« October 2023 | Main | December 2023 »

November 26, 2023

琉球の組踊

231126


琉球の組踊というものを初めて見た(「能と組踊」千駄ヶ谷・国立能楽堂、11月25日)。18世紀に琉球王国で清朝からの使者を歓待するためにつくられたもの。琉球古来の芸能や故事を基に、能や歌舞伎、また中国の演劇にヒントをえて独自の芸能に育った。これが琉球の音と色に満ちて楽しい。

この日の演目は「執心鐘入」。首里王府へ出府する途中、一夜の宿を乞うた中城若松(宮城茂雄)が宿の女(佐辺良和)に恋われ、寺に逃げ込み鐘に身を隠す。若松を追った女は鬼女に変身してしまう。能の「道成寺」に似てるが、こういう伝承は各地に残っているんだろう。衣装は琉球王朝ふうの鮮やかなもの。セリフと謡は島言葉。曲は琉球の唄。笛太鼓、箏に三線と胡弓が入る。

この日は能(観世銕之丞「三井寺」)と組み合わせ、能舞台で演じられたためかシンプルな舞台だったが、沖縄で組踊を見た友人によると、もっと大がかりでエンタメ的な演目もある、とのこと。これは是非、見てみたい。

| | Comments (0)

November 23, 2023

ともくらフェス

Img_2749


「移住者(移民・難民)と共に」とサブタイトルのついた「ともくらフェス」(23日、川口市・並木元町公園)に出かけた。小生、この催しに関係するNGOの会員なので。「ともくら」は「様々な文化的背景を持つ人々と共に暮らす」の意。

公園広場に十数のテントが並び、アクセサリーなんかの小物やスカーフ、また食事や飲み物を販売している。出店しているのはベトナム、チベット、ミャンマー、韓国、スリランカ、ウクライナ、クルドなど。中央のテントではイベント。クルドのチーズピザ(?)とチャイを手にトークとフィリピンの歌を聞いた。

川口は小生が生まれ育った町だが、2023年現在、全国で在留外国人がいちばん多い自治体になっている。39000人余で、住民の6.7%(ちなみに2位は東京都新宿区、3位は同江戸川区)。民族別に見ると多い順に中国、ベトナム、フィリピン、韓国、トルコ。トルコ国籍の多くはクルド人で、全国のクルド人の大多数が川口と、隣接する蕨市に暮らしている。「ワラビスタン」とか「カワグチスタン」と呼ばれ、トルコ料理の店も多い。また西川口には、現地の味そのままの「ガチ中華」の店が集まって西川口チャイナタウンを形成している。蕨駅に近い芝園団地は、世帯の半分以上が中国人世帯になり話題になった。

川口は昔から外国人の多い町だった。小生の小学校時代、どのクラスにも数人の在日韓国・朝鮮人がいた。川口は鋳物の町で、戦争中は軍事産業の末端をになったが、彼らの親は鋳物工場で働いたり、焼肉料理店を営んだり、また廃品回収に従事したりしていた。同世代なら映画『キューポラのある街』で、吉永小百合の同級生が北朝鮮に帰ることになり川口駅前に見送りにいく場面を覚えているかもしれない。小生の同級生、李君も北に帰った(その後の消息は分からない)。だから脱北者や日本に漂着した漁民や、飢餓に苦しむ人民のニュースを見ると、ひょっとして李君の孫かも、などと思ってしまう。そんなわけで、生まれ育った町の現在の姿に無関心ではいられない。


| | Comments (0)

November 21, 2023

「幕末明治の絵師たち」展

231121


「激動の時代 幕末明治の絵師たち」展(~12月3日、六本木・サントリー美術館)へ。黒船から維新に至る幕末は、政治的動乱だけでなく西洋のさまざまな画像や絵画のスタイルが入ってきて、絵画の世界も「激動の時代」だった。その影響を受けて様々な挑戦をした幕末明治の絵師たち、狩野一信、谷文晁、安田雷洲、国芳、芳年、小林清親、井上安治らの絵画や版画が集められている。

