『ブラッドライン』2人の老優
ネットフリックスのオリジナル・ドラマ『ブラッドライン(原題:Bloodline)』を見ようと思った理由はふたつ。ひとつは、サム・シェパード、シシー・スペイセクという1970~80年代のアメリカ映画で活躍した役者が出ていること。サム・シェパードは『天国の日々』や『ライトスタッフ』、シシー・スペイセクは『三人の女』『ミッシング』といった、作品としても見事な映画で深く印象に残っていた。
もうひとつはフロリダ半島沖の島々、フロリダキーズが舞台になっていること。半島にいちばん近い島キーラーゴはハンフリー・ボガート、ローレン・バコールの同名の映画で有名だし、いちばん遠い島キーウェストはヘミングウェイが暮らしたことで知られる観光地。十数年前、半島からフロリダキーズを貫いて海の上を走る道路を通ってキーウェストまで旅行したことがあるので懐かしかった。
サム・シェパードはシーズン1の6作目で死んでしまうけれど、年老いても相変わらず恰好いい。白髪になっても若き日の精悍な顔と独特のしゃべり方は健在だ。シシー・スペイセクはこのドラマを貫く影の主役といってもいい役どころで、中年になった子供たちの葛藤に悩む老母役にどんぴしゃり。ふたりを堪能できる。
サム・シェパードとシシー・スペイセクの夫婦がフロリダキーズの島でリゾートホテルを成功させ、地元の名士になっている。彼らには4人の子供がいて、長男(ベン・メンデルソーン)は島を出て行方不明。次男(カイル・チャンドラー)は郡警察の刑事。三男は港で船舶業をやり、末っ子の娘は弁護士。行方不明になっていた長男が島に舞い戻るところから物語が始まる。長男はどうやら犯罪グループと関係ありそう。長男が島を出たのは、過去に家族間でトラブルがあり、そのせいらしい。舞い戻った長男はホテルを手伝い、シシー・スペイセクの母親は彼を溺愛する。海で発見された少女の殺人事件と長男が絡む犯罪、家族の秘密をめぐって毎回、少しずつ彼らの過去が分かってくる。
アメリカの1時間ドラマは手法が開発されつくしていて、たくさんの素材を詰めこみ短いカットを積み重ね展開もものすごく早いけど(かつての『24』とか今も日本で放映されてる『CSI』シリーズとか)、このドラマはゆったりと、会話なども比較的長いショットで家族それぞれのキャラクターや関係を描く。それがフロリダキーズの美しい景色と相まって、じりじりと緊張が高まってゆく。舞い戻った長男を演ずるベン・メンデルソーンが時に犯罪者の狡猾な顔、時に母親に甘える無垢な子供を装ったりして秀逸。いかにも善人顔の次男カイル・チャンドラーが兄との葛藤から犯罪に巻き込まれてゆくのがどうやら物語の軸になるようだ。まだシーズン1を見終えたところ。
もっともこのドラマ、シーズン5まで予定されていたのがネトフリの視聴回数が上がらず、シーズン3で打ち切られたらしい。とはいえ、シシー・スペイセクとフロリダキーズの景色に惹かれて最後まで見てしまうだろうな。
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