« W.H.マクニール『疫病と世界史』を読む | Main | 高沼用水路へ »

May 23, 2020

『ブラインド・マッサージ』 ロウ・イエの成熟

 Photo_20200522162101


「2980円、60本見放題」のアップリンク・クラウドで中国のロウ・イエ監督の映画を見ている。『ふたりの人魚』『パリ、ただよう花』につづいて今日は『ブラインド・マッサージ(原題:推掌)』を。これまで小さなパソコン画面で見ていたが、Nさんに教えてもらってHDMIケーブルでテレビにつなぎ、テレビ画面で見られるようになった。大きさはもちろん、色の深みがずいぶん違う。


原題の推掌とは、マッサージのこと。南京で視覚障碍者が集まって営むマッサージ院を舞台にした群像劇だ。群像劇といっても、同性や異性の愛をずっと描いてきたロウ・イエ監督のことだから、何組かのカップル(カップル未満)が中心になっている。院長のシャー(チン・ハオ)は健常者の女性と見合いして断られたばかり。院生で美人と評判のドゥ(メイ・ティン)にご執心だ。自らの美しさを知る由もないドゥは、美人と言われることに苛立っている。マッサージ学校で院長の同級生だったワン(グオ・シャオドン)が恋人のコン(障碍者であるチャン・レイが演じている)と深圳からやってくる。若いシャオマー(ホアン・シュエン)がコンに執着する。みかねた仲間がシャオマーを風俗に連れていき、シャオマーは風俗嬢と愛しあうようになる。


ロウ・イエ監督はいつもの手持ちカメラでぐらぐら動く映像に加えて、周辺をぼかしたり、被写界深度を極端に浅くしたり、光がほとんどない暗い視界になったりする。またマッサージを受ける人の肌を舐めるように撮る触感や、音に敏感になるなど五感を総動員して視覚障碍者の世界を伝えようとする。といってこの映画、障碍者を特別な存在として見ているわけでもない。僕たちの側にいる、ごくふつうの隣人として描いている。


映画には視覚障碍者もたくさん出ている。役者たちは、目に不透明のコンタクトレンズを入れて演じたそうだ。撮影現場は大変だったろう。その甲斐あって誇張やわざとらしさがなく、ごく自然な感じ。見ているうちに、障害者の世界だということを忘れてしまう。ラスト、南京の古びたアパートで健常者と障碍者の一組のカップルが誕生することを祝福したくなる。実験的なスタイルが中身と調和して、ロウ・イエ監督の成熟を感ずる。


|

« W.H.マクニール『疫病と世界史』を読む | Main | 高沼用水路へ »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« W.H.マクニール『疫病と世界史』を読む | Main | 高沼用水路へ »