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July 27, 2020

『ダ・ファイブ・ブラッズ』S・リー版『地獄の黙示録』

Da-5-bloods

コロナ禍で家にいるあいだ、ネットフリックスではドラマばかり見ていた。タイムトラベル・ミステリー『ダーク』、人気の韓流『愛の不時着』、エリザベス女王を軸にした英国王室内幕史『ザ・クラウン』、コカイン密売組織メデジン・カルテルと米国麻薬取締局捜査官の攻防『ナルコス』。どれもはまって「ネトフリ廃人」になってしまったが、十数時間(数十時間)に及ぶ連続ドラマの面白さと映画の面白さとはまた別という気がする。久しぶりに映画を見たくなって選んだのがネットフリックス・オリジナルの『ダ・ファイブ・ブラッズ(原題:Da 5 Bloods)』。ニューヨークを拠点に活躍するアフリカ系スパイク・リーの作品だ。ひとことで言えばスパイク・リー版『地獄の黙示録』だった。

ベトナム戦争に従軍したアフリカ系の元兵士4人が45年後にベトナムにやってくる。目的は彼らのリーダーで戦死したノーマンの遺骨収集と、遺骨とともにある金塊探し。中心になるポール(デルロイ・リンドー)は、帰国後PTSDで悪夢に悩まされ、すぐに感情が激して切れる男。人生に失敗し、今ではトランプ支持者でMAGA(Make America Great Again)帽子をかぶっている。残りの3人は元衛生兵のオーティス(クラーク・ピーターズ)と、エディ、メルヴィン。ポールの息子のデヴィッドも父親を心配してやってくる。

ホー・チ・ミン市で再会した4人がレストランに行くと、片足のないウェイターがいたり、元ベトコンがいたり、さっそく過去の記憶が蘇る。クラブへ踊りにいくと、スクリーンには「アポカリプス・ナウ(『地獄の黙示録』の原題)」の文字。デヴィッドは不発地雷処理のNGOの女性と仲良くなる。オーティスが元愛人の住まいに行くと、肌の色の濃い混血女性を「娘よ」と紹介されて驚く。元愛人は、オーティスが金塊をアンダーグラウンドで処理するためデローシュ(ジャン・レノ)を彼に引き合わせる。

こうして『地獄の黙示録』同様、4人はメコン川を遡ってジャングルに入ってゆく。コッポラの映画と同じくワーグナーが流れ、あからさまに似たショットが挟みこまれる。もっとも、メコン川を遡りジャングルで狂気に出会う大筋は似ていても、スタイルは違う。ワーグナーは一瞬で、後はモータウン・サウンドが流れる。スパイク・リー版に『黙示録』のような緊迫感はなく、どこか脱力してずっこけた感じ。サスペンスもなく、あっという間に金塊は見つかってしまうし、いきなり現場にNGOの女性が現れたりする。回想シーンも、戦死したノーマン以外の4人は45年後の老人の姿だ(実はVFXで処理するカネがなかったかららしい)。ジャン・レノ演ずる悪役を登場させて、ハリウッドのアクション映画ふうな味つけもある。ジャングルのなかでトラブルに遭遇し、激情家のポールが銃をもち主導権を握るようになる。

その一方、キング牧師暗殺(ベトナム戦の最中)からブラック・ライブズ・マターまで、アフリカ系の抵抗を記録したフィルムが頻繁に挿入されるのは、いかにもスパイク・リー。戦死したリーダーのノーマンは4人の兵士にアフリカ系の誇りと自覚を植えつけ、5人は兄弟(Da 5 Bloods。Daはtheを「ダ」と発音する黒人英語)になった。ポールが帰国後PTSDに陥ったのはノーマンの死と関係するのだが、『地獄の黙示録』はジャングルの奥で主人公が狂気を抱えたマーロン・ブランドに出会うのに対して、この映画では、ひとり金塊に執着するポールが皆と離れてジャングルの奥に入りこみ、最後はPTSDの基となった出来事に向き合って、自らの狂気を鎮めて死ぬ。

『地獄の黙示録』をベースに、宝探しのエンタテインメントと、ベトナム戦後45年のアメリカへの政治的メッセージをまぶした面白い映画でした。

 

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