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August 14, 2025

『「桐島です」』

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淡々とした映画なのが、とてもよい。1975年に企業連続爆破事件で指名手配された東アジア反日武装戦線のメンバー、桐島聡の50年に渡る逃亡生活。最初の20分くらいで企業爆破事件を当時の映像を交えて描く。多数の死者を出したことでメンバーは動揺し、以後は電話で予告したり、人のいない時間に爆発させたりする。寄せ場で働く桐島(毎熊克哉)と宇賀神(奥野瑛太)は他のメンバーが逮捕されたのを知り、湘南の神社で会う約束をして逃亡生活に入る。ここまでが序章。

桐島は、偶然に見た募集看板から藤沢の工務店で働くことになる。古い借り上げアパートに住み、毎日、仕事に出かける。朝、歯を磨き顔を洗ってインスタント・コーヒーを飲む。トラックに乗って現場に行く。そんな桐島の日常になるあたりから内田勘太郎のギターが入ってくる。時にブルージーな、時に画面に寄り添う静かな音楽が、この映画のリズムをつくっている。そのあたりで思い出したのは『PERFECT DAYS』。人生を「捨てた」男、役所広司が公衆トイレの清掃員として木造アパートで判で押したような日常を送る、自ら選んだその生の喜びを描く映画だった。ファンタジーとしてよくできた作品だったが、こちらの桐島は自ら選んだわけではない。しかも指名手配されている。寝るときも靴をはき、枕元にバッグを置く。パトカーの音や人声が聞こえれば、起き上がって窓から外を覗く。それでも夜はライブハウスで酒を飲み、河島英五の「時代おくれ」を歌うキーナ(北香那)に好意を寄せられる。桐島は自ら彼女から離れていく。「時代おくれ」はキーナと桐島によって三度歌われる。「目立たぬように はしゃがぬように」という歌詞(阿久悠)は、歌のタイトル(映画の序章で、ガールフレンドが桐島に「時代おくれね」といって去ってゆく)とともに、映画のキーワードになっている。

桐島を演ずる毎熊克哉が素晴らしい。抑えた表情が、優しさと、内に秘めたものを語っている。20代から60代までの変化は髪型と眼鏡の変化で見せる。白髪髭面の60代の桐島は背も丸まり生気を失っている。でも現場の外国人労働者と親しくなり、自室では、安倍首相が安保法制について語るテレビ画面に物を投げつける。素材から予想されるような社会派の映画ではないけれど、現在にもつながっている。

桐島にとって、その日をどう送るかが生きることのすべてだったろう。1日1日をどう送るか。それは、惰性的な日常を送る人間にとっての問いともなる。広く考えれば桐島の同世代者であり、今は癌サバイバーの後期高齢者である小生にとっても他人事でない。髙橋伴明監督。梶原阿貴脚本。

 

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