『ふたりの人魚』 アップリンク・クラウド
ミニシアターのアップリンクが「アップリンク・クラウド」として60本の映画を2980円で3カ月見放題というサービスを始めた。アレハンドロ・ホドロフスキ、ロウ・イエ、想田和弘といった監督の映画(旧作)も含まれている。彼らの映画は見てないものが多い。苦境にあるミニシアターを応援する意味もこめて申し込んだ。パソコン画面で映画を見るのは抵抗があるけど、まあ仕方ない。最初に見たのはロウ・イエ監督の2000年作品『ふたりの人魚(原題:蘇州河)』。
冒頭から川の水面と、川岸にびっしり建つ古びた建築物が延々と映しだされる。川は上海の下町を流れる蘇州河(呉淞江)。ぐらぐら揺れる手持ちカメラが、やがて主人公の目である一人称カメラになっていることが分かる。主人公の独白がかぶさって、「ふたりの人魚」を巡るふたつの恋物語が語られる。
ひと組はビデオ撮影を生業にしている主人公(最後まで顔は映らない。手だけ)と、カフェバーの水槽で人魚の恰好で泳ぐメイメイ(ジョウ・シュン)。もう一組はバイクの運び屋マーダー(ジア・ホンシャン)と、母親が荷物でなく娘を運ぶことを頼んだことから恋人同士になったムーダン(ジョウ・シュンの二役)。マーダーがムーダンを犯罪に利用したことから、ムーダンは川へ身を投げる。服役から戻ったマーダーはムーダンを探し求め、メイメイをムーダンと信じて近づこうとする。
マーダーがムーダンを探して上海の下町をさまよい歩く。右に左に揺れる手持ちカメラがそれを追う。それがこの映画のすべてと言っていいくらい。その不安定な映像から、マーダーの悔恨と孤独が滲みでてくる。その切迫した息づかいはいま見ても新鮮で、2000年の中国映画としてはびっくりするくらい斬新なスタイルだったろう。
ロウ・イエはこの後、天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』を撮って国内上映禁止になり、5年間新作をつくれない罰をくらって話題になったが、映画としてはこっちのほうが上。記憶に残る青春映画になっている。秋に公開予定だったコン・リー&オダギリジョー共演の新作『サタデー・フィクション』が公開延期になってしまった。いつになったら見られるだろうか。
Comments