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December 02, 2019

『アイリッシュマン』 稲妻のような

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『アイリッシュマン(原題:The Irishman)』はロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシという豪華キャスト、マーティン・スコセッシが監督したことで話題のネットフリックス・オリジナル映画。劇場公開もされているが、先週からネットフリックスで配信が始まっている。3時間半の長尺だけど、一気に見た。『タクシー・ドライバー』や『グッド・フェローズ』といった初期のスコセッシ映画のテイストが蘇っているのが楽しい。

主な登場人物は3人で、いずれも実在の人物。トラック運転手のフランク(ロバート・デ・ニーロ)は輸送する牛肉を横流しして日銭を稼いでいる。ある日、路上でペンシルベニア北東部を仕切るマフィアのボス、ラッセル(ジョー・ペシ)と知りあい彼の手伝いをするようになる。やがて殺しにも手を染める。フランクはラッセルの紹介で、フランクも属する全米トラック組合の委員長ジミー(アル・パチーノ)のボディガードとしても働くようになる。

1950~60年代のアメリカ。国中の物流を押さえる全米トラック組合は強大な力をもった圧力団体で、委員長ジミー・ホッファ はそのトップに君臨していた。ジミーはマフィアとも関係していたと言われる。やがてジョン・F・ケネディが大統領に当選し、弟の司法長官ロバートがジミーとマフィアとの闇を追及しはじめる。それがこの映画の背景。

映画は、年老いて養老院に入ったフランクが過去を回想するスタイル。前半はニュース映像も交えながら3人が知り合い、家族ぐるみのつきあいをし、殺しを依頼したりもする互いの関係がテンポよく描かれる。『グッド・フェローズ』のような一代記の語り口を思い出した。

3人の関係にヒビが入る後半は、ドラマがぐっと盛り上がる。ジミーは有罪となって服役し、出所すると若い幹部が台頭している。マフィアのラッセルにとって、復権を目指すジミーは目障りな存在となりつつある。2人の狭間に立つフランク。このあたり『仁義なき戦い』のような、利害と友情が絡みあう展開。現実にはジミー・ホッファはある日、忽然と行方不明になり現在に至るまで真相は不明なのだが、映画ではラッセルの命でフランクがジミーを殺す。

その前後の描写がしびれる。フランク夫妻はデトロイトでジミーと会うためラッセル夫妻と旅していたが、途中ラッセルはフランクに、ジミーとは会うな、と伝える。ところがモーテルに泊まった翌朝、ラッセルは一転してフランクに、「ジミーに会うのを止めると君にやり返されそうだ。行ってやれ」と言って、自家用飛行機を手配する。デトロイトに用意された車にフランクが乗ると、グラブコンパートメントには拳銃が入っている。ラッセルの言葉を文字通り取れば、それでジミーを守ってやれということだが、ラッセルのやり方では、それでジミーを殺せという指示になる。そしてアジトでの、いきなりの発砲。並みの映画ならフランクの苦悩の表情を見せるところだけど、スコセッシはそんな内面描写を一切しない。その稲妻のような衝撃は、初期のスコセッシ映画に色濃くあったものだ。

これはデ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、3人を見るための映画でもある。パチーノとペシの息詰まるような演技に、狂言回し役のデ・ニーロが時に激しく、時に緊張をほぐすように柔らかく対応する。3人の若い時代の姿は代役でも特殊メイクでもなく、CGでつくられている。メイキングの座談会を見ると3台のカメラを回し、そこから得られた角度の違う画像を操作して若い姿にしているようだ。 これからはこの手法が主流になるのかも。

 撮影のロドリゴ・プリエト、音楽のロビー・ロバートソン、そしてスコセッシと、スタッフもキャストに劣らず豪華。製作費は1億6000万ドル。ネットフリックスが今年、世界中でオリジナルな映画・連続ドラマ制作に投じた資金は150億ドルと言われる。1本1本の興行収入に依存するのでなく、1億6000万人会員の月ぎめ定額料金(サブスクリプション)を収入源とする動画配信産業だからこそできる映画づくりだろう。

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