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May 13, 2026

『シンプル・アクシデント│偶然』

Un_simple_accident_2025

『シンプル・アクシデント│偶然』は、2度にわたって投獄され、映画製作と外国への渡航を禁止されているイランの映画監督、ジャファル・パナヒ監督の新作。当然、無許可で撮影されているけれど、これが素晴らしい。強権的な政治体制の下で市民が味わっているだろう恐怖と、その裏返しの憎悪が、見る者にひりひりとその皮膚感覚まで伝わってくる。

反体制的と見なされ投獄されたことのある職人のワヒド(ワヒド・モバシェリ)が、偶然に車の故障に居合わせたことから、車を運転していた義足の男(エブラヒム・アジジ)がかつて自分を尋問・拷問した看守ではないかと直感する。燃え上がった復讐心で男を拉致するが、砂漠へ生き埋めにしようとしたところで、当時、目隠しされ男の顔を見ていないことから、本当に自分を拷問した男なのか疑念が生ずる。確証を得ようと同じく投獄された仲間たちを訪ねるのだが、それぞれに普通の市民生活を送っている彼らの思いがもつれあって……。

ワヒドは、成り行きから男の出産直前だった妻の入院費用を立て替えてしまうお人好し。ワヒドが最初に相談する知的な友人は、「彼らと同じ人殺しに成り下がるのか」と諫める。女性カメラマンとして働くシヴァは、「私はやっと日常を取り戻したんだ」と協力を拒む。シヴァの元恋人の男は、「俺が吐かせて、こいつの息の根を止める」とわめきちらす。シヴァの妹で結婚式を控えたゴリも、「あいつに人生を滅茶苦茶にされた」と男を追及する。ゴリの結婚相手であるアリは、「忘れろ。深みにはまってみんな沈むぞ」と傍観する。

登場人物の思いが交錯し、互いに矛盾するそれぞれの思いに「そうだよなあ」と共感を感じてしまう。ひとりひとりが丁寧に描写されているからだろう。そんななかで、ふっとユーモラスなショットがあったり、ひと気ない暗い高地から遥か遠くに輝く町の灯りのショットが素晴らしい。重いテーマでありながらサスペンス映画としても楽しめる。町なかのショットが多く車のなかから撮られているのは、撮影を気づかれないためだろう。この作品はカンヌはじめ色んな映画祭で受賞しているが、昨年12月、イランの裁判所は監督に三たび懲役1年の刑と2年の渡航禁止を言い渡したという。 

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