初めて見たのは安田雷洲。銅版画の作品が面白かった。「東海道五十三駅」など、広重で見慣れた五十三次が日本の風景でありながら異国風な味わい。銅版画の技法や雰囲気を持ち込んだ肉筆の風景画も迫力がある。このところ見る機会が多い国芳や芳年を楽しみ、最後に置かれた小林清親、特に「柳原夜雨」(写真、明治14年)に見入ってしまう。雨に光る千住・柳原、遠くに洋館が小さく見えるのが粋だなあ。

| | Comments (0)

November 17, 2023

木内昇『よこまち余話』を読む

Yokomachi_kiuchi


木内昇『よこまち余話』(中公文庫)の感想をブック・ナビにアップしました。

| | Comments (0)

November 16, 2023

『サタデー・フィクション』

Photo_20231113162701

コン・リーを初めて見たのはデビュー作『紅いコーリャン』だったから、もう三十数年前のことになる。その後の映画も主なものは見ている。代表作『さらば、わが愛/覇王別姫』はむろん、『紅夢』や『花の影』が記憶に残っている。シンガポール人と結婚し国籍を変えてアメリカ映画にも出るようになったが、やはり中国映画の彼女が生き生きしている。57歳になった今も変わらずに美しい。

彼女がロウ・イエ監督と組むのは初めて。『サタデー・フィクション』(原題:蘭心大劇院)は歴史ものスパイ映画の仕立てになっている。といってもロウ・イエのことだから活劇のジャンル映画ではなく、全編モノクロで手持ちカメラの撮影、長回しもある。劇中劇と現実がつながっていたりもする。コン・リーも女優という役どころとはいえ華やかな衣装でなく、化粧っ気もない。

日本軍の真珠湾攻撃7日前の上海。英仏租界は周囲を日本軍に囲まれ孤島のようになっていた。英仏日に重慶(蒋介石政権)、南京(親日の汪兆銘政権)の諜報員が入り乱れている。人気女優ユー・ジン(コン・リー)が、かつての恋人タン・ナー(マーク・チャオ)が演出する舞台(横光利一の「上海」)に出るため上海にやってくる。同じころ、古谷海軍少佐(オダギリジョー)が新しい暗号書を携えてやってくる。孤児でフランスの諜報員に育てられスパイの訓練を受けた彼女の真の目的は、古谷少佐から日本軍の攻撃がどこに向かうかを探りだすことだった、、、。

 モノクロ画面が時代を感じさせる。今もバンドに残る当時の建物、キャセイホテル(和平飯店)や蘭心大劇院での撮影、ホテルの窓からは黄浦江が見える。劇中劇としてジャズにダンスという当時の退廃的な空気も再現される。でもそれ以外は映画音楽もなく、現実音だけのリアルな展開。エンタメふうなサスペンスの盛り上げはなく、最後にコン・リーが銃撃戦に絡むおまけはあるが、徐々にこの映画が女優と演出家の愛の物語であることが見えてくる。

 ロウ・イエの映画は、政治的事件を素材にした『天安門、恋人たち』でも、フランスで撮った『スプリング・フィーバー』でも、犯罪映画の前作『シャドウプレイ』でも、男女だったり同性であったりの愛が主題になっていることが多い。その主題をいろんな素材、いろんなスタイルで撮っているということなんだろう。コン・リー、オダギリジョー、台湾のマーク・チャオがそれぞれによく、楽しめる映画でした。

 

| | Comments (0)

November 11, 2023

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

Killers_of_the_flower_moon_film_poster

 

大作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を見て最初に気になったのは、製作費と興行収入の対比。というのは、かつてこの映画と同様に、アメリカ人が見たくないであろうアメリカ史の暗部を主題にした大作『天国の門』が大コケし(製作費4400万ドル、興行収入350万ドル)、製作したユナイト社の経営が傾いてMGMに買収された過去があったから。英語版wikipediaによると、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は製作費2億ドルに対して興行収入1.2億ドル。まだ各国で公開中で興行収入は増えるだろうから、『天国の門』のようにはならないだろう。にしても、かなりの赤字が出そうだ。

『天国の門』は西部開拓史でアングロサクソン系移民による東欧系移民の虐殺がテーマだったが、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は石油ブーム時代の白人による先住民の連続殺人をテーマにしている。『天国の門』は役者は地味だし作品の出来もよくなかったが、今回はディカプリオ、デ・ニーロの共演にマーティン・スコセッシ監督と3枚看板。3時間超をまったく飽きさせず、作品の出来もいい。

