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January 14, 2020

『パラサイト 半地下の家族』 不敵な面構え

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先の読めない面白さを持ったエンタテインメントであり、同時に作家的メッセージも強烈。『パラサイト 半地下の家族(原題:기생충─寄生虫)』は、なんとも不敵な面構えの映画。韓国映画のパワーを思い知らされた。

不敵な、という印象を持ったのは、ポン・ジュノ監督をはじめとする作り手の大胆さを感じたから。テーマとして、格差社会に生きる3家族を取り上げ、貧しい者による富める者への寄生・復讐劇という本筋だけでなく、弱者が弱者をいたぶる、「良心的な映画」が避けるような脇筋もからめる。そして屈折した笑いを基調に、ホラー映画ふうなドキドキ感もたっぷり。倒錯したホームドラマであり、サバイバル映画であり、ホラー的な要素もありと、こういうのが映画だぜ、という監督の自信を感ずる。

一家4人が無職のキム一家が住むのは半地下のアパート。窓からは酔っぱらいが小便しているのが見える。大学受験に失敗したフリーターのギウ(チュ・ウシク)は友人のエリート大学生から、裕福な一家の娘に英語を教える家庭教師のアルバイトを紹介される。坂上の豪邸に住むのはIT企業の社長。社長には娘と絵が上手な息子がいて、娘の家庭教師になったギウは美術教師の知り合いがいると偽って、美大受験に失敗した妹のギジョン(パク・ソダム)を息子の家庭教師として送り込む。ギジョンは送迎してくれた社長の車に下着を残し、社長のお抱え運転手を追放して、失業中の父親ギテク(ソン・ガンホ)を新しい運転手として送り込む。豪邸には先代の住人から仕える家政婦がいるが、ギテクはその家政婦が結核にかかっていると社長の妻に信じ込ませ、自分の妻のチュンスク(チャン・ヘジン)を新しい家政婦として送りこむ。

と、ここまでが映画の前半。果たしてこの寄生は成功するのか。見る者ははらはらするけど、それが思いもかけない展開になってゆく。実は豪邸には社長一家も知らない地下室があって……。手持ちカメラが秘密の階段を下ってゆくあたり、ぞくぞくする面白さ。その先に新たな登場人物が出てきて、社長一家に寄生しているのがギテク一家だけでないことがわかり、弱者と弱者のたたき合い、サバイバルもからみ二転三転しながら話が進む。そして最後の惨劇。

キム一家は上流階級である社長一家の「純情で優しい」心根につけこんで入りこんでゆくのだが、その社長一家が下層のギテクに対して無意識に発する差別発言の元が匂いであるというあたりがうまい。半地下に住むギテクが知らずに発する匂いを社長や妻は敏感に感じてしまう。五感からする無意識の差別は、言葉による差別より深く人に突き刺さる。ギテクが車を運転しながら自分の服の匂いを嗅いでみるあたり微妙な表情におかしさと悲しさが入りまじるのは、名優ソン・ガンホならでは。

坂上の台地の豪邸と、大雨で浸水する低地のキム一家のアパート。建築家が設計したモダンで広々とした邸宅と、電線が錯綜するごみごみした密集地の半地下アパートの対照は黒澤明『天国と地獄』のような構図だけど、僕の知るかぎり丘と坂の町であるソウルは実際にそうなっている。この2軒の家と周辺の街路は、すべてセットをつくって撮影されたそうだ。

この映画はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞すると同時に、韓国やアメリカでの興行成績も大ヒットといえる数字らしい。もともと大衆的なエンタテインメントから出発し、娯楽でもありアートでもある映画の、ストライクゾーンのど真ん中に投げ込まれた作品。日本でも、こういう大人のエンタテインメントがほしい。

 

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Comments

こんにちは。
いや、本当にパワーのある作品でした。
上流階級の邸宅と、下層にある半地下のアパートの対比は笑えない位酷かったけれど、やっぱりそういう所で育った兄妹は逞しくなるのだなぁ…。と思ったりして。もちろん、両親も同様なのですが。
本当に、「匂ってくる」ような作品でした。7

Posted by: ここなつ | January 24, 2020 03:44 PM

アカデミー賞取りましたね。
それをトランプがくさしたり。
それだけのパワーを持った映画ということでしょうね。
昨年ノミネートされた「万引き家族」と比べるとき、どちらがいい悪いではありませんが、映画を支えるバックグラウンドの差を感じます。

Posted by: | February 23, 2020 05:08 PM

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