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May 16, 2023

松浦寿輝『香港陥落』を読む

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松浦寿輝『香港陥落』(講談社)の感想をブック・ナビにアップしました。

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May 12, 2023

『レッド・ロケット』

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共感できる人間がひとりも登場しないのに、見終わってなんともやるせない気持ちになる映画だった。

落ちぶれたポルノ俳優のマイキー(サイモン・レックス)が無一文になり、長距離バスでロスから故郷のテキサスに帰ってくる。やはりポルノ女優だった元妻と義母の家へ、二人をうまく言いくるめて転がり込む。マリファナの売人として日銭をかせぎ、ドーナツ店でアルバイトする女子高生ストロベリー(スザンナ・サン)を口説いて恋人同士になり、彼女を相方にポルノ業界への復帰を夢みる。

マイキーの自慢は「ポルノのアカデミー賞に5度もノミネートされた」こと。加えて口先三寸で元妻もストロベリーもたらしこむ。元妻もネット売春で暮らしているらしい。マイキーが家賃を払うことで話がつき、元妻と義母をごちそうに連れて行くのはドーナツ店。ストロベリーはそこでアルバイトしている。元妻の家には車がなく、マイキーは自転車でストロベリーを口説きに通う。撮影はヒューストン郊外の港町テキサス・シティ。製油工場のプラントと、そこから出る煙を背景にマイキーが自転車をこぐシーンが何度も出てくる。大統領選挙の年で、トランプの”Make America Great Again”の巨大な看板が立っている。デート帰りには、ストロベリーが母に借りたピックアップトラックで送ってもらう。大都市ならともかく、アメリカで車を持たないことはかくも悲しい。気弱な善人である隣人の車に同乗して大事故を起こし、しかし起訴された隣人はマイキーの存在を明かさず、自分も罪に問われるのを心配していたマイキーはひそかに裏庭でガッツポーズを取る。隣人の老いた父親が、フェンス越しにそれを黙って見ている。

最後、ぶちのめされ、ストロベリーとロスへ行く金を奪われ、元妻の家を追い出されたマイキーは、夜通し歩いてストロベリーの家、ピンク色のチープな建売住宅の前にやってくる。そこでもマイキーはなお夢を見る。

16ミリフィルムで撮影された、粒子の粗い風景がリアル。ショーン・ベイカー監督の前作『フロリダ・プロジェクト』は、マイアミのディズニーワールド近くで売春して暮らす貧困層の母と小さな娘の話だった。今回も同じような構造。社会の底辺に生きる人間たちの、トランプが出てくる背景をえぐる眼をもち、でも楽天的で、ちょっとエロチックで、救いもあり、楽しめる映画に仕上げる。アメリカ映画のパワーを見た。

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May 10, 2023

「奇想の絵師 歌川国芳」展

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地元の美術館で「奇想の絵師 歌川国芳」展(~6月18日、うらわ美術館)が開かれている。先日、三菱一号館美術館で見た「芳幾・芳年」展の芳幾、芳年は二人とも国芳の弟子。正統派の芳幾はともかく、国芳以上に「奇想」という形容が似合う芳年の師匠がどんな絵師だったのか、ジャンルごとに160点が展示され、その全貌がわかる。

ダイナミックな武者絵。豪傑の身体に描かれた刺青が人気を呼び、刺青を彫るのが流行したというから、時代のインフルエンサー。妖怪・怨霊・幽霊はおどろおどろしく、贅沢を禁じた天保の改革を風刺したりの政治批判でもある。役者絵が禁じられたことから動物に擬したパロディも面白い。鉄火肌の女たちの肖像もいい。当時、歌川派として人気をわけあった歌川広重のしっとりした風景画とは全く肌合いの違う、ドラマチックな絵。劇画のルーツとも言われているらしい。これは幕末のいなせな男、粋な女の間で人気沸騰し、競って買い求められただろうな。

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