October 08, 2023

セルダル・ジャーナンのコンサート

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クルド人の音楽家、セルダル・ジャーナン(Serdar Canan)のコンサートに出かけた(10月8日、川口・リリア)。セルダルはミュージシャンであるとともに、クルド民族音楽を採集する研究者でもある。この日は彼が採集したクルド各地の音楽を民族楽器のタンブールを弾きながら歌った。クルドはトルコ、シリア、イラン、イラクにまたがる地域で、場所によって言葉も音楽も少しずつ違うようだ。各地に古くから伝わる愛の歌、戦争の歌、子守歌。時にアラブのような、トルコのような、ペルシャやインドのような、でも哀調を帯びた曲想は共通している。

会場になった川口市は、トルコ国籍のクルド人が全国でいちばんたくさん住んでいる地域。観客席には子ども連れのクルド人も多い。セルダルが歌うにつれて手拍子が湧き、セルダルの指導で会場全体がハモり、最後は女性たちが舞台に上がって踊った。

この日、川口駅前では「日本は日本人だけのもの 」という日本第一党の集会・ヘイトデモがあり、ヘイトを許すなというグループの訴えがあり、警察官が出るなどものものしい雰囲気。ヘイトは許されない。外の空気とは別に、やっぱり音楽はいい。

 

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July 31, 2018

ナタリア・ラフォルカデを聞く

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毎年夏になると、毎日のようにそればかり聞く音楽が出てくる。暑すぎて朝から本格的なジャズを聞く気になれないから、その代わり。

昔ならナベサダの爽やかなジャズとかボブ・マーリイ、その後はブラジル音楽、アラブ・ポップス、ポルトガル音楽(マドレデウス)、キューバ音楽(ブエナビスタ・ソシアルクラブ)、ハワイ音楽(ハパ)、アフリカ系音楽(セザリア・エヴォラ)なんかを聞いてきた。今年はまったのはナタリア・ラフォルカデの「MUSAS Vol.2」。信頼する書き手(岸政彦.。ミュージシャンでもあるらしい)がツイッターでほめていたので不見転で買ってしまった。これが大正解。

ナタリアはメキシコのポップス歌手。このCDではフォルクローレを、時に現代的なアレンジで歌ってる(ジャケ解説のスペイン語が読めないので詳しいことはわからない)。アコースティック・ギター・デュオのロス・マコリノス(ゴンチチみたい)がバックをつけている。

パーカッションにブラスが入った1曲目「DANZA DE GARDENIAS(くちなしの舞、とでも訳すのかな)」がいいなあ。メキシコのフォルクローレは聞いたことがないけど、キューバやブラジルよりメロディアスで哀愁がある。ナタリアの声は高音が澄み、低音はニュアンス豊かで、色んな曲想を毎日聞いていて飽きない。

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May 19, 2017

前野曜子 最後のアルバム

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ウェブを見ていたら前野曜子のCDが目に留まり、思わず買ってしまった。「TWILIGHT」(1982)。1988年に40歳で亡くなった彼女がその6年前にリリースした、生前最後のアルバムの復刻盤。

当時のフュージョンやソウルのサウンドをバックにした都会のポップスだ。グローバー・ワシントンJr.でヒットした「ワインライト」に日本語の詞をつけて歌っているのが、あの時代を思い出させる。オリジナルでは、「立ち去りかけた夜のうしろ影 青ざめた静寂におびえている」とはじまり、「許して 愛して」とリフレインがつづく「愛の人質」(作詞・冬杜花代子、作編曲・上田力)が切ないラブソング。メローなリズムに乗せ、高音がよく伸び透明だけど官能的な歌声に、ああこれが前野曜子だと一瞬感傷的になる。ほかに、ボーナストラックとしてアニメ「スペースコブラ」の主題歌「コブラ」など。

前野曜子には一度だけ、取材で会ったことがある。「別れの朝」がヒットしたあとペドロ&カプリシャスを抜け(無断欠勤や遅刻が度重なりクビになったらしい)、ロスでしばらく遊んで帰国した後、ソロで「夜はひとりぼっち」を出したときだった。水割りをちびちび飲みながら笑顔でインタビューに答えてくれたが、話の中身はまったくパブリシティにならない本音トークで、ロスのアパートでは毎晩ウィスキーのボトルを一本近く空けてたとか、困り顔のマネジャー氏の前で新曲や仕事への不満も口にした。

