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August 28, 2024

『フォールガイ』と『ツイスターズ』

Fall_guy_ver4

これだけ暑さが続くと、本を読んだりシリアスな映画を見るのが億劫になる。というわけで、楽しめそうな映画を2本つづけて見た。どちらもハリウッド映画だけど、これが当たり。2本とも映画館の大スクリーンで見てこその面白さだ。

『フォールガイ(原題:The Fall Guy)』は、スタントマンが主役のバックステージもの。大スター、トム(と言えば誰もアノ人を思い浮かべます)のスタントを務めるコルト(ライアン・ゴズリング)が映画製作をめぐる事件に巻き込まれる。怪我でスタントをやめたコルトが、元カノのカメラマン(エミリー・ブラント)が初監督作を撮るというので撮影現場に呼び戻される。現場に行くと主演のトムが行方不明。スタント・シーンを撮影しながらトムを探す羽目になる。

撮影現場でも、トム捜しでも、格闘、飛び降り、衣装に火をつけてのアクション、車を衝突させての7回転、カーチェイス、モーターボートでジャンプ、ヘリにぶらさがりなど、ありとあらゆるアクション・シーンを見せてくれる。なるほどこんなふうに撮ってるのかと、裏側が分かるのも面白い。ラスト近く、姿を現したトムがVFXの合成用ブルーバックの中で四駆を運転する演技をしていると、そこにコルトが現れて運転を代わり、実際にエンジンを始動させブルーバックを突き破ってロケ現場に飛び出してしまう。トムが悲鳴をあげる。VFX全盛のいま、ブラッド・ピットのスタントマン出身というデヴィッド・リーチ監督が、いつかやりたかったことなんだろうなあ。事件や恋はアクション・シーンのための刺身のつまみたいなもの。ライアン・ゴズリングが能天気なスタントマンを楽しそうに演じてる。

もう一本は『ツイスターズ(原題:Twisters)』。オクラホマの巨大竜巻を追うストーム・チェイサーたちの物語。NYのアメリカ海洋大気庁で働くケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は、かつての仲間ハビ(アンソニー・ラモス)の頼みで夏休みに故郷のオクラホマに帰ってくる。大学時代、ケイトやハビは竜巻の力を削ぐ方法を実験していたが、竜巻に巻き込まれて仲間3人を失い、ケイトは今もそのトラウマに悩まされている。ハビは住宅開発業者の支援を受け、竜巻追跡チームを組織している。彼ら以外にも、竜巻を追いかけてSNSで中継しインフルエンサーとなったタイラー(グレン・パウエル)のチームがある。竜巻が発生すると、2つのチームは車をつらね、どちらが先に竜巻に近づけるかを競う。ケイトははじめハビのチームに加わるのだが、社会貢献ふうな企業チーム対竜巻をネタに金にする地元チームと見えたものが、、、。このあたりの対立やケイトとハビ、タイラーの微妙な三角関係は、『フォールガイ』を同じで刺身のつま。やはり巨大竜巻が次々に生まれ、町を破壊していくあたりが見せ場だ。こういう題材を娯楽映画にしてしまう腕には感心する。

2本とも大人の鑑賞にたえるエンタテインメント。日本映画でもこういうのがほしいなあ。

Twisters_official_us_theatrical_poster

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August 19, 2024

『モスカット一族』を読む

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アイザック・B・シンガー『モスカット一族』(未知谷)の感想をブック・ナビにアップしました。

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August 16, 2024

『夜の外側』

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マルコ・ベロッキオ監督『夜の外側(原題:ESTERNO NOTTE)』は、上映時間5時間40分のイタリア映画。午前11時から始まり1時間の休憩をはさんで、終わったのは午後6時近かった。

題材は、1978年にモーロ元首相が左翼グループ「赤い旅団」に拉致・殺害された事件。もともとテレビ用に企画されたもので、6話のエピソードからなる。

といって事件そのものを、あるいはその「事実」や「真実」を描くのではない。冒頭、現実には殺害されたモーロが解放され病院に収容されるシーンが出てくるように、現実と、ありえたかもしれない現実が入り混じった、虚実皮膜のドラマ。6話それぞれが、捜査を指揮する内務大臣、モーロとも親しいローマ教皇、「赤い旅団」のシングルマザーのメンバー、モーロの妻、そしてモーロ本人の視点から語られることで、それぞれの立場の苦悩が見えてくる。モーロを父と仰ぐ内務大臣の逡巡や、身代金を準備した教皇庁、リーダーの方針に異を唱える「赤い旅団」メンバー、政府と党を批判するモーロの妻の毅然とした姿勢、などからは、殺害という結末でなく、別の、ありえたかもしれない現実の種子も見て取れる。解放されたモーロがベッドでうっすら目を開き、面会したアンドレオッティ首相(妥協を拒否した強硬派)、党の書記長、内務大臣を何とも形容しがたい眼差しで見やる。映画を見終わって、冒頭の、ありえたかもしれない現実のショットが思い出された。

ゆったりしたリズム、しかし緊張の持続する画面。堂々たる映画で、5時間40分を長いとはまったく感じなかった。映画漬けを楽しんだ一日。

 

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August 04, 2024

『恋恋風塵』

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三十数年ぶりに映画館のスクリーンで見た『恋恋風塵』。真っ暗なトンネルの先に出口の光がかすかに揺れる冒頭から、やっぱりときめいてしまった。単線、1両だけの車両。トンネルを抜けた瞬間、亜熱帯の濃い緑と光が差し込むなか幼馴染の中学生ワンとホンが言葉少なに会話を交わすシーンの情感に、心をぎゅっと掴まれてしまう。台湾のホウ・シャオシェン監督が1987年につくった作品が久しぶりに上映されている(「台湾巨匠傑作選2024」、~8月30日、新宿・K's cinema)。

中学を卒業し台北に出て働くワンとホンの淡い恋物語。素晴らしいのは二人を囲む人と風景がたっぷり描きこまれているところだ。台湾の土とともに生きてきたワンの祖父や炭鉱で働く父。二人が住んでいた十分という村の、雲が走り光が翳る緑の山々。駅につづく長い石段。台北の昔ながらの町のたたずまいと、ブルース・リーの看板が置いてある映画館の屋根裏。民主化が始まったばかり、まだ産業らしい産業も育っていない1970~80年代の台湾がまるごと切り取られている。そんななかで語られる二人のぎこちない恋が切ない。僕が生涯に見た映画から10本挙げるなら、『恋恋風塵』は間違いなく入るだろう。

30年前、『侯孝賢(ホウ・シャオシェン)』というムックをつくるため写真家の平地勲さんたちと3週間、台湾に行ったことがある。映画に写るのと同じ電車に乗って、舞台になった十分を訪れて写真を撮った。当時は誰も訪れることのない村だったが、今はすっかり観光地になっているらしい。

認知症を患っているホウ・シャオシェンは今年、引退を発表した。もう彼の新作が見られないのは寂しい。

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