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October 09, 2025

『ブラックドッグ』

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『ブラックドッグ(原題:狗陣)』は、なんとも刺激的で面白い中国映画だった。

まず、映画の舞台がいい。中国西北部、モンゴル国境も遠くない赤峡鎮。ゴビ砂漠の端にあり、かつて鉱山町として栄えたらしいが今は寂れ、廃墟になったビルやアパートが目立つ。かつて賑わったらしい動物園や、丘上にバンジージャンプ台がある。町の外は砂漠の荒野。低い潅木の間をタンブルウィード(回転草)が転がる。そこを野生化した数十、数百頭の野犬が駆け抜けるのが冒頭のショット。

北京オリンピックを控えた2008年、刑期を終えたラン(エディ・ポン)が故郷の村に帰ってくる。無人の家に帰ると、かつてランが殺してしまった男の一家の者が、オートバイで「この殺人者め」と威嚇して走り去る。荒野の町。男の帰郷。待ち構える敵。オートバイ(馬)。あ、これは西部劇だな、と思う。ランは失語症で、ほとんど言葉を発しない。村は再開発のため野犬狩りをすることになり、他人と協調しないランは一人で1000元の懸賞金をかけられた黒犬を捕獲しようとする。捕獲はしたが、咬まれたランは狂犬病を疑われる黒犬とともに一週間、家に閉じ込められる(発症しなければ自由の身、発症したら放っておかれるのだろう)。そこでランと黒犬の間に友情が芽生える……。

甘粛省でオールロケされた映像が素晴らしい。荒野や廃墟の町を疾走する野犬の群れ。ランと黒犬が荒野の道を進むと、数百の野犬が黒犬に従うように座って彼らを見守る。町にやってきたサーカス団のダンサーとランの束の間の交流。客のいない動物園とバンジージャンプ台の寂寥。真っ白の漆喰を塗られた砂漠の家屋。動物園から放たれ、無人の町を徘徊する虎。殺された男の一家と対峙して、バイクでの枯れ河の跳躍。言葉を発せず、笑わないランの、最後の笑み。ぶっきらぼうなランと共振するように、映画のスタイルも説明を排しぶっきらぼうなのがいい。 

主演のエディ・ポンは台湾の人気俳優。グァン・フー監督はこのところ戦争アクション映画が多いが、ジャ・ジャンクー、ロウ・イエと並んで、いま中国でいちばん尖った作品をつくっている「第六世代」に属する。黒澤明や初期の小津安二郎がアメリカ映画の影響を受けたように、アメリカ映画を見て育った世代なんだろうな。 

 

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