一美を悼む
新宿ゴールデン街時代の飲み仲間である一美が亡くなった。一年ほど前に倒れ、意識が戻らないまま闘病生活をつづけていたが、11月24日、家族に見守られて旅立った。
一美とひんぱんに会っていたのは40年以上前。たいていゴールデン街の「ちろりん村」で会い、仲間と映画や演劇や小説の話で盛り上がった。アングラ芝居や神代辰巳の映画やラグビー早明戦を一緒に見に行ったこともある。鋭い感受性をもち、独特の身ぶりやしゃべり方に1970年代の空気を全身にまとった女性だった。
その後、彼女はご主人と沖縄に移り住んだ。那覇でタウン誌の編集にかかわり、ときどき頼まれて映画の紹介を書いたこともある。その原稿料がわりにともらった金城次郎の徳利と盃は、いまも食器棚に飾ってある。
沖縄から戻った彼女は、実家のある静岡県にご主人と住んだ。それから彼女と会ったのは数度。店を閉めた「ちろりん村」のMさんを中心に花見と忘年会があって、そこでたまに顔を合わせる程度だった。
今日、机を整理していたら、二年前に彼女からもらった葉書が出てきた。追悼の思いをこめて、それを書き写す。
「ご本拝受いたしました。お礼が遅くなり申し訳ありません。現役でご活躍うらやましい限りです。健ちゃん、平地さん、なつかしい名前。チャンドラー、末永史、モンク、みんな記憶の底に沈んでる。東京の喧騒から遠く、七〇、八〇才のジジイ仲間と家庭菜園の日々です。今年の忘年会には参加できるかな?」
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