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July 31, 2020

『13th ─憲法修正第13条』

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ネットフリックスのオリジナル作品は映画やドラマが充実しているが、ドキュメンタリーにも優れたものが多い。ブルース・スプリングスティーンやボブ・ディラン、マイルスやコルトレーンなど音楽関係を主に見ていたが、今日は評判の『13th─ 憲法修正第13条(原題:13th)』(エヴァ・デュヴァネイ監督)を。アメリカ合衆国でのアフリカ系の迫害の歴史をたどった2016年の作品で、いくつもの賞を受賞している。

タイトルの憲法修正第13条とは、1865年に提案されたもので「奴隷制度の禁止」を謳っている。ただし「犯罪を犯した者」にはこの条項が適用されないという例外規定がある。この例外条項が抜け穴になってアフリカ系への制度的差別が現在まで続いているというのが、この映画の言わんとするところ。たくさんの記録映像と、何人ものアフリカ系・白人の運動家・学者(年取ったアンジェラ・デーヴィスが魅力的)の語りで、そのことが明かされる。

抜け穴は南北戦争直後から利用された。戦争後、南部の経済は疲弊した。解放され自由になったアフリカ系の多くが徘徊や放浪といった些細な罪で刑務所に送られ、労働力として鉄道建設などに従事させられた。その抜け穴が復活するのが、キング牧師らの公民権運動の結果、差別を容認するジム・クロウ法が廃止された1960年代以降。些細な罪で逮捕され、厳罰化や裁判抜きの司法取引で刑務所に送られるアフリカ系受刑者が激増した。80年代以降、増え続ける受刑者を収容するため刑務所が民営化される。刑務所の運営と、それに伴う警備、食事、衣服、受刑者の作業にかかわる刑務所ビジネスが巨大化する。その実態をこのドキュメンタリーではじめて知った。

「アフリカ系は犯罪者」という刷り込みがメディアを通して繰り返し国民に届けられる。映画もその片棒をかついだ。映画史上の名作とされる『国民の創生』でも、アフリカ系による白人少女への暴行未遂が描かれた。この映画に登場するKKKに刺激されて、実際のKKKの活動がさらに活発になる事態も起きた。映画でのマイノリティの描かれ方は今ではずいぶん変わってきたけれど、1960年代くらいまでは無意識にせよ差別的な描写がいくらもあった(先日も『風と共に去りぬ』の配信停止が話題になった)。

アフリカ系(とヒスパニック)が逮捕される率が白人より何倍も高いことはよく知られている。今年5月、ミネアポリスでジョージ・フロイドが警官によって窒息死させられた事件と同じようなことが、これまで繰り返し起こっていることも多くの映像で語られる。ニュースで見るBLMの表層だけでなく、それがどこから来ているか、歴史に根差した深い構造を知ることのできる作品だった。なおネットフリックスだけでなく、Youtubeでも見ることができる。

 

 

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July 27, 2020

『ダ・ファイブ・ブラッズ』S・リー版『地獄の黙示録』

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コロナ禍で家にいるあいだ、ネットフリックスではドラマばかり見ていた。タイムトラベル・ミステリー『ダーク』、人気の韓流『愛の不時着』、エリザベス女王を軸にした英国王室内幕史『ザ・クラウン』、コカイン密売組織メデジン・カルテルと米国麻薬取締局捜査官の攻防『ナルコス』。どれもはまって「ネトフリ廃人」になってしまったが、十数時間(数十時間)に及ぶ連続ドラマの面白さと映画の面白さとはまた別という気がする。久しぶりに映画を見たくなって選んだのがネットフリックス・オリジナルの『ダ・ファイブ・ブラッズ(原題:Da 5 Bloods)』。ニューヨークを拠点に活躍するアフリカ系スパイク・リーの作品だ。ひとことで言えばスパイク・リー版『地獄の黙示録』だった。

ベトナム戦争に従軍したアフリカ系の元兵士4人が45年後にベトナムにやってくる。目的は彼らのリーダーで戦死したノーマンの遺骨収集と、遺骨とともにある金塊探し。中心になるポール(デルロイ・リンドー)は、帰国後PTSDで悪夢に悩まされ、すぐに感情が激して切れる男。人生に失敗し、今ではトランプ支持者でMAGA(Make America Great Again)帽子をかぶっている。残りの3人は元衛生兵のオーティス(クラーク・ピーターズ)と、エディ、メルヴィン。ポールの息子のデヴィッドも父親を心配してやってくる。

