『ダブル・サスペクツ』 地方都市の日常
『ダブル・サスペクツ(原題:Roubaix, une Lumière)』をDVDで見た。劇場未公開のフランス映画。wowowで『ルーベ、嘆きの光』のタイトル(このほうが原題に近い)で放映されたことがある。アルノー・デプレシャン監督の故郷である北フランス、ベルギー国境で人口10万足らずの小さな町ルーベを舞台にした作品。
町の警察署長ダウード(ロシュディ・ゼム)が車を運転しながら、路上で燃えている車を見つける場面から始まる。警察では、通報を受けてパトカーが出動している。バーの喧嘩。強盗。貧困地区のアパートで放火。娘の失踪。路上で炎上していた車の持ち主が、外国人にやられたと訴えにくる(保険金目当ての狂言)。
町にはイスラム教徒やアフリカ系移民が多い。ダウードもこの町で育ったアラブ系フランス人。一人暮らしで、家族は北アフリカ(アルジェリアだろう)へ帰った。刑事が少ないので、彼自身も現場に出かけ、当事者の話を聞く。仕事が終わるとホテルのバーで孤独に過ごす。賭けはしないが競馬が好きで、馬を買おうとしている。甥はイスラム過激派と関係したらしく収監されている。住民の多くと顔見知りである温厚な警察官ダウードの目を通して、ルーベの町が描かれる。
いくつもの出来事のなかから、放火事件に焦点がしぼられてくる。焼けたアパートから殺された老女が発見される。隣家に住む女性カップル、クロード(レア・セドゥ)とマリーが嘘の証言をしたことから、2人に疑いがかかる。映画の後半、署長のダウードを中心に2人の証言の矛盾をつきながら真相がわかってくる。といって、大きな謎や驚く事実があるわけではない。財布と日用品を盗み、はずみのように老女を殺してしまう。映画的な興奮はない。
淡々とした描写から浮かびあがるのは、移民が多く、貧困層も多い地方都市の日常。そんな町に起きる出来事を署長として日々処理するダウードは最後、馬を買うことを決め、その馬が走る姿を観客席から見つめる。デプレシャン監督は、特定の誰かでなく町そのものを描きたかったんだろう。そこに「une Lumière(光)」とタイトルをつけたあたりに、監督の目線がうかがえる。レア・セドゥが貧しいシングルマザーをすっぴんで演じているのが魅力的。
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