『イェスタデイ』 ビートルズのいない世界
『イェスタデイ(原題:Yesterday)』は、ある日突然、この世界からビートルズの音楽が消えたら、という映画。若い人はどうか知らないけど、ある世代以上なら誰もがビートルズの音楽は耳になじんでる。「イェスタデイ」から「ヘイ・ジュード」まで、次から次に画面に名曲が流れるだけで胸が熱くなる。それと、いかにも古風なラブストーリーを組み合わせて、ダニー・ボイル監督が手練れの映画づくり。
イギリスの田舎町。売れないシンガーソングライターのジャック(ヒメーシュ・パテル)は、幼馴染みでマネジャー役のエリ―(リリー・ジェームズ)の車に乗せてもらったり、自分で自転車をこぎながらライブ活動を続けている。ある晩、原因不明で12秒間の世界的な大停電が起こり、その瞬間、ジャックは交通事故にあって宙を舞う。病院でジャックが気がつくと、この世界からビートルズのレコードが消え、人々の記憶にも何も残っていない。
ジャックがはじめてそれに気づくのは、仲間と全快を祝いながら「イェスタデイ」を歌ったとき。誰もその曲を知らず、皆がすごい曲だと感動する。それを知ったジャックは、あわててビートルズの曲の詞とメロディを思い出し、自分がつくったものとして歌いはじめる。やがて評判になり、アメリカのやり手プロデューサーから声がかかってロスへ行く。天才が現れたと誉めそやされながら、ジャックは嘘をついていること、エリーと別れたことに忸怩たる思いを抱いている……。
ジャックを演ずるヒメーシュ・パテルはインド系イギリス人。インド系イギリス人といえば、去年公開された『ボヘミアン・ラプソディ』の主人公フレディ・マーキュリーもそうだった。『イェスタデイ』ではそんな気配は感じられないが、『ボヘミアン・ラプソディ』ではインド系に対する微妙な差別の感覚が描かれていた。
映画には歌手のエド・シーランが本名で出てくる。エドとジャックが、ライブ後の余興で10分で新曲をつくる競争をし、ジャックは「ロング・アンド・ワインディング・ロード」を歌って、エドが「参った」と降参する場面もある。一方のジャックは人気沸騰にストレスを深め、「ヘルプ!」と歌うが、観客は熱狂する。
「アビイ・ロード」のジャケットそっくりの画面が出てきたり、映画『レット・イット・ビー』の屋上ライブにそっくりのシーンが出てきたり、ジョン・レノンそっくりの老漁師が出てきたり、ファンの心をくすぐる場面も多々。最後はお定まりのハッピーエンドで、いささかあざとさも感じさせるけど、楽しんでしまった映画でした。
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