2019年 10本の映画
毎年、暮れになるとお遊びでその年の映画ベスト10を考えるのを楽しみにしています。ところが今年は半年以上の入院と通院であまり映画を見られませんでした。新作は20本も見ていないので、ベスト10などおこがましくてつくれません。それでも印象に残る映画が多かったので、順不同で10本を挙げてみました。これをやっておくと、備忘録として役に立ちますので。今年はブログもあまり更新できませんでしたが、おつきあいくださった皆さん、ありがとうございました。良い年をお迎えください。
・象は静かに眠っている
29歳で自死したフー・ボー監督の処女作にして遺作。中国の田舎町に住む青年や老人の、どこにも行き場のない閉塞感。極端に被写界深度の浅いカメラで登場人物に密着する挑戦的なスタイル。切実な主題と文体の冒険が融合して、この一作で映画史に名を刻んだ。
・ROMA
メキシコ出身でハリウッドで活躍するアルフォンソ・キュアロン監督の自伝的映画。都市に住む中産階級の少年の目から見た先住民召使いとの甘美な記憶。点描される革命と反革命の歴史。美しいモノクロームで描かれるネットフリックス・オリジナル。
・Cold War あの歌、二つの心
戦後冷戦で東西に別れた男と女の運命的な愛。背後には常にポーランドの民族音楽とジャズが流れている。モノクロ・スタンダード画面は1950~60年代、黄金期のポーランド映画を思い起こさせた。レア・セドゥに似た主演ヨアンナ・クーリクに見惚れる。
・アイリッシュマン
マフィアの殺し屋として生きた男の一代記。10代からの知り合いというロバート・デ・ニーロとマーティン・スコセッシが、お互いこんな時代を生きてきたんだよなと確認しあっているように感じられた。ネットフリックス・オリジナル。
・運び屋
90歳でメキシコ・マフィアが手がけるドラッグの運び屋になった男。役と同じ90歳に手が届こうとするクリント・イーストウッドが監督兼主演、しかもこれだけ面白い映画をつくってしまうとは化け物と呼ぶしかない。次も期待してしまう。
・帰れない二人
中国の炭鉱町で雀荘を経営する女と恋人のヤクザ者が流浪する。ジャ・ジャンクー監督と彼の映画のミューズ、チャオ・タオが出演した『青い稲妻』『長江哀歌』の地が再び舞台になって、改革開放の中国現代史を綴ってきた二人の集大成的な作品。
・迫り来る嵐
ノワールというジャンルは犯罪を通して、その時代の精神風景を描く。中国国営製鋼所の町を舞台にした連続殺人事件。閉鎖されようとする製鋼所の警備員を探偵役に、灰色の空と激しい雨のなかで時代から取り残された人々の姿が浮かび上がる。
・ジョーカー
貧しいピエロとしてつましく生きる男が、いかにして世間を騒がすジョーカーになったか。その不穏で、見る者をアジテートする画面は、貧富の格差が拡大した社会を背景に『戦艦ポチョムキン』のようなプロパガンダ映画の匂いを漂わせる。
・冬時間のパリ
印象派の絵画を映画にしたらこんな感じかな、というフランス映画。パリに生きる女優や作家や編集者が、おしゃべりと大人の恋愛に明け暮れる。日々の小さな出来事を切り取って、映画的愉しさに満ちている。
・ゴッズ・オウン・カントリー
ヨークシャーの牧場で老いた祖母や父と暮らす孤独な男と、東欧からやってきた季節労働者の男が次第に惹かれあってゆく。寒々とした風景のなかで展開する、ひりひりするような愛。地に足のついたリアリズムはイギリス映画の伝統だろうか。
Recent Comments