『cloud クラウド』
いま、この国を覆っている空気、例えば電車に乗っている乗客が、自分のバリアを犯されたと感ずるときに取るささいな行動や表情、能面のような無表情の陰の敵意や無関心や苛立ちや舌打ちを極大化させれば、こういう映画になるだろうか。『cloud クラウド』は黒沢清らしい不安とサスペンスとアクションを堪能させてくれた。
クリーニング工場で働く吉井(菅田将暉)は、ネットの「転売ヤー」としての顔も持つ。昇進させようとする社長(荒川良々)の期待に背いて工場を辞めた菅井は、恋人(古川琴音)と田舎の一軒家に移り、本格的に転売ヤーとして生きていこうとする。が、その身辺に怪しい影が出没し、何者とも知れない集団に襲われる……。
設定としては定番だけれど、ネットを介したところが今どき。吉井のハンドルネームから本名が暴かれ、彼に敵意をもつ互いに知らぬ者同士が集まって集団を組むのは、昨今頻発する闇バイトによる強盗事件を連想させる。転売ヤーの先輩(窪田正孝)や、吉井に痛めつけられた青年(岡山典音)、吉井を恨む社長、吉井を助けることになるバイト青年、果ては恋人まで、皆が裏の顔を持ち、人間がねじれている。最後のほうになると、怪しげな商売に従事し、ニヒリストで他人を一切信用しない吉井がいちばんまともに見えてくるのが面白い。
前半は心理的サスペンス、後半は廃工場を舞台にしてのアクションで、どちらも黒沢清らしさが充満。


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