ホー・チ・ミン市で再会した4人がレストランに行くと、片足のないウェイターがいたり、元ベトコンがいたり、さっそく過去の記憶が蘇る。クラブへ踊りにいくと、スクリーンには「アポカリプス・ナウ(『地獄の黙示録』の原題)」の文字。デヴィッドは不発地雷処理のNGOの女性と仲良くなる。オーティスが元愛人の住まいに行くと、肌の色の濃い混血女性を「娘よ」と紹介されて驚く。元愛人は、オーティスが金塊をアンダーグラウンドで処理するためデローシュ(ジャン・レノ)を彼に引き合わせる。

こうして『地獄の黙示録』同様、4人はメコン川を遡ってジャングルに入ってゆく。コッポラの映画と同じくワーグナーが流れ、あからさまに似たショットが挟みこまれる。もっとも、メコン川を遡りジャングルで狂気に出会う大筋は似ていても、スタイルは違う。ワーグナーは一瞬で、後はモータウン・サウンドが流れる。スパイク・リー版に『黙示録』のような緊迫感はなく、どこか脱力してずっこけた感じ。サスペンスもなく、あっという間に金塊は見つかってしまうし、いきなり現場にNGOの女性が現れたりする。回想シーンも、戦死したノーマン以外の4人は45年後の老人の姿だ(実はVFXで処理するカネがなかったかららしい)。ジャン・レノ演ずる悪役を登場させて、ハリウッドのアクション映画ふうな味つけもある。ジャングルのなかでトラブルに遭遇し、激情家のポールが銃をもち主導権を握るようになる。

その一方、キング牧師暗殺(ベトナム戦の最中)からブラック・ライブズ・マターまで、アフリカ系の抵抗を記録したフィルムが頻繁に挿入されるのは、いかにもスパイク・リー。戦死したリーダーのノーマンは4人の兵士にアフリカ系の誇りと自覚を植えつけ、5人は兄弟(Da 5 Bloods。Daはtheを「ダ」と発音する黒人英語)になった。ポールが帰国後PTSDに陥ったのはノーマンの死と関係するのだが、『地獄の黙示録』はジャングルの奥で主人公が狂気を抱えたマーロン・ブランドに出会うのに対して、この映画では、ひとり金塊に執着するポールが皆と離れてジャングルの奥に入りこみ、最後はPTSDの基となった出来事に向き合って、自らの狂気を鎮めて死ぬ。

『地獄の黙示録』をベースに、宝探しのエンタテインメントと、ベトナム戦後45年のアメリカへの政治的メッセージをまぶした面白い映画でした。

 

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July 20, 2020

真福寺のイチョウと貝塚

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浦和の旧中山道と17号国道(中山道)は大宮台地の尾根筋を南北に走っている。わが家から17号国道を南、東京方面へ20分ほど歩くと別所坂上の信号があり、そこから百メートル以上の下り坂がつづく。7000年前の縄文時代前期には奥東京湾が深く入り込んでいて、このあたりが海岸線だった。下り坂が終る手前を右に入ると真福寺がある。

境内には崖上に樹齢数百年、樹高約20メートルの大イチョウと貝塚跡(別所真福寺貝塚)がある。大銀杏は「逆さイチョウ」と呼ばれている。寺に伝わる伝説では、崖下が海だったころ、船をもやうためイチョウの木杭を逆さに打っておいたら、それが根づいたのだという。イチョウは中国原産の木だから縄文時代にこの地にあったとは考えられないが、境内には縄文前期の貝塚があったから、ここが海辺だったのは間違いない。その貝塚と立派な大イチョウの姿が過去のどこかで結びついて、「逆さイチョウ」の伝説が生まれたんだろう。

先日、散歩で行った西堀貝塚はここから北西約1キロ。縄文時代の植生を残す境内林がある睦神社は東へ400メートルほど。ここらが古東京湾のいちばん奥だったんだな。

 

 

 

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July 19, 2020

枝豆の収穫

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今年ははじめて枝豆を育てている。枝豆は未成熟の大豆のことだけど、「枝豆」として売られている種は成熟した普通の大豆用の品種とは別に、青いうちに食べて旨いよう改良されてるらしい。

4枝の実の大きさがちょうどいい具合になってきたので、梅雨の晴れ間の今日、収穫し、夕飯前に塩ゆでして食べる。まだアルコールを解禁してないのでノンアルコール・ビールなのが残念だけど、スティーブ・キューンのピアノでも聞きながら食するとするか。

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July 18, 2020

『武器としての「資本論」』を読む

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白井聡『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)の感想をブックナビにアップしました。

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July 16, 2020

ピエール瀧の3本

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(『ロマンスドール』のピエール瀧)