1910年代、オクラホマの居留地に押し込められた先住民オセージ族の土地に石油が出て掘削ブームが起きた。各地から企業家や流れ者が押しかけ、一部のオセージ族は裕福になる。第一次大戦を兵士として戦ったアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)が、オクラホマで成功している叔父ウィリアム(ロバート・デ・ニーロ)を頼ってやってきて運転手として働くことになる。アーネストは裕福なオセージ族女性モリー(リリー・グラッドストーン)を送り迎えするうち恋仲になり、叔父の勧めもあって結婚する。モリー一族は石油の収入で財産家だが、相続権を持つモリーの姉弟が次々に殺され、モリー自身も病気のため衰弱していく。他にも豊かなオセージ族の不審な死が相次ぎ、連邦捜査官がやってくるのだが、、、。

デ・ニーロの善人面、慈善家面した悪党がなんともいい。ディカプリオはその悪だくみに気づきつつ、妻への愛は持ちつづけるといった役どころ。モリー役のリリー・グラッドストーンは先住民系の女優で、落ち着いた品のいい演技が素晴らしい。

現実にあった事件を素材にし、オセージ族の協力を得て現地で撮影している。冒頭、荒野に広がる無数の木製掘削井戸の俯瞰は圧巻。実際につくったんだろう。CGではこのリアリティは出てこない。アメリカ史の闇というべきテーマを金のかかった大作としてつくる。ハリウッド、ひいてはアメリカという国の活力なんだろう。ディカプリオとデ・ニーロがプロデューサーとして関わり、アップルも出資している。

 

 

 

 

 

| | Comments (2)

November 04, 2023

須田剋太展

Img_2713


埼玉県立近代美術館の常設展示で須田剋太特集が組まれている(さいたま市浦和区、~11月27日)。戦後の抽象画を中心に、戦前の具象画も含めて四十数点。須田は抽象画家として知られるが、1970年代以降、司馬遼太郎「街道をゆく」の挿画を担当したことをきっかけに具象にも復帰した。小生、その「街道をゆく」の担当編集者として須田さんの晩年、司馬さんとともにバスクや中国を旅したことがある。

須田さんの没後、「街道をゆく」挿画展や、晩年の迫力ある具象画展は開かれたが、抽象画を中心にした展示は、これらの作品が寄贈された埼玉県近美ならでは(須田さんは埼玉県出身)。担当編集者だったころ、西宮の須田さんの家に挿画を受け取りにいくと、アトリエに売れない抽象画が山のように積んであったのを覚えている。抽象画といっても須田さんらしくごつごつした質感(マチエール)が素晴らしく、写真の2点はカンバスでなくドンゴロスを使って立体的なものに仕立てられている。

戦前の年老いた男性の人物画も朴訥な人となりを感じさせ、思わず須田さんの自画像と錯覚してしまった。

| | Comments (0)

November 01, 2023

京都・鳥辺野

Img_2709


5、6年ぶりに京都へ行って友人に会ったり墓参りをしたり。

京都へ来ると、なぜか名所でもなんでもないここへ来てしまう。清水寺から東山五条の大谷本廟へ抜ける坂道。見渡す限り墓がつづいている。むかし古文の授業で、京の戦乱や疫病の死者が葬られた場所として「鳥辺野」という地名が記憶に残っている。それがここ。本願寺の墓地が多く、親鸞が荼毘に付された御荼毘所もある。平安時代、中世から日清日露太平洋戦争と、千数百年にわたる死者がここに眠っている。

とびぬけて背が高く立派なのは、たいてい戦死した兵士の墓。墓碑を読んでいくと中国大陸での死者が多い。日中戦争で京都の第16師団は華北から南京戦線に投入された。その後、レイテに送られ、ここでも大きな損害を出す。上等兵(名誉の戦死で特進するから生前は一等兵か二等兵)が多い墓碑をひとつひとつ読み、江戸時代の商家らしい古びた墓や、参る人間が絶え調査の札がついている墓を眺めていると時間を忘れてしまう。

外国人観光客もここまでは来ないので静か。ウラ京都のお勧めスポットです。

| | Comments (0)

« October 2023 | Main | December 2023 »