「ヨーコ、ラッキーでね。今まで変な苦労がなかったわけ。だから、はっきりいって、キャバレーの仕事なんか大っきらい。第一、バンドが合わないでしょ。歌う10分前に音合わせだから、メタメタになるよね。すごくブルーになっちゃいますよ」

そんなことを平気でしゃべる前野曜子は可愛かった。

この後も休養と復帰を繰り返し、アルコール依存からくる肝臓の病で亡くなった。体調を整え、いいスタッフに巡り合えて成熟したら、どんな歌い手になっていたろう。久しぶりのセンシュアルな歌声を涙なしに聴けない。


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May 23, 2016

コンサートを企画

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元東京クヮルテットのヴァイオリニスト・池田菊衛君と作曲家・ピアニストの淡海悟郎君は中学、高校の同級生。2人のコンサートを同級生仲間5人で企画した。

高校時代に2人が「いつか一緒にやろう」と約束したベートーヴェンのクロイツェル・ソナタを演奏する「邂逅」コンサート(5月22日、やなか音楽ホール)。淡海君が新作をつくり、ニューヨーク在住の池田君のスケジュールに合わせ1年がかり。同級生とその家族、恩師、友人知人、小生の元同僚やヨガ仲間も来てくれて楽しい日曜の午後を過ごした。

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リハーサル中の2人。


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March 12, 2016

酒場でドイツ・リート

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友人の作曲家・淡海悟郎とソプラノ歌手・室井綾子が定期的にやっている「酒場でドイツ・リート」に行く(3月11日、東中野 マ・ヤン)。

シューマンの「女の愛と生涯」「リーダークライス」と淡海悟郎の歌曲集「立原道造の詩による5つの歌」、ヴェルディの「オテロ」から「アヴェ・マリア」など。いっとき体調を崩していた淡海悟郎も元気になって、自作も含め二十数曲を軽々と弾く。淡海君は高校時代から立原道造が好きだったものなあ。室井綾子の艶のあるソプラノをこんな至近距離で聞けるのは至福。

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November 28, 2015

室井綾子コンサート

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Muroi Ayako Japanese liedel concert

東中野の酒場での室井綾子「日本の詩コンサート」へ行く(11月27日、マ・ヤン)。彼女のドイツ歌曲は何度か聞いているけど、日本の歌曲ははじめて。

第一部は「宵待草」「この道」など、誰でも知ってる歌を。彼女、この酒場で「宵待草」の作詞者・竹久夢二描く女性に雰囲気が似てると言われたことがあるそうだ。

第二部は大中恩作曲、寺山修司作詞の歌曲集「ひとりぼっちがたまらなかったら」から14曲。「サッちゃん」「犬のおまわりさん」の作曲家・大中の親しみやすい曲と、寺山らしい詩、室井の美声を堪能しました。ピアノは三好すみれ。

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January 31, 2015

酒場でドイツ歌曲を

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German lieder in a bar

友人の作曲家、淡海悟郎がピアノを弾き、ソプラノの室井綾子が歌う「酒場でドイツ・リート(歌曲)」を聞きに、東中野の酒場マ・ヤンへ。シューマン、ワーグナー、シューベルト、リヒャルト・シュトラウスの歌曲をたっぷりと。

淡海君は母上の介護に専念していたこともあり、ピアノを弾くのは3年半ぶり。終わった後は友人たちと二次会で盛り上がった。

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東中野駅前のこの一角は昭和の香りただよう小路。ところがここに30階建て高層マンションの計画が持ち上がり、地上げ業者が入っているという。マ・ヤンのオーナーが中心になった「昭和の街を保存する会」の呼びかけに一同で署名する。こういう雰囲気の酒場、小路はいちど壊してしまえば二度とつくれない。

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May 17, 2013

最後の東京クヮルテット

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Tokyo String Quartet last concert

