『13th ─憲法修正第13条』
ネットフリックスのオリジナル作品は映画やドラマが充実しているが、ドキュメンタリーにも優れたものが多い。ブルース・スプリングスティーンやボブ・ディラン、マイルスやコルトレーンなど音楽関係を主に見ていたが、今日は評判の『13th─ 憲法修正第13条(原題:13th)』(エヴァ・デュヴァネイ監督)を。アメリカ合衆国でのアフリカ系の迫害の歴史をたどった2016年の作品で、いくつもの賞を受賞している。
タイトルの憲法修正第13条とは、1865年に提案されたもので「奴隷制度の禁止」を謳っている。ただし「犯罪を犯した者」にはこの条項が適用されないという例外規定がある。この例外条項が抜け穴になってアフリカ系への制度的差別が現在まで続いているというのが、この映画の言わんとするところ。たくさんの記録映像と、何人ものアフリカ系・白人の運動家・学者(年取ったアンジェラ・デーヴィスが魅力的)の語りで、そのことが明かされる。
抜け穴は南北戦争直後から利用された。戦争後、南部の経済は疲弊した。解放され自由になったアフリカ系の多くが徘徊や放浪といった些細な罪で刑務所に送られ、労働力として鉄道建設などに従事させられた。その抜け穴が復活するのが、キング牧師らの公民権運動の結果、差別を容認するジム・クロウ法が廃止された1960年代以降。些細な罪で逮捕され、厳罰化や裁判抜きの司法取引で刑務所に送られるアフリカ系受刑者が激増した。80年代以降、増え続ける受刑者を収容するため刑務所が民営化される。刑務所の運営と、それに伴う警備、食事、衣服、受刑者の作業にかかわる刑務所ビジネスが巨大化する。その実態をこのドキュメンタリーではじめて知った。
「アフリカ系は犯罪者」という刷り込みがメディアを通して繰り返し国民に届けられる。映画もその片棒をかついだ。映画史上の名作とされる『国民の創生』でも、アフリカ系による白人少女への暴行未遂が描かれた。この映画に登場するKKKに刺激されて、実際のKKKの活動がさらに活発になる事態も起きた。映画でのマイノリティの描かれ方は今ではずいぶん変わってきたけれど、1960年代くらいまでは無意識にせよ差別的な描写がいくらもあった(先日も『風と共に去りぬ』の配信停止が話題になった)。
アフリカ系(とヒスパニック)が逮捕される率が白人より何倍も高いことはよく知られている。今年5月、ミネアポリスでジョージ・フロイドが警官によって窒息死させられた事件と同じようなことが、これまで繰り返し起こっていることも多くの映像で語られる。ニュースで見るBLMの表層だけでなく、それがどこから来ているか、歴史に根差した深い構造を知ることのできる作品だった。なおネットフリックスだけでなく、Youtubeでも見ることができる。
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