「中平卓馬 火│氾濫」展
「中平卓馬 火│氾濫」展(竹橋・国立近代美術館。~4月7日)へ。
中平卓馬とは小生が写真雑誌にいたとき、1970年代前半と1990年代半ばに何度か会っている。70年代には写真家というより論客として、マッド・アマノの著作権裁判や、友人にしてライバルである森山大道について話を聞き記事を書いた。90年代は昏倒・記憶喪失から再起しての作品掲載のためだった。
以前に横浜美術館で開かれた展覧会は再起後のカラー作品に焦点が当てられていたが、今回は60年代の雑誌発表から晩年のカラー作品まで丹念に見せて、ああ、中平卓馬はこういう写真家だったんだと納得がいった。記憶喪失以前の写真と以後の写真には断絶があると言われ、小生もそう感じてきたけれど、撮影スタイルに違いはあるにせよ、ずっと同じものを見て、シャッターを押していたんだと思った。それは彼の写真集のタイトルを借りれば「来るべき言葉のため」の現実の断片ということだろう。
時を同じくして柳本尚規『プロヴォーク 中平卓馬をめぐる50年目の日記』(読書人刊)が出て、雑誌編集者から写真家へ転身する時代の中平卓馬が、親しくつきあった仲間の眼から鮮やかに描きだされている。小生、登場人物の多くに面識があるので、風貌からしゃべり方、その場の雰囲気が目に浮かぶ。
70年代、中平さんと会うのはいつも数寄屋橋の喫茶店で、歌手の安田南がふらっと姿を見せたりした。舌鋒鋭いが、人懐っこい表情でにやりと笑う、あの笑顔が忘れられない。
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