今年解散する弦楽四重奏団、東京クヮルテットの最後の日本ツアーが行われている。東京オペラシティでの公演に出かけた(5月16日)。

第2ヴァイオリンの池田菊衛君は中学・高校の同級生。この10年あまり、アメリカを本拠にするクヮルテットが日本へ来るたびに仲間と聞きにいくのを楽しみにしていた。僕がニューヨークに滞在していたときもカーネギー・ホールの公演に誘ってくれたり、郊外の自宅に招かれてご馳走になったり、すっかりお世話になっている。

この日のメインはベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番。ベートーヴェン弦楽四重奏全16曲を録音した「全集」は東京クヮルテットの代表作で、そこからのチョイスが最後にふさわしい。僕は東京クヮルテット以外に室内楽をあまり知らないけれど、初心者が聞いてもそれと分かる入魂の演奏。見事なアンサンブルと絹の手触りの音色。いつまでも拍手が鳴りやまなかった。

コンサート後のレセプション。池田君(左端)が「野球だと打率3割で評価されるけれど、9割以上でもダメなのがこの世界。まだやれるのにと惜しまれるうちに解散することを決めました」と挨拶した。池田君の右が第1ヴァイオリンのマーティン・ビーヴァーさん、その右(手前)の白髪の紳士が創設メンバーでヴィオラの磯村和英さん、右端がチェロのクライヴ・グリーンスミスさん。44年間、お疲れさまでした。


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July 11, 2011

夕暮れのシューマン・コンサート

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Schumann early evening concert

友人の作曲家・淡海悟郎と、彼とたびたびコラボレーションしているソプラノ歌手・室井綾子の「夕暮れのシューマン・コンサート」へ行く(10日、幡ヶ谷・KMアート・ホール)。

シューマンの歌曲とピアノ曲から、年代を追って「ミルテの花」「ミニョンの歌」「女の愛と生涯」を室井が歌い、「森の情景」を淡海がピアノ演奏。

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ハイネやゲーテの愛の詩を歌う室井の透明感ある声に、ツヤと深みが加わったような。

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May 01, 2010

古楽器を聴く

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寺崎百合子さんの展覧会「音楽」については、4月12日のエントリ「鉛筆の力」で書いた。この個展のために彼女が描いた古楽器、ヴィオロンチェロ・ピッコロ・ダ・スパッラによる演奏会があった(4月30日、銀座・ギャラリー小柳)。

ヴィオロンチェロ・ピッコロ・ダ・スパッラの「スパッラ(spalla)」は「肩」の意。通称「肩チェロ」と呼ばれる。写真で分かるように、チェロといってもヴァイオリンを大きくしたような形。革ひもで首にかけ、ヴァイオリンと同じように演奏する。ヴァイオリンより大きいから、弾く姿はちょっと窮屈な感じ。音程はチェロと同じだけど、弦が5本ある(チェロもかつては5本だったが現在は4本)。

ヴィオロンチェロは17世紀イタリアのボローニャでつくられた。当時の楽器はまだ大きさや形が標準化せず、時代や場所によってさまざまな種類のものがつくられていた。ヴィオロンチェロもそのひとつで、バロック時代の絵画に肩かけで演奏する姿が描かれている。数十台がヨーロッパ各地に現存しているという。

写真のヴィオロンチェロは、演奏しているディミトリー・バディアロフさんがつくったもの。コーカサス生まれのロシア人、ディミトリーさんはバロック・ヴァイオリンの演奏家であり、古楽器研究家であり、古楽器製作の職人でもある。

弾いてくれたのは主にバッハで、「無伴奏チェロ組曲」と「ヴィオロンチェロ組曲」から。僕は「無伴奏チェロ」はロストロポーヴィッチの演奏が耳になじんでるけど、チェロの重厚な響きに比べると軽い。チェロのようにズーンと体の芯に響いてくるのでなく、音がごつごつして耳に突き刺さる感じ(共鳴する胴が小さいから当然だろう)。そのかわり、表情が細かくよく動く。バッハがこの楽器のために作曲した「ヴィオロンチェロ組曲」は、その細かくよく動く感じがよく出てたと思う。

バッハが生きていた時代にはこういう音が鳴っていたのか。古楽器の音を堪能した夜でした。


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