『青春 春・苦・帰』
上映が終わってしまったが、中国のドキュメンタリー『青春』3部作(ワン・ビン監督)はいつまでも記憶に残る映画だ。第1部「春」3時間35分、2部「苦」3時間46分、3部「帰」2時間32分、計10時間3分の大長編。僕は1部と2部しか見てないのだが、ストーリーのある映画ではないので、3部はいつか見るお楽しみにとっておこう。
長江デルタにある浙江省織里は「中国子供服の都」と呼ばれ、子供服の中国(というより世界)最大の生産地だ。街路に面して個人経営の小さな会社がひしめき、その工場へ各地の農村から出稼ぎにきている若者たちを記録したもの。
電動ミシンの並んだ部屋で、すさまじいスピードで子供服を縫っていく男女の若者たち。出来高払いだから、1着でも多く仕上げたい。カセットデッキから中国ポップスが鳴り、ジーッ、ジーッとミシンが音をたてる。それを操る若者たちの手の素早い動きと眼差し。繰り返し映される工場(といっても団地のような狭い部屋の一室)に満ちるエネルギーがこの映画の通奏低音だ。若い男女が閉じ込められているのだから、互いにちょっかい出したり、悪ふざけしたりもする。カップルも生まれる。
いろんな出来事が起こる。妊娠してしまい、親が迎えに来た女性。作業量を書いたノートを失くしてしまい、賃金をもらえない男の子。賃金が安すぎると連れ立って社長と交渉したり(社長より社長の奥さんがヒステリックに叫ぶ)。その社長が夜逃げしてしまったり。1階が社長のデスクと作業場、2階がミシンのある工場、3階から上が若者たちの共同の住まいなのだが、カメラは若者たちが暮らす狭いドミトリーにも入ってゆく。洗濯したり、テイクアウトの麺を食べたり、スマホの写真を見せ合ったり。暗くなると外をぶらついたり。
そんなふうにひたすら彼らを記録し、そこからどんなテーマも主張も取り出そうとしないのがワン・ビン流の映画作法だ。ワン・ビンを世界的に有名にした『鉄西区』でもそれは貫かれていた。もちろん映像の背後には低賃金労働や出稼ぎをめぐる都市と農村の問題が潜み、当局が喜ばないであろう中国社会の現実が描かれているが、それをどう受け取るかは見る側に任されている。妊娠した女性も、賃金交渉も、社長の失踪も、その結果がどうなったのかは画面に出てこない。10時間すべてが物語としては断片の集積。それでいて僕が見た7時間余、少しも退屈しない。見た後でいちばん印象に残るのは、登場した男の子や女の子の身振りや声や喜怒哀楽の表情。彼らがいとしくなる。第3部も機会があれば是非見たい。






Recent Comments