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October 18, 2024

『二つの季節しかない村』

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冒頭、まだ映画が始まらない黒いスクリーンに、かすかな音が聞こえる。映像が映し出されると一面雪の白い原野。聞こえていたのは雪の降るかすかな音。バスがやってきて1人の男が降り、雪原を歩きはじめる。男は小学校教師のサメット(デニズ・ジェリオウル)で休暇から帰ってきたところ。場所はトルコ東部アナトリアの、冬と夏の『二つの季節しかない村(原題:Kuru Otlar Ustune/英題:About Dry Grasses)』。映画のほとんどが雪の季節に繰り広げられる。白く閉ざされた村や雄大な冬山と渓谷。見る者を圧倒する風景のなかで、なんとも人間的なドラマが語られる。その対照というか、壮大と卑俗の取り合わせが面白い。

サメットは辺境の学校で働かされるのが不満。都会へ戻りたいと願っている。でも教室では王様で、女生徒のセヴィムを贔屓し、彼女に鏡のお土産をあげたりする。持ち物検査でセヴィムのカバンから、その鏡とラブレターが見つかる。手紙を返す返さないでひと悶着あったあと、セヴィムは校長に、サメットから「不適切な接触」があったと訴える(サメットのセヴィムへの身体的接触は描かれないが、心理的には「支配的」言動がある)。

一方、サメットは美しい英語教師ヌライ(メルヴェ・ディズダル)と知り合う。彼女は左派グループに属し、爆弾事件に巻き込まれて義足だが、教師としてこの地でやるべきことがある、と情熱的に語る。サメットは同僚教師ケナンにヌライを紹介するが、ヌライとケナンがつきあうようになると、今度は二人の仲を裂くようにヌライとベッドを共にしたりする。ヌライの家で、この地を嫌い自分のことしか考えないサメットと、まっとうに生きようとするヌライが交わす長い長い会話が印象的。この後、サメットが部屋を出ると、部屋は実は撮影現場につくられたセットで、サメットはセットの裏にいるスタッフの脇を通り手洗い所まで行って鏡を見るという長いワンショットが続くのに驚いた。かつて今村昌平の『人間蒸発』で、クライマックスで監督がセットを壊すよう指示して撮影現場そのものが映し出され、ドキュメンタリー的な映画が実はフィクションでもあるという構造を露呈させたことがあった。サメットとヌライがベッドを共にする直前のショットだから、これは二人を見ている観客の感情の高まりに水を差すことを意図したのか。これはそういう映画じゃないよ、と。服を脱いだヌライは、義足をはずし切断された脚をサメットに見せる。

サメットは最後、望み通りこの地を去ることになるのだが、サメットにとって辺境での4年間は何だったのだろう。東アナトリアはクルド民族が多く住む地域で貧しく、独立運動もあって中央政府から敵視されている。この地で生きるしかない少女セヴィムや村の人々、また英語教師ヌライとの交流も、サメットには何の影響も与えなかった。彼はただ通りすぎるだけだったのか。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は、壮大な雪の風景のなかにサメットという男をぽんと放り出したように見える。

 

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October 17, 2024

『虚史のリズム』を読む

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奥泉光『虚史のリズム』(集英社)の感想をブック・ナビにアップしました。

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October 15, 2024

紫蘇の実塩漬け

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紫蘇の実がたくさん採れたので、塩漬けに。今年は天候のせいか、手入れをきちんとしなかったせいか、ゴーヤは豊作、ミニトマトは不作だった。

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October 12, 2024

『cloud クラウド』

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 いま、この国を覆っている空気、例えば電車に乗っている乗客が、自分のバリアを犯されたと感ずるときに取るささいな行動や表情、能面のような無表情の陰の敵意や無関心や苛立ちや舌打ちを極大化させれば、こういう映画になるだろうか。『cloud クラウド』は黒沢清らしい不安とサスペンスとアクションを堪能させてくれた。

 クリーニング工場で働く吉井(菅田将暉)は、ネットの「転売ヤー」としての顔も持つ。昇進させようとする社長(荒川良々)の期待に背いて工場を辞めた菅井は、恋人(古川琴音)と田舎の一軒家に移り、本格的に転売ヤーとして生きていこうとする。が、その身辺に怪しい影が出没し、何者とも知れない集団に襲われる……。
 
 設定としては定番だけれど、ネットを介したところが今どき。吉井のハンドルネームから本名が暴かれ、彼に敵意をもつ互いに知らぬ者同士が集まって集団を組むのは、昨今頻発する闇バイトによる強盗事件を連想させる。転売ヤーの先輩(窪田正孝)や、吉井に痛めつけられた青年(岡山典音)、吉井を恨む社長、吉井を助けることになるバイト青年、果ては恋人まで、皆が裏の顔を持ち、人間がねじれている。最後のほうになると、怪しげな商売に従事し、ニヒリストで他人を一切信用しない吉井がいちばんまともに見えてくるのが面白い。


 前半は心理的サスペンス、後半は廃工場を舞台にしてのアクションで、どちらも黒沢清らしさが充満。

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