「松本竣介デッサン50」展
群馬県桐生市の大川美術館へ「松本竣介デッサン50」展(~3月12日)を見に行った。
松本竣介という名前が記憶に残るようになったのは、竹橋の近代美術館の常設展だったと思う。ここの常設展は充実していて、展示替えごとに藤田嗣治の戦争画とか興味深いものが見られるけれど、松本竣介の「Y市の橋」はいつ行ってもたいてい展示されていた。都会の運河にかかる橋と背後の工場が印象的なモノトーンの画面で、橋上にたたずむ黒い人影を見ると、「橋上の人よ/どうしてあなたは帰ってきたのか」という鮎川信夫の詩を思い出す。両者とも戦争の影が色濃いことでは共通している。その後、神奈川県の近代美術館でも彼の絵を見る機会があった。
大川美術館が松本竣介の作品をたくさん所蔵していることを知ったのはつい最近。「デッサン50」は彼のデッサンを中心に、油彩も交えて展示されている。竹橋で見た「Y市の橋」のデッサンもあり(写真上)、油彩のための習作ではなく鉛筆と墨で描かれた独立した作品と思える。すぐ隣には松本のアトリエが再現されていて(写真下)、壁には油彩の「Y市の橋」がかかっている。この絵の油彩バージョンは、竹橋はじめ数点あるらしい。
この絵が描かれたのは1944(昭和19)年。総動員体制で「国防美術」が叫ばれたこの時期、彼はそこから距離を置いてゴミ処理場や工場や橋といった都会の裏側をデッサンしていた。
浦和から2時間かけて見にきてよかった。こういう充実した私設の美術館があるとは、桐生は豊かな町なんだな。
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