« 『イェスタデイ』 ビートルズのいない世界 | Main | 『家族を想うとき』 外連味のない映画 »

December 17, 2019

『Cold War あの歌、二つの心』 黄金期ポーランド映画のような

Coldwar2

治療中で映画館に新作を見にいけなかった時期のことを話していたら、映画や音楽について信頼する友人が「『コールド・ウォー』が良かったよ」と言う。調べてみると、ちょうど飯田橋・ギンレイホールにかかっていたので早速見にいった。

友人は、「いまどき珍しいモノクロ・スタンダードのポーランド映画なんだよ」とも言っていた。モノクロのポーランド映画といえば1960年代、僕が高校から大学時代はポーランド映画の黄金期で、アートシアターを中心に次々に新作がかかっていた。『夜行列車』『尼僧ヨアンナ』『夜の終わりに』『パサジェルカ』『水の中のナイフ』なんかは今でも鮮烈に覚えている。

『Cold War あの歌、二つの心(原題:Zimna Wojna)』は、すべてが古典的な映画だった。モノクロ・スタンダード、上映時間が90分足らずというのも昔の映画の標準的な上映時間だし。それだけでなく演出も、映像も、見事に当時のポーランド映画に似てクラシックだった。

主人公は、冷戦で東西に別れながらも時と場所を超えて愛しあう二人。第二次大戦直後の社会主義ポーランド。ズーラ(ヨアンナ・クーリク)は民族舞踏団に入団し、ピアノ教師ヴィクトル(トマシュ・コット)と愛し合うようになる。ヴィクトルはベルリン公演の際、ズーラと西側に亡命しようとするが、ズーラは約束の場所に現れず、ヴィクトルは一人で亡命してパリに住む。年月が経ち、ズーラは出国してパリに現われ、ジャズ・ピアニストとして生活するヴィクトルと暮らしはじめるのだが……。

15年に渡る男女の愛が、90分足らずのフィルムに描かれる。だから、くだくだしい説明はない。二人が恋に落ちるのは、ヴィクトルのピアノでズーラが「二つの心」を歌うシーン。言葉は一言もなし。風にそよぐ草原に二人が無言で寝転がっていることで、二人の愛が確認される。ヴィクトルが亡命を決意するに至る内面も説明されない。上司がスターリンを称える歌を強いるが、それに抗議するのはヴィクトルの同僚で、ヴィクトルは苦々しい表情で黙っている。亡命を決意しながらズーラがなぜ約束の場所に行かなかったのかも、その理由をヴィクトルに説明するのはずっと後のこと。それまでは見ている者にもその理由はわからない。

監督のパヴェウ・パヴリコフスキは省略的な描き方をしたことについてインタビューで、「因果関係の理屈をつけると安っぽく、貧相になるから」と語っている。このあたりもポーランド映画黄金期のワイダ、カワレロウィッチ、ムンクといった監督たちの映画と似ている。しんと静まりかえったようなモノクローム映像もポーランド映画の伝統だろう。

女優のヨアンナ・クーリクが素敵だ。ちょっとレア・セドゥに似た表情と仕草をする。モニカ・ヴィッティの若いころに似てるという人もいる。彼女が民俗舞踊を踊ったり、「二つの心」をジャズ・ヴァージョンで歌ったりするのを眺めているだけでも満足できる。そういえば『夜行列車』や『夜の終わりに』にも、けだるいジャズが流れていたっけ。

若いころ見たポーランド映画を思い出しながら、大満足した映画でした。

 

|

« 『イェスタデイ』 ビートルズのいない世界 | Main | 『家族を想うとき』 外連味のない映画 »

Comments

雄さん、こんにちは。拙記事にコメントありがとうございました。
雄さんにこの映画をオススメされたご友人に感謝ですね。どうぞよろしくお伝えください(笑)。
『イーダ』といいこの監督の作る映画にとてもとても惹かれます。
上にあげられたポーランド映画は全く観ていないのですが、観たらきっとハマるのでしょうね。

Posted by: 真紅 | December 19, 2019 12:36 PM

1950年代の『灰とダイヤモンド』(映画史に残る傑作です)はじめ、これらのポーランド映画は私の青春時代の記憶と密接に結びついています。お勧めです。

Posted by: | December 19, 2019 07:12 PM

こんばんは。
その後お加減はいかがでしょうか?
実は先日いただいたコメントのリンク先がおかしかったようで、本日やっとたどり着きました。遅くのコメントのご無礼お許しください。
1人の女性に翻弄され、ポーランドという国に翻弄された男の物語、として捉えると、哀しみが強い作品でした。でも、最近なかなかこういう作品に出会えないので、鑑賞できてよかったと思っています。
で、私も彼女レア・セドゥに似ているな、と思いましたです。

Posted by: ここなつ | January 04, 2020 08:34 PM

幸い、徐々に体調も戻ってきています。
去年、ニフティはTBの機能を止めてしまったので、情報のやりとりが不便になりました。
確かに女性に翻弄された男の物語ですが、男の愛が強かった故でもありましょう。こういう女性に魅力を感ずるのが男でもあるということかもしれません。
いい映画でしたね。

Posted by: | January 05, 2020 02:38 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 『イェスタデイ』 ビートルズのいない世界 | Main | 『家族を想うとき』 外連味のない映画 »