この数カ月、たまたまピエール瀧が出演する映画とドラマ3本をDVDと配信で見て、改めていい役者だなあと思った。映画は『ロマンスドール』と『宮本から君へ』、ドラマはネットフリックスの『全裸監督』。

ピエール瀧が麻薬取締法違反で逮捕されたのが去年の3月。直後からNHK大河『いだてん』の代役撮り直し、出演番組・CMの打ち切りから、果ては過去出演作の放映中止、参加するバンド・電気グルーブのCD回収、配信停止にまで及んだ。『宮本から君へ』は、内定していた芸文振(文化庁管轄)の助成金を取り消されている。その過剰反応ぶりはその後、コロナ禍で同調圧力のもと自粛警察が出現するような空気を先取りしていたように思える。

先の3本は、有罪判決(執行猶予)確定後に撮り直しせず公開されたもの。『ロマンスドール』(タナダユキ監督)は下町のラブドール製造工場の社長。『宮本から君へ』(真利子哲也監督)は主人公が仕事で付きあう企業の部長。『全裸監督』(武正晴総監督)はレンタルビデオ店の店長。強面だったり、人情派だったり、いかにも怪しげだったり、いろんな顔を見せて、いずれも脇役だけど独特の存在感が光る。3本とも力のこもった作品で、2本の映画のヒロインは蒼井優。それぞれの監督の代表作とはならないだろうけど、十分に楽しめる。

違法薬物を使うのはもちろん犯罪だ。でも国連総会でも決議されたように、薬物依存に必要なのは懲罰ではなく治療や教育であるというのが最近の世界の流れ。ピエール瀧が依存症を克服しスクリーンに復帰する日が来るのを待ちたい。

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July 07, 2020

在監者合葬の墓

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さいたま市役所から西へ、市役所通りを数分歩いた住宅地の一角にフェンスで囲まれた墓地がある。中へは入れないが、3基の墓が建っていて、いちばん新しい墓に「在監者合葬之墓」と彫られているのが読める。裏には「明治四十四年 浦和監獄」とある。明治初期、埼玉県の県庁が浦和に置かれ、県庁や裁判所とともに監獄ができた。その獄中で亡くなった人たちを合葬したのがここだった。県庁に近い監獄から歩いて10分ほど。大宮台地の端、鯛ケ窪と呼ばれる谷の崖上にあり、今はびっしり住宅が建っているが、当時は畑か草原のなかだったろう。

古い2基の墓の横面と裏面にはびっしり人名が彫られている。調べると、そのなかに「村上泰治」「南関蔵」という名前があるかもしれない。2人は明治17年、「浦和事件」と呼ばれる事件の被告で浦和監獄で獄死した。

「浦和事件」といっても浦和で裁判が行われたからこう呼ばれたので、事件は群馬と秩父にまたがる。当時、自由民権運動が激しくなり、関東でも群馬、茨城、埼玉(秩父)の自由党員が急進化して政府転覆を訴え、武装蜂起を計画するグループも出た。そんななか、群馬の上毛自由党では党の機密がしばしば漏れる事態が起き、密偵が潜り込んでいるのではないかとの疑いが生じた。その疑いは、上毛地方にひんぱんに姿を現す自由党員・照山俊三に向けられ、ひそかに彼の殺害計画が練られた。上毛自由党の幹部は秩父の自由党員・村上泰治に、照山を秩父に誘い出して計画を実行することを依頼。村上はこれを引き受け、同志の南関蔵らと村上の自宅で照山を殺害した。逮捕された村上と南は浦和監獄に収監されたが、二人とも裁判中に獄死している(二人がこの墓に合葬されたかは分からない)。

この事件の後、群馬事件、秩父困民党事件、加波山事件など自由党員の蜂起が相次ぎ、いずれも弾圧された。秩父困民党事件で捕われた者も浦和監獄に収監されたという。

表示や説明が一切ないので、どんな場所かまったく分からない一角。散歩の途中で足をとめ、フェンスの外から手を合わせる。

 

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July 06, 2020

線路脇

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散歩でよく歩く北浦和駅付近のJRは3複線で、京浜東北線、上野・東京ライン、新宿・湘南ライン、それに特急や貨物が走っている。線路際にはよく鉄道ファンがカメラを構えて列車を待ってる。今日はとりわけ多いので聞いてみたら、150メートルのロングレールを運ぶ貨物が来るんだそうだ。その瞬間をひとつ、と思ったら、皆さんが望遠レンズをつけシャッターを押してるときは、こちらのカメラに列車が写らない。列車が近づいたときには皆さん既に撮影を終えていた。

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