岳志『超国家主義』を読む 2018.05.20
- 吉田裕『日本軍兵士』を読む 2018.04.18
- グレゴリ青山『コンパス綺譚』を読む 2018.03.19
- 伊勢﨑賢治・布施祐仁『主権なき平和国家』を読む 2018.02.23
- 色川武大『戦争育ちの放埓病』を読む 2018.01.21
- 水野和夫『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』を読む 2017.12.19
- 松浦寿輝『名誉と恍惚』を読む 2017.11.22
- 国実マヤコ『明日も、アスペルガーで生きていく。』をいただく 2017.11.16
- 『黒い瞳のブロンド』を読む 2017.10.22
- 宮崎学・小原真史『森の探偵』を読む 2017.09.20
- 桐野夏生『デンジャラス』を読む 2017.07.22
- 『田中陽造著作集 人外魔境篇』を読む 2017.06.24
- 『僕たちの本棚 ブック・ナビ 2001-2016』を刊行しました 2017.06.18
- 小林由美『超一極集中社会アメリカの暴走』を読む 2017.05.17
- 『騎士団長殺し』を読む 2017.04.26
- 『セカンドハンドの時代』を読む 2017.03.18
- 『彼女のひたむきな12カ月』を読む 2017.02.19
- 國重惇史『住友銀行秘史』を読む 2017.01.17
- 『マラス』を読む 2016.12.20
- 鶴見俊輔『敗北力』を読む 2016.11.21
- 加藤陽子『戦争まで』を読む 2016.10.19
- オルハン・パムク『黒い本』を読む 2016.09.20
- 『属国民主主義論』を読む 2016.08.25
- ドン・ウィンズロウ『ザ・カルテル』を読む 2016.07.19
- 『谷崎潤一郎文学の着物を見る』を読む 2016.06.13
- 『もどれない故郷ながどろ』を読む 2016.05.18
- 辺見庸『増補版 1★9★3★7』を読む 2016.04.19
- 『自然の鉛筆』を読む 2016.03.18
- 劉震雲『盗みは人のためならず』を読む 2016.02.19
- 『米軍が見た東京1945秋』を読む 2016.01.23
- 加藤典洋『戦後入門』を読む 2015.12.19
- 東山彰良『流』を読む 2015.11.19
- 『されどスウィング』を読む 2015.09.22
- 『堕天使殺人事件』を読む 2015.08.18
- 『広告写真のモダニズム』を読む 2015.06.22
- 『書物の夢、印刷の旅』を読む 2015.05.12
- 『皇后考』を読む 2015.04.17
- 『21世紀の資本』を読む 2015.03.17
- 『帝国の慰安婦』を読む 2015.02.18
- 閻連科『愉楽』を読む 2015.01.12
- 『幻の、京都』を読む 2014.12.19
- 『帝国の構造』を読む 2014.10.15
- 『琉球独立論』を読む 2014.09.14
- 『この写真がすごい 2』を読む 2014.08.13
- 『グリニッチ・ヴィレッジにフォークが響いていた頃』を読む 2014.07.18
- 塩田明彦『映画術』を読む 2014.06.18
- 吉田修一『怒り』を読む 2014.04.25
- 黒川創『国境 完全版』を読む 2014.03.12
- 『永続敗戦論』を読む 2014.01.14
- 『ロバート・アルドリッチ大全』を読む 2013.04.18
- 『2666』に挑む 2013.01.05
- 谷川晃一句集『地名傷』 2012.07.26
- 『映画と谷崎』 夢こそ本当の世界 2011.08.10
- 中井久夫の2冊の本 2011.03.26
- 内モンゴルの虐殺 2011.03.07
- オンデマンドで本を買う 2011.01.22
- 山田稔浸り2 『コーマルタン界隈』 2010.11.23
- 加能作次郎の「乳の匂ひ」 2010.11.21
- 山田稔浸り・1 『マビヨン通りの店』 2010.11.19
- 『書と日本人』で目ウロコ 2010.04.15
- 正月から『東京大学のアルバート・アイラー』 2010.01.03
- 『チャイルド44』 旧ソ連の掟 2009.12.14
- 近藤史人『藤田嗣治 「異邦人」の生涯』 2009.11.19
- 『ユリイカ臨時増刊 ペ・ドゥナ』 2009.10.29
- 『虹色のトロツキー』再読 2009.08.08
- 桐野夏生浸り・5 2009.02.05
- 桐野夏生浸り・4 2009.02.01
- 桐野夏生浸り・3 2009.01.31
- 桐野夏生浸り・2 2009.01.30
- 桐野夏生浸り・1 2009.01.29
- 昭和天皇の母子関係 2008.12.05
- 色川武大エッセイズ 2007.01.26
- 正月は黒澤明の本と映画 2007.01.13
- 「銀座 酒と酒場のものがたり」 2006.08.29
- 『ハリウッド・バビロン』のブラック・ダリア 2006.08.27
- 金子光晴の放浪3部作メモ(3) 2006.03.23
- 金子光晴の放浪3部作メモ(2) 2006.03.13
- 金子光晴の放浪3部作メモ(1) 2006.03.08
- 中井久夫の『関与と観察』 2006.02.10
- 『王道の狗』の陰影 2006.01.22
- 『暗く聖なる夜』の敵役 2006.01.08
- 『嗤う日本の「ナショナリズム」』のカギカッコ 2005.12.04
- 『at』と島バナナと芭蕉布 2005.11.06
- 『冷血』の深い闇 2005.11.01
- 『戦後日本のジャズ文化』―奇妙な読書体験 2005.10.17
- 港に佇む鶴見良行 2005.10.02
- 「開発」が貧困をつくりだす 2005.09.08
- 深沢七郎の今日性 2005.08.31
- 「ドキュメンタリー」というスタイル 2005.08.24
- 『声をなくして』に励まされる 2005.08.13
- 深沢七郎で「ひまつぶし」 2005.08.08
- 『FRONT』の大艦巨砲主義 2005.08.02
- 鶴見良行が歩いたボルネオ 2005.07.08
- 復刻された『クルドの星』 2005.06.28
- 藤原保信の「自由主義の再検討」 2005.06.16
- 『失敗の本質』と日本軍のDNA 2005.05.15
- 『きもの草子』の楽しみ方 2005.05.07
- 『ユリイカ』の「ブログ作法」 2005.04.09
- 堀江敏幸の河岸 2005.04.03
- リスボン 白い街 2005.03.18
- 江藤淳の予見 2005.02.25
- 『シンセミア』は未完のクロニクル 2005.02.05
- スーザン・ソンタグの2冊 2005.01.26
- 『「彼女たち」の連合赤軍』をやっと読む 2005.01.08
- 『ランティエ。』は和風味 2004.12.26
- 映画『変身』の滑稽味 2004.12.14
- 山崎ナオコーラはいい 2004.12.04
- 『脳と仮想』のクオリア 2004.11.23
- 『ペンギンの憂鬱』の背後 2004.11.16
- リニューアルした『散歩の達人』 2004.10.26
- ケータイと監視カメラの未来 2004.10.10
- 『快楽通りの悪魔』の2人 2004.09.20
- 『VS.』vs.『Number』 2004.09.17
- 「退歩的生活」のほうへ 2004.09.08
- 『芸術新潮』の円空特集 2004.09.02
- 戦争の「思想」 2004.08.21
- 『コヨーテ』と新井敏記 2004.08.07
- 堀江敏幸の兆し 2004.07.28
- 『決定的瞬間』の呪縛 2004.07.08
- 懐かしい誤植 2004.07.05
- アダルト・ピアノ、えっ? 2004.07.02
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