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April 22, 2024

『ブルックリンでオペラを』

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『ブルックリンでオペラを(原題:SHE CAME TO ME )』には見たいと思わせるフックがいくつかあった。まず映画の舞台がブルックリン。十数年前にブルックリンで一年ほど生活したので、懐かしい風景を見たい。そして記憶に残る女優が二人出ていた。マリサ・トメイとヨアンナ・クーリク。マリサは落ちぶれたストリッパー役を演じた『レスラー』が、ヨアンナは冷戦で引き裂かれた恋人同士を演じたポーランド映画『COLD WAR』が、映画もよかったけど二人が魅力的だった。もうひとつ加えればこの映画、ブルース・スプリングスティーンが主題歌を歌っている。

で、結果はといえば、いろんな要素を詰め込みすぎたきらいはあるけど、大人の恋愛映画として十分に楽しめました。

オペラ作曲家のスティーブン(ピーター・ディンクレイジ)は新作が書けずスランプ状態。妻の精神科医パトリシア(アン・ハサウェイ)に促され散歩に出る。二人の住まいはブラウンストーンの家が連なる高級住宅街ブルックリンハイツ。そこから南へ、レッドフックあたりまで歩いたらしい。レッドフックはイーストリバーに面した、かつての港湾・工場街。小生がいた十数年前は荒廃していた。そこのバーで、スティーブンは物資を輸送する曳舟の船長カトリーナ(マリサ・トメイ)に出会う。恋愛依存症だというカトリーナは、自らが暮らす船にスティーブンを誘いこむ。日本でもかつて『泥の河』のように船で暮らす生活があったけど、アメリカは今も港から港へ物資を運び船で暮らす人々がいるんだな。

カトリーナに刺激を受けたスティーブンは、彼女をモデルに新作オペラを完成させ評判をとる。カトリーナが偶然にパトリシアの診察を受けたことから、パアトリシアは夫とカトリーナの関係を知ってしまう。もともと潔癖症のパトリシアはそれを契機に精神を破綻させ、修道女となる。パトリシアの連れ子である息子の高校生(どうやら父親はインド系らしい)にはガールフレンドがいて、その母親がマグダレナ(ヨアンナ・クーリク)。マグダレナの夫は、娘(こちらもマグダレナの連れ子)が肌の色の異なるボーイフレンドとセックスしたのが許せず、警察沙汰にすると騒ぐ。親世代と子供世代、二組のカップルのどたばたが続いて、、、。

いかにもニューヨークらしい、いくつもの階層と民族と宗教がごっちゃになった物語。スティーブンとパトリシアは絵に描いたようなセレブ。一方、カトリーナは父親ゆずりの古い曳舟で生活している零細自営業者。東欧移民らしいマグダレナが結婚した男は裁判所の速記者で、一家は建売住宅のような家に住んでいる。マグダレナは家政婦(仕事先がパトリシアの家)をしているから裕福ではないのだろう。精神科医のパトリシアはユダヤ系だが少数派のカソリック。パトリシアと、彼女の家の家政婦であるマグダレナが共にカソリックであることを確認する会話がある。マグダレナの夫は、南軍の軍服を着て南北戦争の野外再現劇に加わるのが趣味。そんなセリフは出てこないが、たぶんトランプ支持者だろう。そんな多様というか、ごたまぜのあれこれが盛り込まれて、映画のスパイスになっている。

ビジュアルの見どころは現代的なオペラの舞台と、古びた曳舟が行き来するニューヨークの河口と、ブルックリンの風景。役者では『スリー・ビルボード』にも出ていた小人症のピーター・ディンクレイジの存在感が際立つ。ごひいきのマリサ・トメイも、キャップから髪をはみ出させ、化粧っ気のない労働着姿が素敵だ(原題はスティーブンが書くオペラのタイトルだが、SHEはアン・ハサウェイでなくマリサ・トメイのこと)。ヨアンナ・クーリクも働く母親役だから、こちらも化粧っ気ないひっつめ髪で登場するけど、悲し気な青い瞳と厚い唇の魅力は変わらない。原作・脚本・監督は小説家でもあるレベッカ・ミラー(父はアーサー・ミラー)。ラストはお約束どおりだけど、こういう映画はそうでなくちゃ。

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April 16, 2024

『ハリケーンの季節』を読む

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フェルナンダ・メルチョール『ハリケーンの季節』(早川書房)の感想をブック・ナビにアップしました。

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April 13, 2024

写真展ふたつ

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ふたつの写真展を巡る。

ひとつは「安井仲治 1903‐1942」(~4月14日、東京ステーションギャラリー)。1930~40年代に個性的な写真を撮り、若くして亡くなった写真家の回顧展。昭和初期、シュールレアリスムなど前衛的な写真と、後に報道写真と呼ばれるドキュメンタリー的な要素がひとりのなかに共存しているのが興味深い。大胆な光と影の画面がいいな。

もうひとつは大西みつぐ「TOKYO EAST WAVES」(~4月25日、目黒・ふげん社)。自身も暮らす東京東部、川と湾岸の街と人を撮りつづける写真家の1980~90年代のカラー作品。街歩きしながら捉えた小さな光景が積み重なって、バブルと呼ばれた時代のありのままの姿を、ちょっと寂しげに照らし出す写真群。

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April 11, 2024

菊地成孔ダブ・セクステット

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久しぶりにブルーノート東京へ出かけ、菊地成孔ダブ・セクステットを聞く(4月10日)。

今夜のライブは「リユニオン」と名づけられている。20年前に結成されたが、メンバーがみな自分のバンドを持っており、それぞれ忙しかったりコロナがあったからだろう、10年以上活動がなかった。菊地はこのバンドについて以前、現代的なマイルス・クインテットと言っていたと記憶する。コルトレーンやウェイン・ショーターがいたマイルス・クインテットは1960年代に活動したが、現代的なとは、その後のフリージャズや電化を経験したということだろう。サックス(菊地)、トランペット(類家心平)の2管にピアノトリオ、それにダブ・イフェクトのエンジニアが加わった6人編成。

メンバーが揃ってダークスーツにネクタイで登場したせいもあるか、みんないいおっさんになったなあ。でも演奏を始めると以前とまったく変わらない。曲名などMCもなく、ぶっつづけで5曲の白熱したプレイ。このグループに惹かれるのは、どんな激しい演奏であろうと菊地と類家の音色のよさと唄心が滲みでているから。

アンコールで1曲だけ若いラッパーが加わり、クールなジャズを聞かせてくれた。

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