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November 16, 2023

『サタデー・フィクション』

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コン・リーを初めて見たのはデビュー作『紅いコーリャン』だったから、もう三十数年前のことになる。その後の映画も主なものは見ている。代表作『さらば、わが愛/覇王別姫』はむろん、『紅夢』や『花の影』が記憶に残っている。シンガポール人と結婚し国籍を変えてアメリカ映画にも出るようになったが、やはり中国映画の彼女が生き生きしている。57歳になった今も変わらずに美しい。

彼女がロウ・イエ監督と組むのは初めて。『サタデー・フィクション』(原題:蘭心大劇院)は歴史ものスパイ映画の仕立てになっている。といってもロウ・イエのことだから活劇のジャンル映画ではなく、全編モノクロで手持ちカメラの撮影、長回しもある。劇中劇と現実がつながっていたりもする。コン・リーも女優という役どころとはいえ華やかな衣装でなく、化粧っ気もない。

日本軍の真珠湾攻撃7日前の上海。英仏租界は周囲を日本軍に囲まれ孤島のようになっていた。英仏日に重慶(蒋介石政権)、南京(親日の汪兆銘政権)の諜報員が入り乱れている。人気女優ユー・ジン(コン・リー)が、かつての恋人タン・ナー(マーク・チャオ)が演出する舞台(横光利一の「上海」)に出るため上海にやってくる。同じころ、古谷海軍少佐(オダギリジョー)が新しい暗号書を携えてやってくる。孤児でフランスの諜報員に育てられスパイの訓練を受けた彼女の真の目的は、古谷少佐から日本軍の攻撃がどこに向かうかを探りだすことだった、、、。

 モノクロ画面が時代を感じさせる。今もバンドに残る当時の建物、キャセイホテル(和平飯店)や蘭心大劇院での撮影、ホテルの窓からは黄浦江が見える。劇中劇としてジャズにダンスという当時の退廃的な空気も再現される。でもそれ以外は映画音楽もなく、現実音だけのリアルな展開。エンタメふうなサスペンスの盛り上げはなく、最後にコン・リーが銃撃戦に絡むおまけはあるが、徐々にこの映画が女優と演出家の愛の物語であることが見えてくる。

 ロウ・イエの映画は、政治的事件を素材にした『天安門、恋人たち』でも、フランスで撮った『スプリング・フィーバー』でも、犯罪映画の前作『シャドウプレイ』でも、男女だったり同性であったりの愛が主題になっていることが多い。その主題をいろんな素材、いろんなスタイルで撮っているということなんだろう。コン・リー、オダギリジョー、台湾のマーク・チャオがそれぞれによく、楽しめる映画でした。

 

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