『雨の中の慾情』
『雨の中の慾情』の原作は、つげ義春の漫画。同名の短編だけでなく、「隣のおんな」「池袋百点会」「夏の思いで」なども取り込まれている。「ねじ式」みたいな夢幻世界をもとに、つげのモノクロ世界を総天然色に転換し、私小説的な物語だけでなく戦争なども取り込んで、どの時代、どの場所ともつかない世界の、不思議な、今までなかったテイストの映画になっている。それが面白い。
いくつかの短編の主人公が合わさった、男2人と女1人。その性と愛が軸になる。売れない漫画家の義男(成田凌)、自称小説家の伊守(森田剛)、カフェに勤める福子(中村映里子)。ひょんなことから義男の狭い部屋に、伊守と恋人の福子がころがりこんでくる。義男は色っぽい福子に惹かれていく。その関係が、脈絡もなくいろんなストーリーのなかで展開していく。3人がタウン誌計画に失敗して債権者から逃げ回ったり、大家(竹中直人)の奇想天外な金儲け(恐怖する子供の脳天から液を抜いて売る)に巻き込まれたり。
3人が住むのは日本家屋でなく中国風の民家、看板も漢字ばかりの、古い町。そもそもリアリズムでない非現実の世界だけど、それがいきなり戦争になる。義男と伊守は兵士。大家は軍医。福子は中国人娼婦。南京を連想させるように、日本軍が中国人の非戦闘員を殺戮している。そこで義男は片腕を失う。野戦病院で目覚めた義男は、福子との出会いは夢かと思うのだが、ここまでくると何が夢で何が現実かもよく分からない。「眠ってしまったら、この現実がなくなるかも」(正確に覚えてないが)というセリフは、すべては夢幻と言っているようでもある。最後にまた売れない漫画家の義男の世界に戻るが、義男の福子への愛だけは変わらない。
台湾の嘉義でロケしたという古い路地裏や亜熱帯の濃い緑が、つげワールドにまた別の味わいを加えて楽しめた。ポン・ジュノ監督の助監督だったという片山慎三監督の映画は初めてだけど、ほかのも見てみたい。
Comments