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September 08, 2023

『福田村事件』

Fukudamura

『福田村事件』を見た。1923年、関東大震災の5日後、千葉県福田村で行商人9人が朝鮮人と間違われ自警団に殺された事件を映画化したもの。ドキュメンタリー映画をつくってきた森達也監督が初めてつくった劇映画。題材も森監督らしく挑戦的だが、社会派というよりもっと多面的な群像劇で、緑豊かな農村を舞台にした艶っぽい画面に惹きこまれた。

映画はまず地震が起きる前の村の様相をたっぷり描く。植民地の朝鮮で教師をしていた澤田(井浦新)が妻の静子(田中麗奈)と村に帰ってくる。インテリの澤田とモダンな洋装の静子は村では異分子。同時にシベリア出兵で死んだ兵士の遺骨も帰ってくるが、兵士の妻(コムアイ)と船頭の倉蔵(東出昌大)は恋仲になっている。年老いた貞次(柄本明)は息子が軍隊に行っている間に息子の嫁との間に子供をつくった(らしい)。植民地での体験から不能になった澤田に見せつけるように、渡し舟に乗った静子は脚を開いて倉蔵を誘惑する。閉ざされた村のエロスが生々しい(脚本の一人、荒井晴彦の仕事だろう)。名主の家柄である村長(豊原功補)は大正デモクラシーの信奉者だが、宴会では在郷軍人会の長谷川(水道橋博士)ら愛国主義の勢いがいい。そして地震が起きる。

戒厳令が敷かれ、「朝鮮人が襲ってくるらしい」と流言が飛ぶ。在郷軍人を中心に自警団が組織される。村人が不安と猜疑にとらわれるなか、新助(永山瑛太)率いる薬の行商の一団がやってくる。彼らは讃岐から来た被差別部落の住民で、村人は讃岐弁の行商団を朝鮮人かと疑い、詰めよる。村長や澤田、倉蔵は村人を落ち着かせようとするが、興奮した村人を前に無力だ。東京へ出かけた夫が帰ってこず不安を募らせた嫁が、いきなり鎌を新助の頭に突き立てる。行商団が逃げ出すのをきっかけに、殺戮が始まる。といっても、クローズアップや細かいカット割りでドラマチックに描かれるわけではない。カメラは引き気味で、竹槍を持つ村人もへっぴり腰、尻もちをついたりする。広い川原で行商団が殺されてゆく画面がリアル。

映画は殺戮した村人たちを断罪する視点で撮られている訳ではない。ただ、普段は善良な村人たちが憑かれたように行商団を殺してしまう過程を映し出す。集団に同調しない船頭の倉蔵。デモクラシーを口にしながら村人たちを抑えられない村長。朝鮮人に同情を寄せながら加害者になった植民地体験のトラウマで、結局は黙ってしまう澤田。被差別部落の解放運動に目覚めて結束する行商団。いろんな視点からこの事件を見ているのがいかにも森監督らしい。ただ、事件を書こうとする新聞記者のセリフがあまりに立派なのが、かつて新聞社にいた身には少々気恥ずかしかったが。

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