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December 23, 2019

『家族を想うとき』 外連味のない映画

Sorrywemissed

「外連味のない」という言い回しがある。はったりや誇張のない、といった意味あいで使われる。ケン・ローチの作品ほど、この言葉がふさわしい映画はないのではないか。

ケン・ローチの映画はたいてい社会的な問題を批判的に取り上げている。だからジャンルとしては社会派に分類されるんだろう。だけど問題それ自体を前面に出すことなく、人間を通して、主人公がその問題にどう巻き込まれたか、彼(彼女)はどう行動したのかを描いていく。人間がしっかり描きこまれているから、いつも映画として完成度が高い。

同じようなタイプのヨーロッパの監督としてミヒャエル・ハネケやダルデンヌ兄弟がいる。ハネケはミステリー的な手法を使って、冷ややかな眼差しでヨーロッパの上流階級の偽善を暴いたりする。ダルデンヌ兄弟はドキュメンタリー的な手法と映像を得意とする。ケン・ローチの場合はいつもオーソドックスな手法で堅実に作劇してゆき、底には常にヒューマニズムが流れている。それは、この『家族を想うとき(原題:Sorry We Missed You──宅配の「不在連絡票」のこと)』でも変わらない。

北アイルランドの都市、ニューカッスル。リッキーは持ち家を手に入れるため、個人事業主の宅配ドライバーとして働きはじめる。妻のアビーはパートの介護福祉士として働いている。息子のセブは高校生、娘のライザは小学生。妻の仕事の足である車を手放して宅配用に中古バンを買い、1日16時間の宅配をつづけている。セブは仲間とストリートアートを描いてトラブルになり、両親は学校に呼び出されるが、実態は下請け労働者であるリッキーは駆けつけられない。セブは停学になり、アビーとライザは精神が不安定になり、家族の歯車が負の方向に回転しはじめる。そんな折、リッキーは宅配中にかっぱらいの若者に襲われて……。

新自由主義的な経済の浸透によって、先進国はどこも同じ問題を抱えている。日本でも個人事業主の宅配ドライバーは多いし、コンビニのオーナーも個人事業主だ。個人事業主とかフリーランサーとか呼び方は美しいが実態は低賃金の長時間労働であることは、パートや派遣の非正規労働と変わるところがない。夫が個人事業主、妻がパートとして家計を支えている家庭の日常はイギリスでもアメリカでも日本でも似たようなものだろう。

ケガをしたリッキーは家族が止めるのを振りきって仕事に出かける。アビーは夫が契約した宅配会社のマネジャーに切れるものの、介護する相手や子供にはどこまでも優しい。反抗期のセブも、父親の事情はわかっている。ライザは家族の事情を察しながらもけなけに振る舞っている。リッキーとアビーは、ストリート・アーティストとしてのセブの一面に気づく。どんなにうまくいかなくても、ともかく家族が家族としてまとまっているのがこの映画の救いだ。

アンダークラスと呼ばれる階級の典型的な一家を取り上げ、その日常を描くのは、ひと昔もふた昔も前のプロレタリア芸術の見本のようだけど、図式ではなくリッキーやアビーやセブやライザに血が通っていることで見応えのある映画になっている。原題は宅配の「不在連絡票」のことだけど、たぶん多義的な意味が含まれているんだろう。

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Comments

こんばんは、こちらにも。
良かれと思ってすることが良い結果に必ずしもつながらない、という意味では残酷ですが、現実を露わにしているのだと思います。
けれどその現実の中で、もがき続けるしかないんですよね。そしてケン・ローチ監督はそのもがきの原因を強い怒りをもって告発しているような気がしました。

Posted by: ここなつ | January 04, 2020 08:38 PM

去年、ブレイディみかこの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を読みましたが、アンダークラスと呼ばれる人々をテーマに、この映画ともどもイギリスの現実を知らされました。ケン・ローチ監督の姿勢は一貫していますね。

Posted by: | January 05, 2020 02:43 PM

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