« 水の町、三島 | Main | 『ヒルビリー・エレジー』を読む »

July 17, 2025

『ハルビン』

Harubin1

韓国映画『ハルビン(原題:하얼빈)』を見る。大韓帝国の独立運動家、安重根(アン・ジュングン)が旧満洲のハルビンで伊藤博文を暗殺した事件の映画化。いろんな意味で面白い映画だった。

冒頭、凍りつき幾重にもひび割れた極寒の豆満江を渡る安重根(ヒョンビン)を上空から撮影したショットが素晴らしく、一気に引き込まれた。面白かったことのひとつは、こういう政治的事件を戦闘シーンやアクションもある上質のサスペンス映画に仕上げたこと。監督のウ・ミンホは朴正煕大統領暗殺をテーマにした『KCIA 南山の部長たち』も撮っているから、社会派の素材をエンタテインメントに落とし込むのはお手のものか。ハリウッドやヨーロッパでこういうハードな娯楽映画があるけど、これもその一本。

安重根は大日本帝国の保護国となった大韓帝国の独立を掲げて戦う大韓義軍という組織のメンバー。現在の北朝鮮で日本軍との戦闘に敗れ、豆満江を渡ってロシア領内の隠れ家にたどりつく。戦闘で捕虜にした日本軍将校を解放したことから逆襲され団員が殺されたことで、組織内部の批判にも晒される。初代の韓国統監、伊藤博文(リリー・フランキー)がハルビンに来ることを知り、安は仲間と暗殺計画を立ててハルビンに向かうが、計画は日本軍に察知されることになる。

映画は大筋で史実を踏まえているようだが、フィクションを交えて見せ場をつくってゆく。ロシアからハルビンに向かう安たちを、安によって解放された日本軍将校らが追う。ロシアの隠れ家を出たところで銃撃戦があり、西部劇のように馬車を疾走させるシーンがあったり、爆弾を入手するため砂漠を横断したり、夜行列車のなかで団員内部のスパイあぶりだしがあったり。

いまひとつ面白かったのは、映画が安の内面に踏み込もうとしないこと。結婚し子どももいた安の個人的背景には触れられないし、安が万国公法に従って捕虜を殺さなかったことで逆に仲間が殺されたことへの悔恨は、セリフや心理描写でなく凍った川に身を横たえるショットで示される。また、安が伊藤に銃弾を発した瞬間、カメラは冒頭のショットと同じように上空へ舞い上がって倒れた伊藤と取り押さえられる安を俯瞰する。並みの映画なら、その瞬間は安や伊藤のクローズアップを挿入するだろう。クローズアップは対象に肉薄することで観客の感情を揺り動かす手法だから。そうではなく俯瞰することで、この映画は昔の韓国映画にときどきあったように、過度にセンチメンタルにならない。この映画でセンチメンタルになるとは、反日感情を呼び覚ますこと。そこについては、この映画は全体として抑制的だ。この映画に限らないが、最近の韓国映画は例えば日本映画よりも成熟してるなと感ずることがままある。

『愛の不時着』でブレイクしたヒョンビンは、ここでは長髪の髭面にハンチングをかぶり、表情も変えず、二枚目を封殺。リリー・フランキーの伊藤博文は驚くほどよく似てる。日本軍将校役の俳優はかなり達者に日本語を話すが、重要な役でもありここは日本語ネイティブの役者を起用してほしかった。撮影監督のホン・ギョンピョは『哭声/コクソン』『パラサイト 半地下の家族』はじめ、日本映画『流浪の月』(李相日監督)『ベイビー・ブローカー』(是枝裕和監督)も撮っている名手。この映画の面白さに大きく貢献してる。

 

|

« 水の町、三島 | Main | 『ヒルビリー・エレジー』を読む »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 水の町、三島 | Main | 『ヒルビリー・エレジー』を読む »