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December 06, 2022

『文藝別冊 中井久夫』

221206

8月に亡くなった精神科医・中井久夫を特集した『文藝別冊 中井久夫』(河出書房新社)が出ている。もともと5年前に刊行されたものだが、追悼原稿5本を加えて増補新版として出版された。中井の書くもののファンとして、さっそく買い求めた。中井は統合失調症を専門とする精神科医として、現場で患者を診ながら多くの本を執筆した。精神医学の専門書だけでなく、名文の誉れ高いエッセイ、ギリシャ現代詩の翻訳と幅広い。僕が最初に読んだのは1982年に出た『分裂病と人類』(当時は統合失調症をそう呼んでいた)で、精神の病を人類史のなかに位置づけた壮大な文明論。これを読んで興奮し、当時在籍した『朝日ジャーナル』誌で特集を企画して話を聞きに行ったのは懐かしい思い出だ。

新たに書かれた追悼原稿では、同じ精神科医である斎藤環のがよかった。中井の書くものは体系的・俯瞰的というよりギラリと光る発想や断片が散りばめられたものだが、そんなスタイルを、中井が統合失調症者の言語を「接ぎ穂の乱舞」と名づけたのを中井自身に返して「接ぎ穂の乱舞」と呼んでいるのは納得。その斎藤環と作家・松浦寿輝の対談も、精神医学と文学を往還した中井の立ち位置を明らかにする。中井自身の文章や対談も再録されていて、僕が担当した浅田彰氏との対談「幻のアレキサンドリア」が収められているのは嬉しかった。編集者として自画自賛になるけれど、いま読んでもとても面白い。

NHK・Eテレの「100分 de 名著」でも今月は中井久夫を取り上げている。まだ読んでないのもあるから、久しぶりに本棚から取り出すとしようか。 

 

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