「明治のメディア王 小川一眞と写真製版」展
「明治のメディア王 小川一眞と写真製版」展(~2月12日、飯田橋・印刷博物館)に出かけた。写真雑誌の編集者だったから、小川一眞という名前は明治の写真家として知っていた。でも小川が同時にコロタイプや網版といった写真製版を日本に導入して印刷・出版に大きな足跡を残した人物でもあるとは知らなかった。
展示されているのは小川が製版し、印刷・出版した本や「写真帖」。写真家としての小川は、ともかくなんでも撮っている。たいていの人が見たことがあるのは、旧1000円札に使われた夏目漱石の肖像。明治の高層建築、凌雲閣に展示された芸妓100人の肖像。牧野富太郎の本を飾った植物写真。東宮御所など建築写真。中でも力を注いだのは水墨画や仏像などの美術品の撮影。これは細密描写が可能なコロタイプで印刷され、「写真帖」自体が手工芸的な美術品といった趣きだ。岡倉天心らが創刊し、現在までつづく日本美術の雑誌『國華』のコロタイプ印刷も手掛けている(『國華』はいま、コロタイプ印刷で世界的に有名な京都・便利堂で印刷されている)。
その一方で小川は、日清・日露の戦争や明治天皇の大葬や伊藤博文国葬といった時事的な印刷物も手掛けた。「写真帖」はコロタイプで印刷されているが、東京朝日新聞の付録についた日清戦争の写真などは網版で製版し凸版印刷で刷られている。写真原稿を網目状のスクリーンを通して撮影し、写真の濃淡をドットの大小で表す網版は手工業的なコロタイプに比べ大量印刷が可能で、以後、新聞や雑誌の写真印刷は網版になった。写真を印刷できるようになった新聞や雑誌が、メディアとして大きく発展したことは言うまでもない。20世紀末にデジタル化されるまで、われわれ世代の編集者にとっても網版はおなじみの製版技術だった。……なんてことを思い出しながら、ちょっと専門的ながら楽しい展覧会でした。
常設展の「印刷の日本史」も充実している。世界最古の印刷物が法隆寺にあるとは知らなかった。70歳以上無料(写真左下にあるのは製版に使うカメラ)。
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